では騎士さま?私を助けてくださいな『リリーナ』
「要するに、抜ければいいんですよね?」
リリーナ達がもうダメだと喚いたり、なぜかいきなり笑いはじめたりしてるなか
シーンの一言が彼女らを現実へ引き戻した
しばらく目をパチパチとさせた後、リリーナはため息をつきこう言った
「シーン団長?この状況でどうやって500を越える盗賊の包囲網を抜けられるのですか?」
リリーナはさらに顔を強ばらせて続ける
「だいたいなんなのですか!?500って!軽く軍じゃないですか!そもそも何で傭兵があなた方しかいないのですか!?30人程しかいないって!普通300人ぐらいは最低でもいるでしょう!?国境近辺なんてそれこそ傭兵の仕事は沢山あるでしょう!?」
リリーナがまくし立てた、事実この町『カインズ』は国境に位置する
今回のような国境を超える為の商人、商隊の護衛や外交情勢による警備態勢の強化には傭兵は必要不可欠
そのため、仕事の無い傭兵には領地から雑用や仕事の斡旋などをして、傭兵を町に留めて一定以上の数を常に確保できるようにする仕組みを作っていた
これはゼル帝国だけではなく、どの国の国境にも同じような仕組みを導入している
リリーナも当然この仕組みを知っていた
知っているが故に”わからなかった”
なぜ傭兵の数が足りないのかと
シーンは目を瞑り答える
「あんたが敵国の元王女だったからじゃない?」
リリーナは唇を噛み目をふせる、わかっていたはずだが考えたくはなかった
そう言わんばかりの表情のリリーナにシーンは続けて言った
「この町はあんたの祖国とかなりやり合った戦場のひとつでしょ?もう三年…いや”まだ三年”しかたってないんだ、消えやしないさ傷も憎しみも」
リリーナは目をふせながらつぶやく
「そう…よね」
何も言いかえせなかった、この場にいる全員が
リリーナも商人達も
シーンの傭兵達ですらも
20年もお互いを傷つけ合い殺し合い、憎しみ合ってきた者達は
心の底ではお互いを許せないし、許されないとわかっていた
リリーナはそんな傷ついた人々を憂い王女の身分を捨てて商人になり、たった2年で大陸に根を張る大商人となって戦争の爪痕を経済によって癒すことに尽力した
だが、戦争でできた傷は人々の心の
もっと深く暗く、手の届かないところまで侵食していた
帝国だけでなく、皇国にも
憎しみと言う傷は刻まれている
ここにいる全員には、よくわかる事実
しばらくの沈黙の後、シーンは再び口を開く
「だが」
シーンは目を見開き続ける
「俺達はプロの傭兵だ、報酬が出るなら仕事はする」
ニヤリとイタズラ好きな少年のようにシーンは笑うと、リリーナに向かって持っていた剣の柄の部分を渡し片膝をつく
「騎士ってこうやって忠誠を誓うんでしょ?やってみたかったんだよね」
驚くリリーナに、シーンはさらに続けた
「あなた方を無事に皇国に送り届けると誓う、報酬にかけてね」
ウィンクしたシーンに、思わず軽く吹き出すリリーナ
少し潤ませた瞳をしながらリリーナは告げた
「では騎士さま?私を助けてくださいな」