作戦って言えるのかしら『リリーナ』
キャラバン倉庫を離れたリリーナ一行は、カインズの外壁の上にたって町の外を眺めていた
壁の外2町ほど離れた先には、即席で作られた柵や数台のバリスタなどの大型兵器が取り付けられており
盗賊とは思えない完璧な武装と陣に、リリーナは身震いをして自身の体を抱く
「先日より強固な陣地を築いてますね…」
ムーロンが険しい顔で盗賊達の陣を見ながら話しかける
「恐らく、後ろ楯がいるのでしょう」
リリーナは目を伏せて、現状の絶望を改めて認識した
「さて、我が姫」
シーンは、けろっとした表情でリリーナに話し始めた
「僕が考えている、町からの脱出作戦を話しましょう」
まず、とシーンは町の外に指をさした
「この町は両翼に高い山脈がそびえたっていて、公国側の正門か帝国中央側の裏門しかない」
シーンが説明した
カインズの町は皇国側から見ると、恐ろしく高い山脈で覆われており帝国中央へ向かうには山脈の間にある数少ない平地には要塞のような町を抜けなければならない
その町の一つがカインズで、皇国側へ向かうと平野が広がっており
そこではかつて国境での攻防があったため人が住み付かず
盗賊やはぐれ者達が廃村を拠点として活動していることもあった
「だから、盗賊を出し抜いてここを抜けても追撃されて終わる」
「じゃあ一体どうすれば!?」
リリーナが焦りシーン問い詰めると、シーンは淡々と続けた
「ここで盗賊を殲滅する」
冗談みたいな事を言うシーンに、誰も反論をしなかった
イタズラ好きの少年だったシーンの顔が
獲物を狙う獣のような、冷たい目をした武人の顔に変わっていたからである
「…勝算はあるのですか?」
リリーナが少し怯えたように話しかける
「無論」
冷たい声でシーンが答えて剣を抜いた
「まずは陣を崩す、クララは先行して陣の前で暴れてこい」
「うふふっ」
シーンが命令するとクララは手をヒラヒラさせながら壁の縁に立ちそのまま飛び降りた
5間ほどある高さだが、平気で着地してそのまま盗賊の陣地まで走って行った
「化け物かよ…」
ムーロンだけがそれを口にしたが、皆同じような事を思ったのは言うまでもなかった
「あれが出来るのはあいつだけだよ、僕も今びっくりした」
命令したシーンが驚いた顔をしており
一同が呆れた顔でシーンを見るなか、リリーナは眉間を押さえてつぶやく
「作戦って言えるのかしら…普通に強行手段じゃないの」