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9 むらむらの正体

 ディアスは耳まで真っ赤に染めて地面に突っ伏してしまった。


「これ以上……耐えられない。頼むよルーナ、俺が暴走する前に逃げて」

(逃げるって、なぜ? わたくし何かを間違えてしまった?)


 ルーナは戸惑っておろおろとする。

 そこへ、天からけたたましい女性の笑い声が響いた。


「おーほっほっほ! 愉快、爽快、痛快だわぁ」

「誰!?」


 仰ぎ見れば、輝くばかりの白い肢体を申し訳程度の小さい絹で覆った露出度の高すぎる女性が空から降ってきたところだった。


「まさか、魔女?」


 思わずつぶやくと、彼女はキッとこちらをにらんでくる。


「女神」

「女神さま……?」

「そう。わたしは愛と性の守護神、女神フレーズさまよ」


 居丈高に宣言する彼女は、虫けらでも見る目をディアスへ注いでいる。


「もしかして、ディアスに呪いをかけたのはあなたなのですか?」

「ご名答。ざまぁみろ」

「仮にも女神さまが、なぜそんなひどいことをなさるの?」

「まあ、うふふ。今一番ひどいのはお前よ」


 挑発的な言葉に、ルーナはかちんときた。


「なぜですか。わたくしは心からディアスを心配しています。早く苦しみから解放してあげたい」

「じゃあ、してあげなさいな。お前が身をゆだねれば、その男も一時的にスッキリできるでしょうよ」


 その言葉に、ディアスが苦しげながら反抗する。


「絶対嫌だ……!」


 ルーナは汗ばむ彼の手をしっかりと握り、フレーズをにらみつける。


「ディアスが嫌がることはわたくしも嫌です。それに、一時的だなんて意味がありません。呪いを解いてください」

「むらむらの呪いを解くにはねぇ、その男がわたしをむらむらさせなきゃいけないのよ。この愛と性の女神フレーズをね」


 勝手極まりないことを堂々と言ってのける女神を見ているうち、ルーナの胸にはふつふつと熱い感情が湧いてきた。


(なにかしら。すごく……心がかき乱されて気持ちが悪い。もしかして――これが、『むらむら』?)


 はっと気づく。

 そうとわかれば、行動あるのみだ。

 瞳に炎を灯し、びしっと彼女を指さして宣言する。


「絶対に呪いを解いてみせます!」

「ほーう、言ったわね? じゃあ、見せてもらおうじゃないの」


 フレーズは高みの見物をするとばかり、空中で腰掛け、長い脚を組む。


「ルーナ、どうするつもりだ?」


 困惑し果てているディアスを、励ますように起こす。


「簡単よ。わたくしたちで女神さまをむらむらさせればいいのでしょう?」


 彼女はきっと激情しやすいタイプだ。だから、そのプライドがへし折られればきっとむらむらして呪いが解けるに違いない。


「俺たちでむらむらさせるって、つまり、ここで君と――……ごほっ。その、()()()? ……して、見せつけるという意味であっている?」


 歯切れの悪いディアスの言葉に焦れながら、ルーナは大いにうなずく。


「そうね。わたくしたちが平然として仲良し具合を見せつけるのがいいわ」


 ディアスが苦しむ姿を見て「ざまぁみろ」とのたまった女神だ。こちらが呪いなんかに負けない姿を見せれば、敗北感に打ちひしがれること請け合いだ。


「ルーナ、本気で言っているの? こんなところで……『溺愛』して、大丈夫? 本当に俺を嫌いにならない?」


 なのに、なぜかディアスはまだしつこく尋ねてくる。

 早く呪いを解いてあげたいと焦る気持ちもあって、ルーナは語調を強くした。


「絶対にならないって言っているでしょう。あなたが溺愛してくれるのなら、わたくしだってむしろ大好きになるから――存分に見せつけてあげましょう!」

「ルーナ!!」


 堰が切れるような勢いで、ディアスがルーナを抱きしめてきた。


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↓こちらもどうぞ。連載小説です↓
『見た目は聖女、中身が悪女のオルテンシア』

↓完結小説はこちら↓
『後宮恋恋』

『愛され天女はもと社畜』

『聖女のわたくしと婚約破棄して妹と結婚する? かまいませんが、国の命運が尽きませんか?』

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