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勇者とは、さもありなん  作者: 千子
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第8話

失意のままではいられない。

私は勇者なんだかんだから。

出来損ないでも、勇者なんだから。

出来うることはしないといけない。




無言のまま土の上で休んでいたアデリアさんやイースさんやカルシアさんを精一杯の笑顔で励まそうとしても、何も言えない。

言える言葉がない。

私も何を言われてもこの感情が失くなることはないだろう。




早く強くなりたい。

これ以上、失くしたくない。


そのためには強くならなきゃ。

魔王の手下を倒して、魔王に和平を申し込む。

矛盾があるが、それしかない。




事の顛末はギルドに報告した。

なにせ、村がひとつ丸ごと焼失したのだ。

言わないわけにはいかない。

ギルドでの私達の評価は下がった。

並みのギルドメンバーや旅人なら魔族絡みならば仕方がないとなるかもしれない。

だけど、私は勇者だ。

完全に実力がないけれど、勇者だ。

そしてそんな私の仲間になっているみんなは勇者パーティーだ。

勇者がいて、その仲間がいて、魔族の思惑通りになった。

これは由々しき事態として報告された。

関係各所に連絡されて、事態が正式にどう処理されるか判断されるまで街に足止めになった。




ふと、イースさんが一言も喋っていないことに気が付いた。

もちろんいつもの憎まれ口もない。

それはそうだよな。

イースさんが一番年若く多感な年頃だろう。

そうとなったらイースさんのメンタルケアもしなくてはならない。

戦い慣れたアデリアさんは落ち込みつつもなんとか自分をコントロール出来ているし、カルシアさんも村での一件以来様子がおかしいが、それほどでもない。

と、いうかずっと怒っているので近寄りがたい。それに考える様子が多くなった。

とりあえず今はイースさんが一番心配だ。

イースさんの憎まれ口やアデリアさんの豪快な笑い声とカルシアさんの笑顔がないと、いつもの日常って感じがしない。

まだ、いつもの日常を感じるには早いかも知れないけれど。




ここで、今度こそ勇者としてイースさんを励まさなければ。

……勇者としてってなんだろう?

どうしたら、私の言葉でイースさんを元気付けられるだろう。

村人の誰も救えなかった私が、イースさんを励ませるんだろうか?

分からないが、とりあえず当たって砕けるしかない!…いや!出来れば砕けたくない!




足止めさせられている宿屋の一室にいるイースさんを訪ねる。

扉の前でノックをすると小さな声で、どうぞと招かれた。

中に入りつつ声を掛ける。

「イースさん、お菓子食べない?」

昨夜から何も食べていないのを私は知っている。

正確には食べられない、かな。

あんなに大勢の屍肉を見たら食欲なくすよね。

だからカラフルなドーナッツを買ってみた。

「どう?ナウなヤングにバカウケのドーナッツらしいよ。アルテさん、若い子に混じって並んじゃったよ」

「なんですか、ナウなヤングにバカウケって。死語にも程があるでしょう」

良かった。少しは憎まれ口叩けるようになってきた。

「ドーナッツ、美味しいね」

「なんで差し入れた側が先に選んで食べてるんですか。…でも本当に美味しいですね。糖分って感じがします」

その感想はどうなんだろうか。

でも美味しいって思ってくれたなら良かったな。

美味しいは正義!心を解きほぐしてくれる。

しばらく二人で無言で食べてたけど、二個目を食べ終わった時点でイースさんから問い掛けられた。


「託宣って、なんなんでしょうね?」

イースさんが遠くを見て言う。

そんなこと、私も分からない。

なんでこのメンバーが人選に選ばれたのか、まさに神のみぞ知るというところだろう。

本当に、私達が選ばれた意味とはなんだろうか。

「託宣の意味とか、選ばれた理由は分からないけれど、私は一緒に旅をするのがアデリアさんとイースさんとカルシアさんで良かったと思うよ」

本当に、このメンバーで良かった

おかげさまでつらいこともあるけど、笑って過ごさせてもらえている。

これが他の人だったらどうなんだろうと考えたこともあるけれど、私にとってはこの四人でパーティーメンバー組めて良かったと思える。

大勢の人がいるなかで選ばれて、そう思えるのはきっとすごいことなんだ。

「……僕も、皆さんとメンバーを組めて良かったとは思っています」

初めて弱々しくながらも笑ってくれた。

良かった。

私の励ましでもイースさんの心が少しは元気になってくれた。

嬉しくて感動していると、ノックの音が聞こえた。

「じゃーん!イースに差し入れだよー!ナウなヤングにバカウケのドーナッツらしいよー!食べよー!」

とアデリアさんが言いながら入ってきて、後ろから控え目にカルシアさんが入ってきた。

私とイースさんは大笑いしてしまった。




大丈夫。まだ笑えるから、大丈夫。

私は自分自身にもそう思い込ませて、追加されたドーナッツを食べながらカルシアさんが淹れてくれたお茶に舌鼓を打った。

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