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16 魔族

洞窟に侵入してから一時間ほど。


魔物もおらず土壁の続く内装はごくありふれた天然洞窟だと思えてしまう。

が、その仕掛けられた罠の様子から意図的に設計されたダンジョンであると否応なく確信させられた。

本来、ダンジョン探索の楽しみであるはずのお宝の発見にもれなくタチの悪い罠がセットとか、ほんと嫌らしい。

幼少期に大洞窟を探検するハリウッド映画を無邪気に面白がっていたが、当事者の苦労というものをあの時の俺に教えてやりたい。


まだボス戦が残っているというのに、探索だけで過去一番過酷な依頼だと断言出来る。

これで大した稼ぎにならなかったら許せんな。


そんなこんなで精神的にヘトヘトになりつつも、やっとこさ最深部らしき場所へと行き着いたのだった。

ここが終点だと思う根拠はこのダンジョンで唯一感じ取れた気の持ち主がいるからに他ならない。



「暗いな」

エコウはすぐさま魔法で辺りを明るく照らす。

そこは立ち見ならキャパ千五百人はいけそうなほど、広々とした空間。

天井も高く、ボス戦にはうってつけの決戦場だ。

ただ一つ、不釣り合いな物体を除いて。


「あれはベッド……だよな」

天蓋付きの豪華なダブルベットが一台。

この世界で初めて目にする寝心地の良さそうな一品が広場の中心に鎮座している。

その異様な光景に皆一斉に警戒心を跳ね上げた。

それと同時に、


「随分、遅いお着きですね」

「!」

「ここまでの道中、楽しんで頂けましたか?」

不意に男の声が聞こえてきた。

声の主は勿体ぶる事もなく、柔らかそうなカーテンの中から姿を現し、そのままベットに腰掛けた。


「……あんたがダンジョンマスターの魔族?」

「ええ、人間の間では『ヴァンパイア』と呼ばれる種族です」

男は徐に立ち上がり、その全身を露わにする。


鋭い目つきに美形で青白い肌。

高身長ですらりとした体格だが、均衡の取れた筋肉のおかげか弱々しさは感じられない。

年はその顔付きから二十代後半くらいか。

ヴァンパイアは長寿のイメージがあるので本当の年齢はもっと上だろう。

感情の読めない表情や不気味な佇まいはまさにイメージ通りの吸血鬼と言える。

この距離だとわからないが、牙も生えているなら信憑性はさらに増すが。


人間の貴族に擬態しているのか、刺繍の入った白のトップスにゴシックで合わせた黒のズボン。

色素を失った白いウェーブ掛かった長髪と相まって、魔族として高貴な存在を演出している。


「ヴァンパイアとは……確か人間の血を食料にすると聞いたことがあるが、本当か?肉は食べないのか?」

道中宣言していた通り、魔族についての疑問をエコウは直接本人にぶつけた。

臆する事なく、素直に質問するとは実にエコウらしい。


「少し語弊がありますね。我々は血を媒介として、人間の生命力と魔力を栄養としています。基本的に肉は食しません」

「ほほう」

意外と真摯に答えてくれた。

その生態が本当であるなら、このダンジョンの目的はエサの確保となる。

だとすると、途中で引き返したところで退路は断たれていたかもな。


「じゃあ、道中魔物がいなかったのは自分で捕食する為か?他に仲間は?」

「魔物は管理が億劫なもので。それに私は一人が好きなのです」

確かにマンガや映画でも吸血鬼が仲間と群れているシーンはあまり見ない気もする。

眷属として、途中にいたコウモリを連れているくらいか。

あとは吸血した人間を眷属、もしくは操るイメージもあるが、この空洞にそれらしい姿はない。


「他に質問は?」

紳士的な態度で応答しているが、その目は恐ろしく冷たい。


「では、ついでに聞きますけど、このお宝に付与されている効果を教えてください」

「それはここを出てからのお楽しみで。勿論、出られたらの話ですが」

「そう。あの嫌らしい罠はあんたの趣味ということでいいのかしら?」

「危険も代償もなく、財宝を得ようとは虫が良すぎると思いませんか?」

「……なるほどね。丁寧に答えてくれて、ありがと」

所詮は敵の言葉。

どこまでが真実か……。

口ぶりからカカもニニも間に受けてはいないだろう。


「逆に質問があれば受け付けるけど」

「では、こちらからも質問を」

「どうぞ」

「貴方達は私を退治に来たのですか?それとも財宝に誘われて?」

「どっちもよ」

「実力に期待しても?」

「お宝に見合うほどには」

「それは重畳」

どうやら向こうも退屈していたのか、強い相手を求めているようだ。


上等!


答えに満足したのか、ヴァンパイアは表情を変えずにゆっくりと右手を前へと差し出した。


「!」

どこに隠していたのか。

マントを靡かせるように背中の翼を広げた。

どうやらヴァンパイアであるという言に偽りはなさそう。

ただの顔色の悪い引きこもりの若者ではなかったようだ。


問答は終わり、ここからは肉体言語での会話へと移行する。

体を大きく見せるという自然界では威嚇とも思えるヴァンパイアのポーズが、戦闘開始の合図となった。


「ゆけっ」

ヴァンパイアが先手を取り、翼から無数のコウモリを召喚。

獲物に群がるよう、一斉にこちらへと向かってくる。

日本にいた頃はコウモリを生で見る機会はがなかったが、慣れてないとその気持ち悪さに鳥肌が立つ。

それが大群ともなると思わず逃げ出したくなる所だが、


「風の刃!」

エコウの凛とした声と共に切れ味抜群の風の真空波が迎え撃ってくれた。

俺が情けなく狼狽えている間に、すぐさま得意の風魔法で迎撃してくれるとは何と頼もしい事か。

一匹でも抜けてきて噛まれたりしたら、どんな状態異常に掛かるか分かったものではない。

何の強みもない眷属をただ戦場に投入することはないだろうからな。


ボドボドと地面に墜落していくコウモリたちを尻目に、杖を構えたカカは全員に強化魔法を順に掛けていく。

ニニは剣を抜きつつ飛び込むタイミングを見極めている。


そして俺は狙いを分散させる為にその場から移動し──


「波っ!」とエネルギー波でヴァンパイア本体を側面から狙う。

魔族相手に力をセーブする必要はないが、洞窟が崩れないように配慮しなければならないのは非常に難儀だ。

加減を間違えて崩落させれば、もれなく全員生き埋めとなる。

相手を倒せても自分たちが自滅しては元も子もない。


エネルギー波というこの世界の魔法とは違う、迫り来る脅威を前にヴァンパイアは意外にも焦りの表情を見せず、冷静にコウモリの召喚を中断し、真上に飛んでスレスレで躱した。


「避けられた!?」

目標を外れたエネルギー波は壁を大きく抉り、空洞を拡張する。

直撃でもおかしくないタイミングだというのにその反応速度と瞬発力は常人のそれではない。

自信家なボスキャラだけあって、秒殺とはいかなかったか。

しかし加減しつつも地面を揺らすほどの破壊力は見せつけられた。

これである程度の圧は与えられたはず。


「これはこれは」

土埃が舞う中、翼の浮力でゆっくりと着地するヴァンパイア。

白い髪が靡き、両翼を羽ばたかせていない所を見るに、エコウと同じく風魔法で浮遊しているみたいだ。


驚いているのか、感心しているか。

粉塵に気を払う様子もなく棒立ちしているが、その目線の先には俺が映っている。

初見殺しはならなかったが、警戒心は確実に植え付けられた。

その証拠に明らかに意識がこちら側に向き、身体も相対している。


狙い通り。



「甘い!」

土煙に紛れたニニがヴァンパイアの視界の外から現れ、折り畳んだ翼ごど無防備な背中を斬り裂いた。


「ムッ!」

ヴァンパイアはすぐさま振り返り、反撃を試みるが一歩遅い。

一撃離脱でニニはすでにその場にはいなかった。


「手応えは?」

「まあまあ。でも、嫌な感じがして追撃は敵わなかったわ」

見事危機を察知し、距離を取ったニニはエコウの問いに答える。

チャンスに見えたが、戦士としての勘に従ったようだ。

それでも隙を逃さぬ鋭い嗅覚で、一先ず奇襲には成功したのは大きい。


傷の深さはいかほどか。

頑なに表情を崩さないヴァンパイアからは何も読み取れない。

ただ静かに背中の傷口を探る姿には怖気が走る。

片翼でも斬り落とせていれば、その顔色も変えられたか。

ヴァンパイアは指に付いた血を一瞥し、擦って消す。


「素晴らしい連携ですね」

「なかなかのものでしょ」

「ええ。感心しました」

ほんとかしら? と、ニニは剣を構えたまま満更でもない顔つき。

それだけ上手く不意を突けたということだ。


「では、まずその連携を瓦解させましょう」

そう言ってヴァンパイアは細長い指先をニニへと向け、指を鳴らした。


次の瞬間──


「痛っ!」

突如襲いくる鋭い痛み。

得体の知れない違和感を感じたニニは慌てて、首筋を左手で押さえる。

離れた位置にいる俺たちからは何が起きたか全くわからない。


「どうした!?」

急いで駆け寄るカカ。

覗き込むとニニの手には、一匹のコウモリが握られていた。


「やられた……!」

悔しさにその捕まえたコウモリを反射的に地面に叩きつけ、剣で突き刺す。


一体いつの間に……どこから現れたのか?

もし背後から飛んで来たとしたら、いくら素早くても羽音に気付かないはずがない。


「くっ……!」

その疑問が解決する前に、ニニは早々に膝を付いて倒れ込む。


「ニニ!」

慌ててカカが助け起こすが、目を閉じたまま苦しそうな息遣いをしている。

その症状は少し前の自分自身を見ているかのよう。


おそらく毒。

俺も思わず駆け寄りそうになったが、その隙を突かれると本能的に判断し、ヴァンパイアの次の動きを注視せざるを得なかった。

それほど視界から外せない相手。


「死角を突く攻撃。参考にさせてもらいました。お互い目に頼るだけではいけないと今後の教訓にしましょう」

「どういう意味だ?」

「いえ、斬られた時に一匹。背中にプレゼントしただけですよ」

どうやら土煙を利用していたのはニニだけではなかったようだ。

予め土煙にコウモリを待機させ、奇襲のカウンターに忍ばせるとはとんでもなく強かな相手。

こちらに傾きかけた戦いの流れが止まってしまった。


戦闘慣れした猛者の風格。

その経験値の高さからやはり見た目よりずっと長く生きていていて、いくつも修羅場を潜ってきたか。

口数が減らない様子からその余裕が感じられる。


「それとその毒。普通の解毒薬だけでは衰弱死する猛毒です。ただし、解毒しながら治癒魔法を掛け続ければ、おそらく助かるでしょう」

「……随分と親切だな」

「私に傷を負わせた勇敢な少女です。これくらいは」

真偽は不明だが、カカは言われた通りの処置を施す。

信憑性は薄くとも命に関わる以上、無視は出来ない。

おかげで、一度に二人を戦線離脱させられた。


上手いな。

こちらの心理に付け込む試合巧者。

戦況は変化し、ここから第二ラウンドとなる。



「次は俺が肉弾戦を仕掛ける」

「では後衛は任されよう」

ニニの事はカカに任せ、俺たち戦闘民族はミッションを遂行する。

エコウと共に。

一人ではなく、二人で。


「コウモリの対処を頼んでいいか?」

直感は働くが、今のなりきり度では戦闘中に気を探る技術までは身に付いていない。

特にコウモリは気が小さく、余程集中しなければ気付けないほどの厄介者。

ニニのように不意を突かれないよう、エコウにサポートしてもらえれば安心して戦える。


「ああ。すぐに終わらせてくれて構わんぞ。ただし、洞窟を崩壊させるような大技は控えてくれ」

「わかった。オラ、ワクワクしてきたぞ!」

定番のセリフを決め、少しでもなりきり度を上げる。


ここからは本気の本気。

無論、初撃から本気ではあったのだが、人数の有利もなくなり精神的な余裕もなくなった。

加えて、武器を持たないタフな相手との格闘戦も初めて。

一方で、ようやっと作中通りキャラの力を存分に発揮出来る相手に巡り合えたかもしれない喜びも感じていた。

セリフの通り、本当にワクワクしている自分がいる。



「だあっ!」

第二ラウンドのゴングを鳴らすのは俺。

弾丸のように跳躍し、高速で拳で繰り出す。

避ける隙も許さない顔面を捉えた渾身の一撃。

いつもならこの一発で終結となるが──ドスン! と片腕で受け止められた。


「チッ!」

拳から伝わる感触はまるで極太の巨木を殴った時のよう。

涼しい顔を見せるヴァンパイアの肢体はかなり頑丈そうだ。


驚きと同時に嬉々とした感情も無意識の内に生まれてくる。

これまで全力を出し切る事なく、全ての勝負が決してきた身からすると、やっとまともに拳で対話出来る相手と巡り合えたのだ。

今のなりきり度の限界が知れるかもしれない。


「でやああーっ!」

テンションが上がってラッシュが止まらない。

左右の拳の連打。

ヴァンパイアは下がりながら捌き続ける。

いつもは序盤、相手の出方を窺うために受け身の姿勢でいたが、今回は違う。

作中の激しいバトルを再現出来る貴重な相手だ。

パンチとキックを織り交ぜたコンビネーションを思い出しながら一気に押し込む。

この怒涛の攻撃にここまで背中を切られても表情を崩さなかったヴァンパイアもとうとう無表情ではいられなくなった。


「くっ!」

防戦一方のヴァンパイアはたまらず上へ飛んでこちらの猛攻から逃れようとする。

クリーンヒットこそないが、その苦しそうな表情から防御していた両腕に蓄積ダメージがあるのは確実。


だが、逃がさない。

追撃するべく跳躍したところ、天井近くに浮遊するヴァンパイアはまたも複数のコウモリを召喚してきた。

眼前に迫るコウモリにまたもギョッとさせられる。


しかし、


「連携はまだ途切れていないぞ」

「なっ!?」

初めて発せられるヴァンパイアの喫驚。

俺の背中越しに飛び出してきた風魔法により、召喚したコウモリが一瞬で全て撃ち落とされたのだ。


「オラッ!」

墜落していくコウモリを掻き分け、跳び上がった勢いを殺さぬままの一撃がついにヴァンパイアの顔面へクリティカルヒット!

後方へ吹き飛ばし、天井へと激突させた。


「エコウ!」

オーダー通り、風の刃で精密な援護射撃をしてくれたようだ。

エルフの魔法は人間の魔法使いと違って杖を必要としない。

種族の特性として、体内で魔力を魔法に変換出来る為、より高度で精密な魔法のコントロールが可能だという。


この好機に可能ならエネルギー波まで繋げて一気に勝負を決めたかったのだが、天井を崩しかねない位置だったので一先ず断念。

感触としては浅かったが、ノーダメージという事はないだろう。

舞○術が使えないので空中には留まれず、先に着地した俺はヴァンパイアを見上げた。


「……仲間に当たることもお構いなしとは。これが信頼の成せる技ですか」

天井を背に口元を手で拭うヴァンパイア。

暗さもあって血の色まではわからなかったが、しっかりと応えていそうだ。


「ああ。ダイスケなら仮に当たっても問題ない」

腕組みするエコウは清々しいくらいきっぱりと答える。

ふと、自分の腕に目をやると所々風で切られたのか血が滲んでいた。


「……そういう事だ」

仲間からの厚い信頼。

どのような形であれ、そう悪いものではない。

俺もエコウの魔法を信頼している。

当然、己の肉体も。

コウモリに噛まれるよりは全然軽傷だ。



「そう言えば、お互い自己紹介を忘れていましたね」

ダメージを隠すように表情をまた無に戻したヴァンパイアは地面に降り立ち、改めて自己紹介から始めた。


「私はヴァンパイアの『ミラーイヤー』。どうぞお見知り置きを」

恭しく、右腕も加えたお辞儀をするヴァンパイア族のミラーイヤー。

位の高そうなゴシックな外見は妙に様になっている。

実際そのような立場でなくとも長年演じ続けていればそう見えるようになると聞いた事があったな。


「私はエコウ。エルフ族の戦士だ」

茶目っ気なしの真面目な挨拶。

真っ直ぐな瞳と堂々とした出立ちはさぞ立派な戦士に映る事だろう。

まさか責めっ気のある冗談のキツイお姉さんとは思うまい。


「オラはダイスケ。マガ ダイスケだ」

足を肩幅まで広げ背筋を伸ばし、十分な声量で名乗りを上げる。

キャラに沿ったポーズとセリフ。

なりきり度を限界まで上げねば、敵わぬ相手かもしれない。


「名乗り合ったところで悪いが、次で終わらせるぞ」

俺は拳を握り、再び戦闘態勢に入る。


ニニの様子からこちらのウィークポイントが状態異常であることが割れている可能性が高い。

道中の罠で悪戦苦闘していた様子を眷属のコウモリを使って見られていたとしたら……。

そうなると搦手を使われる前に決着をつけねばならない。

コウモリだけでなく、ミラーイヤーの長めの爪にも毒が仕込まれているとしたら、カスっただけでも危険。

じっくりと格闘戦を楽しみたいのが本音だが、不測の事態が起こる事は避けなければならない。


「はあああっ!」

どっしりと腰を落とし、気を高めるイメージ。

全身に赤いオーラを纏い、今までの数倍の力が漲る。


「これは……」

過去、目にした事のない激しいオーラに戸惑いを見せるミラーイヤー。

本能的に危機を感じたか。

咄嗟に翼を広げ、身構えるが──遅い。


「界○拳!」

先程までの速度を遥か超えたスピードで、ミラーイヤーに一足飛び。

十メートルほどの間合いをコンマ数秒で詰め、防御はおろか反応することも許さぬ速度で再び右の拳を顔面に命中させた。


「!?」

今度は手応えバッチリ。

岩石をも砕く鉄拳が炸裂し、その端正な顔が歪む。

首ごと持っていきそうな威力を持って、その頑丈そうな体を浮かせ水平に吹っ飛ばした。

そこから飛ばしたミラーイヤーの体が壁に衝突する前に素早い跳躍で追いつき、組んだ両手で上から地面へと叩きつける。


「がはっ!」

ミラーイヤーの胴体はくの字に曲がり、背中から地面に激突。

その衝撃は凄まじく地面は陥没し、粉塵が舞い上がる。

土埃のせいでその姿は目視不能になるも、追撃の手は緩めない。

俺は粉塵の届かぬ天井近くまでジャンプし、


「か・め・○・め・波!」

とどめに特大のエネルギー波を放った。

ドラゴ○ボールの戦闘シーンでよく見た連続攻撃。


洞窟が崩壊しないよう、祈りつつ空中から撃ち下ろす。

土埃を貫通し、陥没の中心点を熱線が覆う。

天井が崩れるのではないかと思うほどの振動と轟音。

舞い散る粉塵と土埃はこの広々とした空間全てを覆い、その威力の凄まじさを物語る。



しばらくして土煙が晴れるとクレーターのように円形に抉られた地面の中心には高貴な身なりがボロボロになった魔族が一人横たわっていた。

豪華なベッドは跡形もなく消失し、沈下した地面をさらに三メートルほど掘り下げている。

俺はその穴の縁に着地し、その姿を上から見下ろすが、憧れていた作中と同じ肉弾戦を再現した事への感動や満足感など、勝者としての余裕は全くない。


「ハァハァ……」

赤く立ち昇っていたオーラを解き、両手を膝に付いて肩で息をする。

気を消耗し過ぎたせいか体中が悲鳴を上げ、しばらくその場から動けそうもない。

己の力を何倍にもする界○拳はやはりとんでもない技だ。


「終わったか……?」

所感としてはかなりのダメージを負ったように見える。

しかし原形を止めている以上、完全に死んだとは言い切れない。

加減したせいで、消滅させるほどのパワーが出なかったか。

それともミラーイヤーが思った以上にタフなのか。


仰向けに倒れた相手はピクリとも動かないが、油断は禁物。

いきなり起き上がって、口から怪光線を出してくるパターンもあるからな。


本当は俺自らが元気玉でトドメを刺したい所だが、今はなりきり度も体力も足りない。

ここはもしもの時の為に回復に専念し、万全を期してシメはエコウの魔法に頼るとしよう。

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