彼女は元騎士なのよ? 『リリーナ』
帝国と皇国の境。ソーマ平野と呼ばれる広い草原を走る十数台の馬車の一つで
リリーナとミローネ、シーンとクララの4人が会話をしていた
「確かに、姫様達を助けたのはあたし達だけど。そんなに信用してもいいのかしら?」
イタズラっぽい笑みをみせるクララがリリーナに言った
元帝国の軍人が敵国の王族と一緒に馬車に乗る光景は確かに異常、そういった意味ではクララが疑問に思うのは当然の事である。
「そうね、あなた達が信用できないわけじゃないのだけど。私だって護衛無しでここにいるわけじゃないわよ?」
リリーナは首をかしげながら、当然のように答えた。
しかしミローネの方を見て納得し、二人に説明をする。
「ああ、この子が私の護衛なの」
目を丸くする二人
ミローネは華奢で可憐な少女のような風貌で、少しおどおどとしている美少女。実際、シーン達を雇った際もリリーナの前で自分の不甲斐なさゆえに泣いてしまうような繊細な人間であることが、付き合いの短い二人にもミローネの性格を決めつけるには十分な出会いであった。
故に
二人は警戒をはずしていた、この武人への警戒を。
「君すごいね」
シーンは短くそう言うと、クララは『ぷっ』と吹き出し笑いながら続けた
「ほんとっ…すごいわっ…ぷっ…よく見たらなかなかの手練れでっ…」
なぜかツボに入るクララにミローネはあわてて自己紹介をする。
「すいません!警戒するとついぼーっとしちゃって!命の恩人には失礼でしたね…改めまして、リリーナ様の身辺警護と雑務をしておりますミローネと申します」
リリーナは自慢気に続けた
「ミローネは元近衛騎士の部隊長だったのよ。彼女に戦って勝てる人はそうそういないんだから、すごいわよね」
よしよしとミローネを撫でるリリーナは微笑みながらそう語った
皇国の近衛騎士は、帝国や王国でも名が知れ渡っている。その理由は、皇族を窮地から何度も救っている英雄達のほとんどが近衛騎士たちだからである。
ある時は貴族達のクーデターを阻止、ある時は他国の暗殺者を返り討ち、ある時は犯罪組織から拉致された重要人物を救出するついでに組織を壊滅させたり。
噂に尾ひれがついてると言うものもいるが。それを加味しても尋常じゃない功績と実力を持つのが、皇国の近衛騎士達であった。
もちろんこの事を十二分に理解している元帝国軍人の二人は、むしろ理解に苦しんだ。噂の近衛騎士の一人が目の前の女性であるという事実。
シーンは、驚きを何とか隠しつつ質問をした
「それで、護衛なのになんで武装してないの?これでも僕たち結構強いよ?」
両手を上げて少しふざけた口調で話すシーンにミローネが返す
「わ、わたし素手の方がその…強いので!」
おどおどしたミローネが同じように両手を上げて話す、するとクララがシーンに話しはじめた。
「あら、団長は知らないの?皇国の近衛騎士には無手から相手を制圧する訓練をしているそうよ。実際に近衛騎士と戦った帝国軍人が言っていたわ」
ミローネが少し強ばった顔で話す
「捕虜の方が知り合いに?」
クララは笑みを崩さず答える
「あら機密情報だったのかしら?近衛騎士の一人が自慢気に話していたそうよ?」
ふふふと笑いながら話すクララに、さらに険しい顔をするミローネがぶつぶつと何かを言っている。
恐る恐るリリーナはミローネに質問する。
「そ、その話した騎士ってもしかして?」
「ええ…恐らく私の弟です…!」
「やっぱり」と頭を抱えるリリーナと更に恐ろしくなった顔になるミローネ。
「今度あったら折る…!」
ミローネの発言に若干シーンは苦笑いをして、クララはこらえきれず「あはは」と大きな笑い声を上げた。
その時、リリーナの商隊は国境を超えて最初の町、城塞都市『ノリス』の入り口まであと一晩でたどり着くというところであった。




