剣に誓え 『シーン』
「カウロス様を渡してもらいたい、シーン・タブラ殿」
わずか7騎の騎馬兵、その中の代表らしき男がシーンに向かって言った
シーンは前に出て警戒したクララ達を手で制止させると、睨みながら口を開いた
「お前ら、、、カウロス殿をどうするつもりだ?もしや全ての責任を生きている内に被せて、今回の不祥事をなあなあにしようって腹積もりなのか…?もしそうならお前達も同じ目に合わすぞ?」
シーンの怒り、それは打ち倒した元準騎士のカウロスの純粋な武人ぶりに敬意を表したゆえ
その怒りの気配に代表の男と周りの騎士、クララ達ですら額にじわりと汗を滲ませた
鋭い殺気と戦場の血の匂いに、各々が唾を飲む
代表の男が少し息を大きく吸って、静かに沈黙を破った
「我々はカウロス様を失う訳にはいけません、助けに参っただけです。それに責任はここの領主が負いますから、カウロス様が罰せられる事はありません。」
まっすぐとシーンを見て、男は語っていた
「それに、カウロス様の傷…その貫いた胸は急所を外しておられるのでは?危ない状況ですが我々の持つ『異形石』を使えば治癒できます」
「『異形石』…」
シーンが呟いた異形石とは大陸の辺境や秘境、海を越えた先の未開拓地などに潜む『怪物』たちの臓器や皮膚などから取れる事がある『非常に貴重』な結晶体で魔法のような効力を持つ。異形石の効力は物によって様々でどれも強力な為、よほどの豪商か国の管理下に置かれていることがほとんどであった
表情を変えないが、シーンの頭には数々の思考がめぐっていた
(なぜカウロスを助けにきた?一応急所は外したが瀕死のカウロスに貴重な異形の石まで使って生かそうとする意味は?貴族を切り捨ててまで奴らはカウロスを助けると言っている、裏に誰が?)
静かに目を瞑り、数秒後開くと。シーンは男に答えた
「カウロス殿は渡す…だが追っ手は出すなよ?剣に誓え」
「このベルナルド、己の剣と主に誓って…今回我々は手を引こう。かたじけない」
シーン達は倒れたカウロスの周りから20歩ほど下がり騎士たちを見守った
男たちはカウロスの鎧を外して手際よく胸の傷に宝石のような石をかざした
するとゆっくりその石は輝きだして傷がじわりじわりとふさがって行く。しばらくするとカウロスの傷はほとんど消えており、目は覚まさないものの静かに息をしているのが、シーン達からも見えていた
男たちは代表の男にカウロスを帯でくくりつけると、馬に乗せて町の門へと向かっていった
少し離れると男はシーンに振り向き、少し頭を下げてまた前を向く
辺りに盗賊の気配は無く後方に陣取っているであろう部隊も消えており、まるで何もなかったかのような静けさがシーン達の周りを包んだ
こうして、皇国への道はシーン達によって確保されたのであった
シーンに帝国の『何か』の意志の片鱗を見せて