大歓迎だね 『シーン』
城塞都市ノリス
かつて帝国の手に渡った都市の内の一つであったが、戦争終結の手前で皇国が必死になって取り返した。そして戦後の傷は深々と残っているものの、未だに皇国では首都と並ぶ強靭な城壁と内部の複雑な町の造りになっており、占領した帝国兵たちから『迷宮都市』と呼ばれていた。
この都市の造りを有用に活用できなかった帝国軍は、都市内部に密かに潜伏していた皇国軍と外部の皇国軍に挟まれて最終的には手放さなければならなかったという。
そして今、その都市の城門に、リリーナ一行はたどり着いてた。
「これはこれはリリーナ様、ご無事で何よりでごさいます」
騎乗した装飾の多い服装をした30代半ばの風貌の男性が、リリーナに話しかける。
「重そうな服ね、ウェンバリーズ卿」
ふふっと笑いながら話すリリーナの表情に警戒の色はない。
「一応リリーナ様も皇族の一員ですからな、それなりの服装でお迎えをしなければならんのですよ」
無表情で無礼ともとられる態度に、リリーナの表情はなぜか更に柔らかい表情をした。
「相変わらずですねウェンバリーズ卿。帝国へ出向く際もこの町から向かったのですから、何もこんなに仰々しい迎えは不要ではないですか?」
リリーナの言う通り、城門の前には重装備の兵が50から60人とウェンバリーズ卿と呼ばれた男の側には8騎ほどついていた。
「おや、大歓迎だね」
馬車から顔を出したのはシーンであった。ウェンバリーズ卿は顔を見ると無表情のまま話しはじめた。
「君がシーン君かね、ずいぶん若いのだな。私はこの都市と辺りの領地を統括している辺境伯、リカル・ゼン・ウェンバリーズだ。君たちの事は密偵達から聞いているよ、姫様を助けていただ礼をしたいのだが…まあこの街では君たちをあまり歓迎すると気に触る人間が多いものでね」
「なんとなくそんな気がしてたよ」
わざとらしくため息を吐いたシーンに続けるうウェンバリーズ。
「君よりそこの見覚えのある淑女のせいだかな」
リリーナの馬車にいる人物を指さして言った。
すると中から諦めたように出てきたのはクララであった。クララは少し気まずそうに声をかける。
「あー、久しぶりね?ウェンバリーズ卿。元気そうで何よりだわ」
「久しぶりですなバルバトス殿。貴方に拘束された時よりは元気ですよもちろん」
兵たちがざわめき出す。それもそのはず、このノリスはバルバトスの軍に占領された拠点の一つであり、この都市の兵達の半数は当時の生き残りで構成されていた。
なぜ半数も生き残っていたかというと、ウェンバリーズが早期に降伏して民と兵達の助命を自らの首と引き換えにしようとしたからであった。
だがバルバトスは多くの残党が残ったノリスの牽制として、ウェンバリーズを殺さずに生かして拘束していた。
人質として生かして置いた結果、ウェンバリーズの部下たちも奪還寸前まではなりを潜めていた。結果的にはノリスは奪還されたものの、当時潜伏していた兵達には地獄のような暮らしと屈辱は今でも忘れられないという。
『ノリスの元に同士あり』
皇国軍将軍の一人ランゴ・フラッセがノリス奪還作戦の時に放った文言が格言になったほどである。
『ノリスのような死地にも、救うべき仲間や友人家族がいること』という意味として。
それほどまでにノリス奪還は皇国兵の間ではかなり有名な大戦であったため、当時を知る兵はバルバトスの事を『屍の女王』と呼んで恐れていた。
バルバトスを囲んだ兵が屍の山になって、そのまま城壁のように積み上がっていく様を見て皇国兵がつけた異名である。
特にノリス兵の間では恐怖と憎悪の対象であり、それを見た兵達は皆口をそろえてこう言った。
『悪夢を見た』と




