こんなものか… 『エリック』
都市ノリスの郊外にある廃村にて
廃村には人影もなく
ただ
強烈な腐乱臭が漂う
「この臭い…」「でも…」「死体は見当たらんぞ…?」「どこから来てんだ?この臭い」
戸惑うシーンやエリックの部下達を前にに、シーンは決断する。
「とにかく、この村で何が起きてるか調べるべきだ。五人一組で別れて行動するぞ、この村にある鉱山を背にして拠点にするから君らは何か見つけたらここに向かって報告してくれ」
それなりに大きな廃村で、部隊がバラバラになる為
シーンは集結する場所を目立つ鉱山前に決めて、情報収拾にあたる作戦をたてた。
「拠点から狼煙が上がれば、一斉に集結する合図だ。あとこの笛を鳴らした時は全員戦闘態勢で集結しろ」
『ブォーーーーーン』短く鳴らした角笛は大きさこそないものの、かなり耳にのこる音を鳴らす
低すぎない笛の音は、遠くから聞いても気づけるようになっており。シーン達はもちろん、エリックの部下達も癖のある音色を記憶した。
「それじゃあ別れて捜索をしてくれ、くれぐれも気をつけて…何かがおかしいから」
別れた5人組のリーダー達にシーンは言葉をかける
珍しく不安そうに呟くシーンにリーダーの一人ミリーは食いついた。
「おかしい?ってなにがよ。早く教えなさいよ」
そんなシーンとは違い、いつもの不機嫌なミリーの様子を見て少し微笑むと。シーンはミリーの問いかけに答える。
「この臭い、少し嗅いだことがあるかも知れない…これは死臭や腐敗臭なんかじゃあないと思う。それに気づいている者達は少ないがうちの団員の数名が人の気配を微かに感じている。僕も君も含めてね」
ミリーは少し目を丸くすると意外そうに言った。
「あら、団長も気づいてるんじゃない。まあ隠れるのが上手いのは厄介よね。エリックの所の奴ら死んじゃうんじゃない?」
びっくりするほど配慮に欠ける発言に、一緒に聞いていたエリックも少しムッとした表情を見せる。だが、シーンの信頼している手練れの部下が言うのであれば、そうなのだろうと納得する。
理由は明白、エリックにはシーンとミリーの言った気配にまったく心当たりがないからだ。
「エリック、心配しないでいい。気配それほど多くはなかった。せいぜい20…多くて30人ぐらいだ。」
「そんなにいたのか…」
さらに落胆するエリック、それだけの人数が気配を消してこの村に潜伏していれば、せめてその半分は気づいてもいいはずだと。
「だからおかしいんだよ、普通は気づく。それにこの臭いは多分…幻覚を起こす作用の何かが含まれてる可能性があるかも」
「これが例の?だが…」
エリックは自分たちが前から調査していた違法薬について思い出す。
ノリスに横行していた違法薬は粉末状のもので、水や酒に溶かして飲んだり、葉巻に混ぜて吸引したりと様々な方法で効果が出る為
違法薬の検挙は大変難しく、その凶悪な性質は国や民を脅かすものとして殆どの国では違法となっていた。
だが、その効能に目をつけた一部の貴族や学者達があるものを研究していたという
「まさか…幻煙…?」
エリックが思い出したかのように口に出した『幻煙』という単語
それはかつて、違法薬の有用性を見いだそうとしたある学者が作り出した副産物で
違法薬の幻覚作用を煙幕に含ませ、煙幕の内側の人間を軽い錯乱状態にする効果を持った兵器
幻覚作用といってもかなり薄い効果で、せいぜい周囲の音が聞こえなくなったり、逆に風の音や虫の羽音がうるさく聞こえたり
周囲の人を認識する能力が低下したりするような小さな効果
だが、この状態になると伏兵や奇襲の成功率が格段にあがるため
戦争中では、まれに使用した例が非公式ながらあった
「僕もこれは引っかかったことあるけど、悲惨だったよ」
そう言ったシーンは、苦虫を噛んだような顔をする。
「だとしたら分散したのは間違いだったのでは?」
エリックが少し焦ったように問う。
「いや、分散させたことによって奴らの狙う場所は一つになった」
エリックはハッとした顔でシーンに言った。
「部隊の頭…つまり僕たちの所か!」
エリックの思考がまとまった時、エリックは自分の意識が徐々に冴えてくる感覚に襲われる。
サ… ササ…
布の擦れる音
周囲がやがて何か黒い陰に囲まれている
エリックは意識がハッキリした瞬間剣を抜く
周囲には剣を構え、黒衣を纏った兵が8名程とその後ろにも同じ人数ほどの兵が待ち構えていた
「まさか、あと数歩で間合いまで入ってくる程近くだとはね。シーン!笛を吹け!」
『ブォーーーーン!ブォーーーーン!』
シーンの部下数名が敵の後ろを囲んで構える
そうして廃村での初の戦闘は開始された。




