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15 ダンジョン

「ダンジョンの中って、どうなっているか教えてくれるか?」

ヘリオス森林のダンジョンへ向かう道中、俺は今更ながらに聞いてみた。

俺のイメージしているダンジョンとこの世界のダンジョンでは何か違いがあるかもしれない。


ゼンタの街から徒歩で一日半の道のり。

節約の為、馬車の利用を断念した事で有り余った暇な移動時間を有効活用するべく、話題を振った。

まだ街を出発してから三十分も経っていない。


「ダンジョンは洞窟の内部を魔力で改修して魔族とかが住処とした場所。内部は罠と魔物の巣窟になっているわ」

ニニは答えながら軽快な足取りで歩みを進める。

生憎の曇り空の中、少しでも距離を稼ぐ歩行速度だ。

毎日何十キロも歩く強靭な足腰とスタミナは冒険者として必要最低限のもの。

俺も歩き仕事だったので体力はそれなりにあるつもりでいたが、流石に長時間長距離を歩くほどの体力を持ち合わせてはいない。

しかし強靭な肉体を持つキャラになりきる事で無限の体力を手に入れいた。

ほんと、便利なギフト様様だ。


「ダンジョンに配置された罠は特定の箇所に触れると発動する接触式。特定の場所に侵入すると発動する感知式。矢が飛んできたり、落とし穴が出現したりと多種多彩だね」

トラップの詳細についてはカカが真面目に解説してくれた。

まあ、これはゲームで散々体験したもので、特に目新しさはない。


「魔物の種類はダンジョンマスターの好みかな。近くの魔物を呼び寄せたり、眷属を召喚したり。今回のとこはまだ情報不足で予測は立たないね」

「なるほどね。入ってからのお楽しみと。ちなみにダンジョン内にある宝って、やっぱり高価なの?」

「お宝はダンジョンマスターが人間を誘い込む為に用意してる。大体は一から生成するのではなく、既製品に独自の特殊な効果を魔法で付与してるから有用な物には高値が付くね」

「それを狙って実力不足の冒険者が入り込んで、死亡する出来事が多発。だからギルドが管理して、攻略は依頼方式にしているの。それでも無許可で侵入する輩は後を絶たないわ」

カカとニニは呆れたように肩を竦めた。

お宝に目が眩んでしまうのは冒険者の性だが、極力咎められないように上手く抑制しようとする努力は素直に感心する。

ギルドも自分本位の冒険者たちをコントロールするのはさぞかし骨が折れる事だろう。


「あと、ダンジョンは同じ洞窟が再利用される場合がほとんどだからギルドが定期的に調査してるの。発見したら勝手に入らないよう監視もしているわ」

「ほう、それだけ危険な場所という事か……」

なりきり度が高まってきた事で多少軽く考えていたが、ここまで脅されると流石に身が引き締まる。

そこらの冒険者と俺の愛するキャラたちの性能を一緒にしてほしくはないが、それを言ったところで理解されないだろう。


まあ兄妹の説明でダンジョンの仕組みについては大体理解した。

そうなると、


「魔族の食料は人間って事?」

ダンジョンを作る目的は自然と絞られてくる。

ただ、魔物が人間を食べるイメージはあっても魔族が食べるというのは意外な気もするが。


「一般的にはそう伝えられてるけど、魔族の種類によるとも言われているわね。魔族に知り合いがいないから、本当のところはハッキリ言えないけど」

つまり正確な情報はないという事か。

俺の認識では魔族は生来の残忍さから戯れで人を殺すイメージがあるので、ダンジョンも捕食ではなく、自分の城を築いて弄んでいるのではないか。

そう思えてならない。

そんな現状答えの出ない考えを一蹴するように──


「なら、今回会う魔族に聞けばいい」

エコウは不敵に笑った。



時は進み、結局野営で一泊しても雨に降られる事はなく、平穏無事にヘリオス森林に到着。

そこから地図を頼りに獣道を進み、ようやく依頼にあったダンジョンへと辿り着いた。


「ここが入口……」

目的の場所はちょっとした崖下に大きく口を開ける自然洞窟。

周りには木々が生い茂っているものの、一目でそれとわかる存在感があった。

幸い、ヘリオス森林は狩りや山菜取りでも冒険者でないと入り込まないような場所なので、余程の事がない限り一般市民が洞窟へ迷い込む事はないという。



入り口周辺には話にあった通り、ギルドに雇われた警備の冒険者が二名潜伏していた。

ダンジョン内の魔物を下手に刺激しないよう門番のようには立哨せず、茂みから洞窟を見張っていたようだ。

もし冒険者が入り込もうとしたら、その時だけ姿を現して警告するらしい。


「ご苦労さん。俺たちはギルドの依頼を受けたパーティーだ」

依頼書を見せ、軽く挨拶を交わす。

そこから少し話を聞いてみたが警備を始めてから今まで侵入者はおろか、洞窟から魔物が現れる事もなく、至って平和だったという。

些細な変化もなく、ここから洞窟内の様子も窺えないのでほんとにダンジョン化してるか半信半疑になっているらしい。

それでも無闇に中に入る事はせず、律儀に見張りだけを続けていたとか。


話を聞いた限りだと難易度の低いダンジョンを装って警戒心を解き、中へと引き込む常套手段に思えるが、その好奇心に負ける事なく任務を遂行する姿はギルドから適任者として選抜された者かもしれない。

ただ、そのせいで追加の情報が何もないというのは残念でならないな。



曇り空に似つかわしい、不気味に開けた入り口を見上げる。

奥は真っ暗でどこまで続いているか、検討も付かない。

マンガだと魔界に繋がる穴を開けられた大洞窟を連想させる。

ゴゴゴゴゴゴと擬音が描き込まれそうな雰囲気を醸し出しているが、無意識に吸い込まれてしまいそうな不可思議な魅力も感じられた。


「これはダンジョンマスターの仕業……か?」

肌で感じるその異様さに入る前から嫌な汗が噴き出した。

悪い予感か、虫の知らせか。

どちらにしろそう簡単には攻略させてはくれなさそうだ。

しかし、ここまで来て足を止める訳にはいかない。


「じゃあ、そろそろ行くか」

道着の帯を締め直し、気合いを入れる。

我々探検隊は小休憩を挟み、準備万端整えると徐に中へと侵入していった。

もし、我々が未帰還となれば、警備を任された二人のうちどちらかがギルドへ報告に走ることになるだろう。


団体客も歓迎な鍾乳洞を思い出させる大口を開けた入り口から慎重に歩を進める。

洞窟探検は富士の風穴以来か。

目線の先には闇が広がり、先は全く見通せない。

スタートから湿気と澱んだ空気による洗礼。

不快ではあるが、ここからはもう雨の心配をする必要はない。

入り口の明るさが届いているうちに、光源を用意する。


「永遠の灯火!」

エコウの光魔法によって生まれた光球と予備に一応ランタンも。

ここからは暗闇との戦いにもなる。

闇に乗じて魔物が急襲して来たり、仕掛けられたトラップを見逃さないようにしなくては。


皆警戒しながら無言で進む。

風が流れる音も水滴が垂れる音もしない不気味な洞窟を只々進む。

そして入り口の光が届かなくなってしばらくした頃、


「何か変だ……」

カカが何か異変を感じ取ったようだ。


「ここまで罠もなく、魔物もいない。ダンジョンらしく改修されてもいない。話に聞くダンジョンらしさが全くない」

「確かに……」

一本道をそれなりの時間進んだというのに、今のところ魔物どころかトラップの一つもないごく普通の天然洞窟。

ゲームだとモンスターがいない事以外は特に違和感はないのだが、マンガでいうダンジョンはもっと石造りの壁や床で整備されているイメージがある。

しかし入り口から続く土壁にここまで変化はなし。

マンガを参考にするなら俺の知るダンジョンとは確かに違う。


「油断させて、奥まで誘い込むのが目的か。もしくはダンジョンの発覚を遅らせる為の工作か。どちらにしろ狡猾な相手みたいね」

「そうかもな。奥に強そうな気配を感じる」

ニニの言葉を受けて周辺の気を探ると、その考察を裏付けるように今まで感じた事のない大きな気を察知した。

奥に何者かがいる事は確定だが、この先もダンジョン化していないとは限らない。

その他に人間や魔物の気を感じ取れない事から、いるとしたら生命力のないダンジョン定番のアンデット系になるか。

気を探る能力についてはまだまだ正確なものではないが、もし本当に一人だけだとしたら相当な自信家かも。


「魔物の気配はないけど、罠くらいはありそうだな。罠感知の魔法は使えないんだっけ?」

「僕は使えないね。周辺感知系の魔法は鋭敏な感覚察知能力と魔力の総量が多くないと難しいんだ。いくら上質な杖を使ってもね」

「私も無理だな。でもダイスケなら罠くらい平気だろう?」

魔法使いの二人から色好い返事は返ってこず、一気に不安が増した。

ぶっちゃけ魔物を相手するより、不意にビックリさせられるようなトラップの方が心臓に悪い。


「矢が飛んできたり、岩石が転がってきたりする罠なら問題ないけど、毒や麻痺なんかの罠だと、どうなるかわからないな」

よくよく考えてみるとドラゴ○ボールの作中に状態異常耐性がある描写はなかったような気が……。

意外と大丈夫かもしれないが、一応予防線は張っておく。


「そうなると、罠には要注意ね。カカは回復魔法を得意としていないから」

「基礎的な治癒魔法なら使えるけど、状態異常の回復は会得難度が高いんだ。教会にいる聖職者や冒険者の僧侶くらいしか使えないよ」

「私たちエルフは生まれながらに自然界にあるような弱性の毒や麻痺などの耐性を獲得している。そのせいか状態異常を回復する魔法の適性はない」

つまり現時点では怪力の魔物やテクニシャンな人間より状態異常系のトラップの方が厄介という訳だ。

いや、天敵と言えるかもしれない。


「まあ、毒と麻痺なら回復薬を持ってきたから心配無用よ。だからダイスケは安心して先頭を歩いてちょうだい」

「それは心強いな。介抱は優しく頼む」

露払いは俺の仕事だが、そうお気楽になれるものでもない。

この状況を想定して、ちゃんと街で毒と麻痺の回復液は用意してきたのだが、万能でより効果の高い上級回復液は予算の関係で断念せざるを得なかったのだ。

もし強力な毒やその他の状態異常に掛かりでもしたら……。


「幻覚作用でダイスケに錯乱されたら、このパーティーは全滅だな」

ハッハッハッ、と笑えない冗談を言うエコウ。


いや、それは全く“ない”話ではないので笑えないぞ。



そんな調子で広い一本道を十五分ほど進んだ所で、ようやっとダンジョンらしい分かれ道が現れた。

右の道はこれまで同様、果てのない暗闇が続き、左の道は……。


「宝箱があるな」

すぐに行き止まりになっていて、突き当たりにはこれ見よがしに宝箱が置いてあった。

剣や鎧が入っていてもおかしくない大きさで、露骨過ぎて罠の臭いがプンプンする。


「どう思う?」

「十中八九、罠付きの宝箱ね。さらに奥まで誘い込む為に普通にお宝だけの可能性もなくはないけど」

「マスターを倒してから、回収する?」

「いや、マスターがいなくなると魔力で付与した能力も消えるわ。その前にカカの魔法で保護しないと無価値になる」

クリアするとお宝が取れなくなる系のダンジョンか。

ゲームではそれと知らずにアイテムを取り逃がした記憶も少なくない。

宝箱の発見にはもっとテンションが上がるかと思っていたけど、罠があると思うと途端に憂鬱な気分に支配されてしまった。


毒かミミックか。

いくら想定しようとも恐怖心が消える事はない。

ホラー映画でもビックリ演出は苦手だったので、身体が反射的にビクついてしまう。

これはボス戦までに体力、気力、アイテムを消費させられそうで最悪だ。


「一旦、見なかったことにするのは?」

「それだと、この依頼の旨味がなくなるね」

「ここはリーダーらしく、カッコイイところ見せてよね」

「勇ましい姿を期待しているぞ」

「……仲間にそうまで言われたら断れんな」

俺以外の全員、お宝を目の前に見過ごせない性格らしい。

犠牲になるのが自分でなければ、俺だって同じ気持ちではあるのだが。


「はあ……」

ため息を一つ。

ここでウダウダ言っても格を下げるだけだ。

俺は覚悟を決め、新調した背中の如意棒を抜いた。


「伸びろ、如意棒!」

そう念じ、直径五十センチの如意棒を二メートルほどの長さに調整する。

近付いたタイミングで発動する罠の可能性を考慮して、一回離れた場所から宝箱に接触するのが最善だろう。

警戒しつつ二メートル範囲を目指し、ジリジリと接近──


「あっ!」

宝箱まであと三メートルの地点。

不意に足元の地面が消え、踏み出した左足が空に沈む。

そのままバランスを崩し、無様に落とし穴へと落下。


「ダイスケ!」

エコウが空中を飛んで、駆けつけてくる。

眼下に広がる穴の底にはびっしりと敷き詰められた針の山。

無防備に落ちれば確実に串刺しの刑となる。

が、


「危なかった……」

間一髪。

咄嗟に如意棒をさらに伸ばし、針の隙間に突き立てた。

それを支えに上手いこと向かいの壁にもたれることに成功。

棒高跳びの選手気分を味わう離れ技を披露した。


「さすが、これくらいなら心配無用か。悪いが引き上げる力はないので、自力で脱出してくれるか?見ていることしか出来ない、無力な私を許してくれ」

「ほんとにそう思ってるなら、少しは申し訳なさそうな顔を見せてくれ」

ほんと、このエルフはいい根性をしている。


如意棒を穴の上方まで伸ばし、無傷で生還。

舞○術が使えたらこんなスリルを味わう事もなかったのだが。

早くなりきり度を上げたい。


「ふうっ」

落とし穴という典型的なトラップに引っかかってしまったが、一先ず宝箱には辿り着いた。

しかし、まだ油断は出来ない。

ゲームだと解錠する時に罠が発動するか、そもそも宝箱に化けたモンスターかの二択が残ってる。

気は感じないので、あるとしたら状態異常系の罠だろう。

逆に罠は落とし穴だけで宝箱には何の仕掛けもない、なんて都合の良い展開は……。


とりあえずここは安全に離れた場所から如意棒で宝箱の蓋を開けるか。

如意棒を操作して直接触れる事なく、蓋を持ち上げようとするが当然そう上手くはいかない。

もういっその事一思いに如意棒で箱を破壊したい衝動に駆られたが、流石にそれは踏み留まった。


「……やるしかないか」

俺は深呼吸を一つして、宝箱の目の前へ。

片手を塞いでいた如意棒は元の長さに縮め、背中に戻す。

そして片膝を着き、慎重に両手で少しずつ箱を開けてみる。

鍵は掛かっていない。


「こ、これは!」

俺は宝箱を覗き込んで目を丸くした。

そのリアクションに『何があった?』と皆から興味津々な声が上がる。

本当なら気を揉んだ分も嬉しい報告を届けたい所なのだが、


「──何もない……」

宝箱の中には装備品はおろか、薬草の一つもない。

小さな宝石くらいは入っていないかと目を皿にする。

しかしいくら隈なく探そうとも箱の底が見えるだけ。

お宝の形跡は一切なし。

どうやら完全にハズレ箱だったようだ。


「本当に何も入っていないの?」

遠巻きにこちらの様子を見守るニニたちは疑いの眼差しを向けてきた。


「ないね。誰か先客が持っていったかな」

そう言いつつも本当に何もないのか、諦めきれずダメ元で宝箱を両手で静かに持ち上げてみる。

宝箱の下に実は何か隠されているとか、ゲームならなくはない。


「まあ、そんな訳ないのですが」

ここはゲームではないので真の宝や隠しスイッチ等が本当にあるはずもなく、普通に平らな土の地面があるだけ。


「ったく……」

俺は乱暴にカラ箱を置き直す。

落とし穴で死ぬ思いをしたというのにとんだ無駄骨だ。

苦労してハズレ箱とかゲームだったらコントローラーを投げつけていた。

これがまだまだ続くとなると神経が相当すり減らされそうだ。


「ハァ……」

先の事を考えると頭が痛くなってくる。


「って、イタッ!」

突然、頭から首筋にかけて複数箇所、鋭い何かに刺されたような感触。

今度は比喩ではなく、本物の痛みが走った。

慌てて手を回すと何本か細い針のような物が突き刺さっている。


「くそっ。宝箱を動かすと発動するトラップだったか」

抜いた針を地面に投げ捨て、天井を見上げる。

それらしい仕掛けは見えなかったので、魔法で仕込まれていたか。

宝箱周辺に目が行って、死角となる天井からとは全然気付かなかった。

生き物の気は探れても無機物のトラップを察知する能力はやはりないようだ。


「うっ!」

針は抜いたが、さっきより痛みが広がっていく感じがする。

そして徐々に動悸も激しく……。

さらに全身も痺れてきて思い通り手足が動かなくなっていく気がしてきた。


「毒か……っ!」

息苦しさに声ともならない声を漏らした俺に「薬を飲め!」とエコウが叫んだ。

まだ意識はしっかりしている。

俺は懐から薬の入った小瓶を取り出そうとするが、指先が痺れてなかなか上手くいかない。


「くっ……」

初めて味わう毒の味。

周りの空気が無くなったような窒息感と脳の命令が拒否され、金縛りにあったような感覚に全身が支配された。

この世界に来て初めて、命が消えゆく予感にそこ知れない恐怖が湧き上がってくる。


「まさか、ここまで即効性があるとは……」

症状を確認してから解毒薬を飲む余裕もないとは誤算だった。

次はもっと素早く対処しなくては……。


何も出来ず、次第に意識も遠くなってきたその時──


「岩石の雪崩!」

杖を掲げたカカは大きく開いた目の前の落とし穴を埋めるように無数の岩石を召喚し、豪快に敷き詰めた。

そしてすぐさまそれを渡ってニニが宝箱から俺を引き摺り離す。


「口開けて!」と言うや否や両頬を強めに掴まれて、薬液を無理矢理口内へ流し込まれた。


「ごはっ!」

咳き込みながらも液体は喉を通り、内臓へと染み渡る。

猛暑日に運動した後、スポーツドリンクを飲んだ時なような爽快感。

すると、激しく鼓動していた心臓は次第に落ち着きを取り戻し、浅かった呼吸や痺れも取れ、気分も幾分か楽に。

どうやらこの解毒薬にも即効性があったようで、休止に一生を得たようだ。


「……危なかった」

「ほんと、ここまで強力な毒とは想定外ね。でも無敵のダイスケを倒すのに毒が有効というのがわかったのは収穫だわ」

「うむ。もし今後異変を感じたら、すぐに薬を飲むのだぞ。仮に錯乱しても毒で動きを止めるから安心しろ」

死にかけたというのに、ウチの女性陣は実にスパルタだ。



しばらく休息し、完全に毒が浄化されるのを待ってから再び洞窟の奥へと進撃を開始した。

体は無事正常に戻ったが、気分は沈んだまま。

今までなりきったキャラクターの強さによって感じていた全能感は露と消え、弱点が顕になった事で絶対的な自信が崩れかける。

作中の強敵たちに毒を使う奴はいなかったが、本当に耐性がないとは残念でならない。

この世界で状態異常がありふれたものであるなら、この弱点は致命的かも。


身をもって体験した事で痛感した。

状態異常の重要性は想定していたよりも比重が重く、この問題は大変深刻だという事を。

こうなってくるとバッドステータスの回復魔法を使える仲間が必須に思えてしまう。

ダンジョンに関わらず、これこらも魔法や魔物でも状態異常を付与してくる敵に遭遇する機会は大いにある。

そうなってくるとギフトの一枠使ってでも耐性持ちのキャラがいる作品を選ぶのもやぶさかではないように考えてしまう。

家庭の事情で耐性のある暗殺者とか候補になるか。



「二重の罠にお宝なしとか、どんだけ性格悪いマスターなのよ」

「そうだね。こうなると次こそは何かあるだろうと思うのが人の性。こちらが苦しむのを楽しんでいる加虐性を感じるね」

最初の宝箱の仕掛けからダンジョンマスターの性格を分析するニニとカカ。

俺の初感とも一致していて、見事に代弁してくれた。


ダンジョン作りは製作者の性格が反映される、というのは友人作のRPGを作るゲームをやった実体験で承知している。

これからそんな性格の悪そうな相手と戦うとなると物凄く憂鬱。

まあ、そこへ辿り着くまでの道程も大変悩ましいのだが。


「どんな相手だろうと人間界最強であるダイスケがいれば問題ない。さあ、どんな罠にも負けず、次の宝箱に挑戦だ」

「頼りにしているわ。リーダー」

「……無事完走出来たら、今より心を込めて労ってくれ」

ダンジョンマスターのいるフロアまで罠の連続と仮定すると……いや、考えるのはやめるとしよう。



そこから一時間ほど。

果たして、いくつの宝箱を見つけたことか……。

その度にトラップが発動!

天井が落ちてくるわ、矢の雨に降られるわ、コウモリに襲われるわ……。

状態異常も毒や睡眠、麻痺などなど、多彩な嫌がらせの数々に見舞われた。

それらをこの身一つで肉壁となり全身で受け止めたおかげで、仲間への被害はゼロ。

さらに体を張った成果として、いくつかのお宝をゲットする事が出来た。


何かしらの効果が付与された剣、盾、宝石と実にダンジョンらしい品々を入手。

価値の決め手となる付与された効果の内容については残念ながらこの場では鑑定出来ず、街の魔法道具屋に持ち込まなくてはならないという。

迂闊に魔力を通して効果を知ろうとすると、呪いが発動する危険があるらしく、帰還してからのお楽しみとなった。

ゲームであれば、道中ゲットしたお宝で自分たちを強化してからボス戦に挑む所だが、それは叶わぬようようだ。

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