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14 新たなる冒険

第二部



「ああ……それにしても金が欲しい……!」


下級ランクの依頼を完了し、有象無象が集まる冒険者ギルド内で俺は仲間から報酬の分け前を受け取った。

しかし喜びも束の間、残念ながらその全ては本日の飯代と宿代へと消える。


その日暮らしの冒険者稼業。

毎日ギルドの依頼を必死に熟しながら生計を立てるも最近は金欠で常に余裕はない。

現代日本からこの異世界へ転移させられた新米上級冒険者『魔賀 大介』(四十歳)は耐えの日々を送っていた。


何の特技もないただのオッサンが魔物が闊歩する剣と魔法の世界で生き抜くのに日本から転移させられた恩恵として、


『マンガに登場するキャラの力を使える。ただし、選択した三作品に限る』という能力。


“ギフト”と呼ばれる所謂、特殊能力を身に付けていた。


そのギフトを行使して選んだ記念すべき一作品目は『ドラゴ○ボール』。

マンガ史上、最強格の主人公『孫○空』の力をフルに発揮するには、自分の見た目をキャラに近づけて“なりきり度”を上げないといけない。

似た服装を揃えるべく奮闘した結果、最近は唯一無二のオレンジ色の道着で練り歩くオッサンとして、このゼンタの街の住人にも認知され始めていた。


一方、冒険者たちの間ではより悪目立ちする存在に。

新参者にも関わらず一足飛びで上級ランクに昇格し、幅を利かせていると思われている。

別に肩で風を切って歩いているつもりはないが、たまに絡まれるのでそういう事なのだろう。


どこの世界でも出る杭は打たれる。

まさか凡人として社会人生活を二十年近く送ってきた自分がそんな存在になるなんて夢にも思っていなかった。

まあ、“筋肉は全てを解決する”という名言がある通り、キャラの力を宿した事で自信が生まれ、堂々と腕力でどんな輩とも対話出来るので実害はそれほどないが。


現在は成り行きでパーティーに加えてもらえて、冒険を共にする仲間にも巡り会えた。

幸運に恵まれた異世界ライフではあるが、現状金だけが足りず困窮している。



「しょうがないでしょ。上級ランクの依頼がないんだから」

先輩冒険者(十八歳)であるニニは硬貨を財布に仕舞いながら、現実を直視するよう目で訴え掛けてきた。

パーティーの進行役であるニニは茶髪のショートカットで気の強そうな顔立ちをしているが、年相応のあどけなさと精神的な大人っぽさも兼ね備えている。

そんな二十歳以上も年下の美少女に正論で諌められる中年の何と情けない事か。


「それに駆け出しなのにあれだけ衣料で浪費してればね。ベテラン冒険者でもあんなに戦闘服を用意しないよ」

続けて、呆れたように辛辣な突っ込みを入れてくる先輩冒険者(十九歳)カカ。

黒髪で大人しそうな外見をしていても妹同様、意外と容赦がなかったりする。

常に落ち着いた雰囲気を持ち、一歩引いてパーティーの動向を見守るいぶし銀。


そんな若い兄妹より曲者なのが──


「すまないな。私がパーティーに加わったことで、取り分が減ったからだろう」

金髪に黄金の瞳を持つ、手乗りサイズの美女。

正式にパーティーメンバーになった“エルフ族”のエコウが、申し訳なさを全く感じさせない昂然たる態度で陳謝した。

風属性魔法の使い手ではあるが、戦士というだけあって茶色い皮の鎧に緑のローブという森の守護者のような出立ちをしている。

毅然とした真っ直ぐな瞳は人間の暮らす、このゼンタの街でも変わる事はないだろう。



古代樹の森にあるエルフの里から帰還して、二週間。

冒険者ギルドの上級ランクの依頼は珍しく数が少なく、上級冒険者同士で取り合いとなっていた。

実力が物言う冒険者業界。

力勝負なら負けないが、流石にそこまで殺伐とはしていなかった。

同業者同士で揉め事に発展しないよう、ギルドマスターのギムル自らが適任者を選定して依頼を割り振っていたのだ。


その結果、ギルドへの信頼度、貢献度共に序列が低い俺は当然のように後回しに。

では有名人らしく名指しの依頼があるかと言うと、そこはあくまで得体の知れない新人冒険者として目立つ存在であるというだけで指名などあろうはずがなく、仕方なしにカカたち下級ランクの依頼に付き添い食い繋いでいた。


そんなギリギリの生活の中、少しでも節約するべく宿暮らしを卒業し、どこか格安の部屋でも借りられないかと地元民に相談したのだが、そうは問屋が卸さなかった。

どの物件も敷金、礼金はないものの、その分家賃は高めのうえに前払い。

上級冒険者という身分の保証があっても、そこはどうにもならなかった。

そもそも上級ランクの依頼だと遠出して数日野営することもあり、部屋を空ける日が多くなる事を考慮すれば、結局宿を利用するのが一番効率が良い、とアドバイスされたのだった。


ちなみに前回、エルフの里の依頼料でそれなりの額を頂いたが、すぐさまキャラクターのなりきり度を上げる為に使ってしまった。

これは必要な投資であって、断じて無駄遣いではない。



「私は兄妹のおかげで、食事代くらいしか生活費は掛かっていない。最初に言った通り、私の取り分を減らしてもいいのだぞ」

エルフの里を出立し、俺と同じ根無し草となったエコウだったが、ある意味俺なんかより目立つ稀少な存在である彼女を宿屋に寝泊まりさせるのは危険と判断。

厚意により、カカとニニの自宅で寝食を共にすることになったのだった。


「ダメよ。どんな理由でもパーティーの報酬は等分。じゃないと後々必ず揉めるから」

ニニはハッキリとした口調でエコウの提案を却下した。

十八歳の若さで自活しているだけあって、金銭面では実にしっかりとした考えを持っている。


冒険者としての心構えや経験談は近所の先輩冒険者からご教授されたのだろう。

いや、反面教師として教訓にしたか。

ともかく、このパーティーの手綱をしっかり握ってくれている。


「では、貸す分には問題ないな。利息は安くするぞ」

「それはもっとダメ!」

はあっ、と溜息を吐くニニ。

真面目な顔をして冗談を言うエコウは出会った頃よりもだいぶ接しやすくなった。

お互い幾分か心を開いているからか、やり取りも段々と軽妙になっている。


こんな調子で、わちゃわちゃとギルド内でたむろしているとカウンターから出てきたベテランの受付嬢に声を掛けられた。


「上級冒険者のダイスケさん。新たに上級ランクの依頼が発生しました。如何しますか?」

依頼書をこちらに手渡しながらこちらの返事を待つ。

二週間経って、ようやく俺の番に回ってきたか。

待ちに待った大きな収入を前に嬉々として対応してしまう。


「内容は?」

「ダンジョン攻略です」

ゲームではお馴染みとなるダンジョン。

ファンタジー世界らしく、心ときめく響きだ。

モンスターの徘徊する迷宮をお宝求めて探索する異世界の定番とも言える未経験のイベントに胸が躍る。



依頼の詳細。

“『ヘリオス森林』に出現したダンジョンを攻略し、洞窟の正常化及びダンジョンマスターの討伐”。


ダンジョンの仕組みについては別途説明が──


どうやらこの世界のダンジョンとは既存の洞窟を魔力によって迷宮に変化させたものらしい。

それを実行する張本人が、ダンジョンマスターと呼ばれる膨大な魔力と知性を保有する存在。

人間であることもあるが、その多くは『魔族』であるという。


人より優れた肉体と絶大な魔力量を有する、魔法に秀でた種族が魔族。

人語を解し、会話が可能とのこと。

この特徴はマンガやゲームでよく見るやつ。

ワグネルたちと出会った時に倒した盗賊たちも口にしていたし、割と身近な存在なのかも。



それより何より、心惹かれるのはダンジョン内のお宝。

宝箱に入っている装備やアイテムにはロマンがある。

ゲームでもレアな武器を求めてダンジョンを周回するのに熱中したな。

まあ、そんな呑気しているのは俺だけのようで、ニニたちは依頼書を囲んで真剣に依頼内容を吟味している。


「ダンジョンマスターの正体は?」

「不明です」

「ダンジョン内の魔物の種類は?」

「それも不明です」

「発見したお宝の所有権は私たちでいいのよね?」

「はい。その分報酬は控えめになっていますので、ご了承ください」

「お宝次第では一攫千金……悪くないわね。受けましょう」

質問の答えに満足したのか、ニニは即断してカウンターへと足を向けた。


この世界の知識が浅いせいで俺には依頼の良し悪しはわからないが、経済的に受けない選択肢はない。

報酬が控えめと言っても下級の依頼に比べてれば全然マシ。

発見したお宝の中に高値で売却出来る品があれば、万々歳だ。

逆にお宝がショボかったら目も当てられないが、そこはギャンブル。


発言力の強いニニに加えて、リーダー的ポジションである俺がOKを出した事で、すんなり全員賛成でこのまま受諾するかと思いきや──


「いや、ちょっと待ってくれ」

右手を小さく挙げたエコウが異議を申し立ててきた。



「ダイスケはいいとしても、ニニとカカが心配だ。未踏のダンジョンということは、危険度は最大ではないのか?」

「その通りです」

エコウの意見に即座に返答したのはウチのパーティーメンバーではなく、意外にもクールな口調の受付嬢であった。


「ダンジョンマスターは魔族にしろ、人間にしろ。並の冒険者では歯が立ちません。悪戯に犠牲を出さないよう上級ランクの依頼となっています。それでも宝を目当てに無断で侵入するパーティーもいますが、大抵は五体満足にダンジョンから帰還する事はありません」

「……」

伝え忘れた、というより補足したという受付嬢のトーンから改めて命懸けの依頼である事が告げられる。

ワイワイと浮わついていた空気が、瞬時にシーンと静まり返った。


確かに潜伏する魔物とマスターが不明ということは、とんでもなく凶悪な敵が待ち受けている可能性も十二分にある。

中級冒険者でさえ敵わないのに、まだ下級ランクの二人がジェネラルオーク以上の存在と接敵した場合、俺がいても無事で済む保証はない。


「それを言うならエコウだって同じでしょ。冒険者としてなら新人じゃない。魔物は倒せても魔族と戦えるかは別の話でしょ」

「そうだな。だが、人間の物差しでも実力的には上級の部類だろう。戦闘経験もそれなりにあるしな」

「私も古代樹の森での戦いに生き残ったし、足手纏いにはならないわ」

「敵が魔族ならオークジェネラルより格上だろう。今度は死ぬかもしれんぞ」

「魔族相手なら力押しでは通用しないかもしれない。私たち抜きで戦力が低下する方が絶対危険だわ」

納得がいかず、食い下がるニニ。

ニニもエコウの腕前はよく知っている。


体はミニサイズでも膨大な魔力量を持ち、上級風魔法を使いこなすエルフの戦士。

古代樹の森ではゴブリンキングを一撃で倒す力量を示し、危機一髪の所も助けられた。

それに比べて自分は、ゴブリンはまだしもオークに苦戦するレベル。

まだ未熟で一端の口を利ける立場でないことは重々承知している。

それでも同じパーティーメンバーとしてのプライドがあるのだろう。

置いてきぼりは御免だと、必死に主張を続ける。


お互い譲らず、このままでは埒が開かなそうだ。

しからば、ここは年長者である俺が折衷案を出す事で解決するしかあるまい。


「じゃあこうしよう。ダンジョンでは俺が先頭、エコウがしんがりで二人をガードする。ボス戦は自分の身を守る事を第一に」

ロールプレイ可能なキャラの強さを考えれば、魔族と言えど案外大した事ないかもしれない。

仮に厄介な存在だったとしても仲間を逃す時間くらいは稼げるはず。

それならば後学として、ダンジョンの経験を積ませるという意味でも同行させるのはありだと思う。


遠くない未来。

俺がこの街を離れた後も冒険者として、兄妹揃ってさらなる飛躍をするのに貴重な経験となろう。

大人として若者の無茶くらい許容してあげたくなる。


ただ、純粋に兄妹の身を案じるエコウの言い分も一理ある。

前途ある若者に無謀な冒険だと諭すのも大人の役目。

誰も間違ってはいない。


保護者目線のエコウは俺の案を一考し、出した答えは……。


「わかった。二人の命、預かろう」

誰よりも覚悟の決まった、とても頼もしい一言であった。


「魔物やダンジョンの知識は二人よりあるからきっと役に立つわ。カカもいいわね?」

エコウの言葉を受けスッキリした表情に戻ったニニは、今まで口を挟まないでいたカカに水を向けた。


この最後となる確認にカカは──


「新しい杖が試せれば、何でも」

一人だけ、モチベーションが特殊であった。




ギルドから出ると夕日の光が一層眩しく感じられた。

これから夕食を取り、明日に備えて早めに眠る。

行き交う人々も仕事を終え、家路に着く時間だ。

元の世界で住んでいた東京と違ってコンビニのような二十四時間営業の店などなく、夜は酒場意外は閉店して街は静まり返る。


この世界に降り立って日は浅いが、早寝早起きの習慣はもう身に付いていた。

元々朝には強かったので寝覚めは良く、早めの睡眠についても特に問題はない。

昔から朝型の生活リズムで動いていたので、年の割には健康的な体だと思う。

それも相まってか日の出から働き始めるこの世界にも適応した体になれたのかも。


あと、生活が不便でも前の世界より仕事のストレスが少ないのも快調の要因だろう。

他の精神的な事でいうと、誰一人として知り合いのいないこの世界でしばらくは家族や友人の声を聞きたくなる瞬間があった。

知らない街で一人暮らしを始めた時にもなかった寂寥感。

これまで生きてきた四十年間で、これほど孤独を実感させられたのは初めての事。


ともすれば孤独は侘しさだけでなく、不安や焦燥感から鬱屈した心情に支配されそうになる。

それがエコウが仲間になってからは、自然とメンバー全員で食卓を囲む機会が多くなり、寂しさを感じる暇はなくなった。

徐々にではあるが、依頼を通して長い時間を共に過ごしていくうちにただのパーティーメンバーからもう少し距離の縮まった仲になれた気がする。


今日もこれからカカたちの家で一緒に食べるので、ニニとエコウは食材の買い出しへ。

身長が三十センチ程しかないエコウに荷物持ちは無理だと思いきや、浮遊魔法で自分の体重の何倍もする重量の品々を難なく運搬する事が出来るのだった。

俺が付き添いするより有能とはほんと恐れ入る。


一方、俺たち男連中は街で唯一の魔法工房へ出向いていた。

魔法関連の道具を製作する複数の職人を抱えた工房で、普段は魔法道具屋に卸しているが個人の持ち込みも請け負っていて、道具の改造や調整、オーダーメイドも受け付けている。

魔法を使わない俺には縁遠い場所かと思っていたのだが、エルフの里で頂戴した古代樹の枝というレア素材の加工に最適な場所だと紹介された。


カカは宣言していた通り、魔法の杖。

俺はいろいろ考えた末、“如意棒”にした。


初めは貴重な素材ということで、今後必要に駆られるまで大切に保存しておくつもりでいた。

だが、野球のバットより一回り太くて長い形状ゆえ持ち歩くには荷物になるし、保管しておく自前の部屋もない事からすぐに活用してしまうことに。

古代樹の枝の使い道として通常だと武器や道具の作成となり、カカのような魔法使いなら杖。

剣士なら木刀あたりになるが、俺の戦闘スタイルは拳法。

ギフトで選択した作品が素手で戦うバトル作品なおかげで、基本武器を必要としていない。


そんな中でも重要ななりきり度を上げるアイテムとして、パッと思い付いたのが如意棒であった。

と言っても普通に加工、成形しただけではコスプレ用のただの棒にしかならない。

だがなんと、完成品に魔法を付与する事で武器として使える強度と如意棒由来の伸縮機能も持ち合わせられるのだった。


付与するのはカカの強化魔法。

素材の耐久性を格段にアップさせる。

さらにエコウの精霊魔法によって伸縮性を。

ジェネラルとの戦いで、樹木が枝や根っこを伸ばしてオークを拘束したように俺の意志一つで、伸縮自在になるという。

これを聞いたら懐を温めてくれた古代樹の森での討伐報酬も注ぎ込まざるを得なかった。



「魔法の杖って、物によって結構性能が変わるの?」

俺より大金を払って製作してもらっているカカの杖は魔法を使わない身でも気になるところ。

この世界の魔法は、杖を媒介に魔力を魔法に変換して発動させる仕組みというのは前に聞いたことがある。


「上質な物はかなり違うね。性能によって魔力の変換効率や杖の耐久性に差が生まれる。その差が魔法の発動速度や威力に関わってくるからね」

「なるほど」

剣だと切れ味や耐久度の違いみたいなものか。

それだと戦闘面ではかなりの差が出そうだ。


「僕が使ってた杖は安価なやつだから、それからどう変わるか本当に楽しみ。下級ランクの依頼だと、討伐任務がないからダンジョンに行けて良かったよ」

トランペットを買ってもらった少年のように嬉しそうな笑顔を浮かべるカカ。

身の危険より、新しい杖の性能を確かめたい気持ちを優先するあたり如何にも冒険者らしい。

いや、魔法にかける想いが人一倍強いカカだからこそか。


気持ちはよくわかる。

俺もギフトの能力で新たなキャラになりきる時はいつも童心に帰ったようにワクワクしてしまう。

如意棒にしたって、その真価を楽しみしている自分がいるので、新装備というのは誰もが感情を昂らせるものなのかもしれない。



「おおー、これが如意棒か!」

その道のプロである職人達が集う魔法工房。

様々な工具や道具で溢れる雑多な作業場は独特の空気感があって面白い。


そこでお互い、加工を終えた武器を受け取る。

棍棒のような野生的な古代樹の枝から片手で振り回せるほど、シャープで手頃な長さにカットされた逸品。


「棒術という武術は初耳でしたが、仕上がりはいかかでしょう?訓練用の木刀を参考にしました」

依頼する時は如意棒と言っても伝わらないので、棒術用の武器として形状を説明して作成をお願いしていた。


「注文通りの出来で満足しています。朱色も想像通りの色合いで気に入りました」

「原形より細くなって不安かもしれませんが、強化魔法を付与すれば鉄製並みになりますよ。古代樹の枝は元々硬質で、さらに耐火性もありますから火属性の魔法やサラマンダーの火炎にも耐えられると思います」

「それはそれは」

担当した同い年くらいの職人さんが言うには並大抵の刃物では通らず、逆に刃先を砕くほどの硬度になるらしい。

火炎耐性もあるなら火球を跳ね返したり、火炎を切ったり出来るかも。


これに伸縮機能まで備われば活躍の幅はさらに広がるだろう。

その為にも精霊魔法の付与についてはエコウの好物を土産にしっかりお願いしなくては。

エルフは甘味が好きみたいだから、四種類の花の蜜をブレンドしたこの街の名物“蜜宝”なら間違いない。

無論、本気か冗談かわからないような皮肉を言いながらも無償で奉仕してくれるだろうが、誠意を示すためにも買って帰るとしよう。


その頃、カカは工房の主である親方から直々に新しい杖である“古代樹の杖”の取り扱いに関して、熱心に説明を受けている。

こちらも完璧に仕上がったであろう事が、その熱量だけで伝わってきた。

古代樹の杖は今までの安物とは明らかに違う洗練されたデザインで、素人の俺から見ても目を引かれる特注品。

これを手にしたら何を置いてもまず使い心地を試したくなる事だろう。

明日からのダンジョン探索を一番楽しみにしているのは、実はカカなのかもしれない。


案の定、帰宅してから夜遅くまで古代樹の杖の使用感を確かめていたという。

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