10 溺愛 ※
R15的表現がございます。苦手な方はご注意くださいませ。
(え……?)
ディアスがスカーフをはぎ取った。
美貌が迫り――唇がふさがれる。
突然の感触に、ルーナはびっくりして目をみはった。とっさに両手を突っ張ろうとするが、がっちりと抱き留められていて叶わない。
「――、……っ」
喘ぐように息を吐いたところで、隙間から何かがぬるりと侵入してくる。
「っ!」
その正体を確かめる間もなく、口中が甘く満たされ、支配された。
(な、に……これ……?)
問いかけるまなざしは、濃厚な熱を孕んだ瞳に受け止められる。
「ルーナ、かわいい……、大好きだよ……」
いったん解かれた口づけは、愛の言葉と共に再開する。
唇の端をついばみ、口角が緩むとそこから、先ほどと同じものが中へ押し入ってきた。
「んぅ……、ディア、ス……」
今度はそれがなんなのか、わかった。
意識するととてつもなく恥ずかしいが、不思議と胸は歓喜にときめいている。
「ずっと……こうしたかった」
(そう……なの?)
彼はずっと何かを堪えていた。したかったこととは、深いキスだったのか。
ルーナが彼の額に口づけをしたとき、困ったような反応をされたのは、ほしい場所が違ったからだったのかもしれない。
口づけしながら彼の手は、壊れ物にふれるようにルーナの銀の髪を梳いてくる。
その優しい手つきと、反して、奪うような舌づかいに翻弄される。ルーナはすっかりぼうっとしてしまった。
「ルーナ、嫌じゃない……?」
(嫌なんて……そんなわけ、ない)
言葉で応える代わり、口中で暴れる彼に自らの舌先を寄り添わせる。
「ああ、本当に……かわいい、たまらない……」
励まされたのか、愛撫の勢いが増す。
小さく未熟なルーナの唇は、いつの間にかぽってりと腫れていた。その痺れるような感覚まで甘く、身を焦がす。
そのうち、髪にふれていたディアスの手は、背中を伝って腰のくびれを撫で始めた。
「ん……、あ、あ……」
撫でられているのは腰なのに、悪寒めいた快感が背筋を駆け上る。おまけにあらぬところが甘く疼いた。
(なんだか……なんだか……)
いたたまれないような。もどかしいような。
だけれど、やめてほしくはないような。
妙な心地に酔いしれて、ディアスの首にぎゅっとしがみついた。二人の距離がいっそう近づき、早鐘のように打ち付ける鼓動が二つ、合わさる。
「は……ルーナ」
吐息混じりの彼のささやきがひどく低く、耳を犯す。
口づけは、解けては角度を変えてまた合わさり、永遠とも知れず続く。
いつしかルーナも甘い交歓に夢中になって応えていた。
「……、ふ……」
舌先を吸われると、身体の芯が熱く熟れて、たまらなくなる。
身も心もディアスでいっぱいで、苦しいほど彼が愛おしい。
もっと彼にすがりつきたいのに、身体から力が抜けて……ふにゃふにゃになってしまう。瞳には生理的な涙が浮かび、潤んだ熱い瞳でディアスを見つめた。
「っ」
ふれあう彼の心臓が、ひときわ大きく跳ねる。
腰回りをもどかしく撫でていた手が、大胆に動いて――。
「ちょっとお前たち! 二人の世界に入りすぎよ!!」
突然響いた怒号に、二人は我に返った。
「わたしをむらむらさせてくれるんじゃなかったの!?」
同時に見上げたそこには、顔を真っ赤にしてわなわなと震える女神フレーズがいる。
「やだ……、見られていたの、忘れていたわ……」
「俺も。ルーナがかわいすぎて、夢中で」
「ディアスったら、嫌よ、そんなふうに言うの、恥ずかしい……」
「恥ずかしがっているルーナもかわいい。大好きだ」
「……わたくしも、好、き」
「ああ! かわいい! 好き! だから、もっとしてもいい?」
「あ……だめ……、んっ」
「だめじゃないよ……ルーナ、は……っ」
恋人たちは再び女神の存在を忘れて愛の営みに没頭する。
フレーズは頭から湯気を蒸かして怒りくるった。
「ぐ・や・じ・い! こんなにコケにされたのは初めてよ!!」
そこへ、天からまた別の声が響く。
「フレーズよ、そなたは女神失格じゃ」
「大神さま!?」
「愛と性の守護神を名乗りながら、恋人たちに嫌がらせするとは何事だ。罰として、女神の地位をはく奪し、人間界での修行を申しつける」
「嫌あ~~~!!」
空を飛ぶ力も一緒に失ったフレーズは、どしゃっと地面に落とされる。
そのすぐ横では、たった今女神ではなくなったフレーズをあざ笑うかのように、恋人たちが戯れていた。
「ルーナ、愛しているよ」
「わたくしもよ、ディアス……」
とうに呪いの効果は切れている。
それでも、二人はいつまでもいつまでも互いの愛を確かめあっていた。
‐完‐
読んでくださってありがとうございました。
なんとか連休中に完成できました!
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
もしよろしければ今後の励みとさせていただきますのでブックマークや★評価などお願いいたします。
下記、連載中の長編『見た目は聖女、中身が悪女のオルテンシア』も毎日更新頑張っております。また遊びに来てくださると嬉しいです。
https://ncode.syosetu.com/n5971id/




