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勇者とは、さもありなん  作者: 千子
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第6話

次の武具のための素材は妖精の加護だった。

また曖昧すぎるものを…と思いながら妖精が居ると噂されている妖精の森と称されるところへと向かう。

エルフも妖精も森大好きだよね。

おかげでめっちゃ虫刺されする。

でも、村を思い出して懐かしい気持ちになる。

風の音、大地の感触、植物の香り、動物の鳴き声。

全部村に置いてきたと思ってきたけど、どこにでもあるものだった。

感傷に浸りながら妖精を探していると、アデリアさんが網と虫籠を持っていることに気付いてしまった。

「アデリアさん。それで妖精を捕まえようとしてもダメですよ」

私より先にカルシアさんが突っ込んでくれた。

アデリアさん、頼れるのに変なとこで抜けてて可愛いよね。

ちなみにイースさんは「エルフはアレでしたけど妖精はちゃんと妖精ぽいはず…!」と期待している。

エルフをアレ呼ばわりするな。

確かにちょっとアレだったけど。




「見付からないねー、妖精」

「そう簡単に見付からないんですよ、そう!妖精だから!」

イースさんの妖精への期待値が高い。

これで妖精もエルフみたいにアレだったら少年の心が折れそう。

妖精はちゃんと、妖精!て感じでいてほしいな!

どんなんかは知らんけど!




しばらく探索すると小さな光が近付いてきた。

思わずアデリアさんから没収していた網で取っ捕まえると光が叫んだ。

「何をするんだ!人間風情が!!」

「なんかでっかい虫捕まえたからとりあえず燃やそ。イースさーん!謎のでかい虫を捕まえたんでちょっと燃やしてくださーい!」

「すいませんでした!!」

光、もとい妖精が謝った。

その声を聞きつけ妖精がわらわら出てきた。




「うちの野蛮人が申し訳ありません」

イースさんが妖精に謝る。

野蛮人とはなんだ。野蛮人とは。ちょっとムカついたから意地悪言っただけだもん!

アデリアさんと共に妖精から隔離された私はむくれた。

「実は、あなた達妖精の加護が必要なのです」

カルシアさんがこれまでの経緯を丁寧に説明し頼む。

「俺達の加護がほしいのか?」

偉そうな一人の妖精が前へ出て言うと離れた場所からアデリアさんも負けじと大声で答えた。

「そうです!ください!」

「アデリアさんの直球は美徳ですけどちょっと黙ってましょうか。あと鼓膜が破れそうでした」

「分かった!」

素直に下がってくれるところ、すき。

交渉事はカルシアさんが得意なのでお任せしよう。

「そうです。魔王の元へ辿り着くためには新たな武具が必要。そしてそのためにはあなた方の加護が必要なのです。高名な妖精とお見受けしますが、私達にあなた方の加護を授けてくださいませんか?」

いよっ!さすがはカルシアさん!唯一のまともなメンバー!!

私の心の声が聞こえたのかイースさんが「僕もまともですが」とか言ってた気がするけど聞こえないことにした。

だってイースさんメンタル脆いじゃん。成長期だもんね。まだまだこれからだよね。

いいこに成長できるといいね。




「いくら勇者だからって、妖精の加護をそんな簡単には人間に与えられない」

ですよねー。エルフがおかしかった。

「どうすれば加護を授けてくださるのでしょうか?」

もはや喋っているのはカルシアさんだけだ。

「お前達に試練を与える。それをこなせれば認めて加護を与えてやってもいい」

偉そうな、多分実際一番偉い妖精が言う。

「その試練とは…?」

みんな息を飲む。


「それはだな…」


偉そうな妖精が溜めて告げる。


「俺達を褒め称えろ!!!!」


その場が静まり返った。

今、何て言ったこの妖精。


「人間共は我々の加護を当たり前のように火を使い、風を感じ、水を飲み、大地を耕す!我々がいなければなにもかもがなくなるのに、最近の人間は我々を敬おうともしない!由々しき事態だ!!褒め称えろ!!!我等妖精を!!」


ふんぞり返って偉い妖精は言う。

だけど、その通りだと思った。


「妖精は、すごい」


素直な気持ちだ。

村に置いてきたと思ったものを、今も感じられるのは妖精のおかげだ。

今まで当たり前に感じていた?

本当にその通りだ。

すべてに加護は宿っている。

それが妖精のおかげだと、何故忘れていたのか。


「妖精は、すごい」


もう一度言う。


妖精達は馬鹿の一つ覚えのような私の短文すら満足気だ。

それほどに敬われてこなかったのだろう。

そういえば、村に妖精を奉る祠があったけど寂れていたな。

当たり前を当たり前と享受して、とても大切なことを見失っていた。


「よっしゃ!妖精達を褒め称えるパーティーをしよう!!」

「そうですね。私達は当たり前の加護を忘れていたのかもしれません」

「妖精達の言うことも、もっともですね」

「宴会だーーー!!!妖精達を褒め称えろーーー!!!」

こちらもノリノリになってきた。




そのままご飯を作って宴会が始まった。

褒め称えるってなんか違うとは思いながらも妖精達も楽しそうで何よりだ!

飲めや歌えやのドンチャン騒ぎだった。

しばらく考えることが多かったからこの大騒ぎで少しは忘れられそうだ。

いや、忘れちゃダメなんだけど。

ちゃんと考えなくちゃいけないことなんだけど。

今は、そう、精一杯楽しみたい!


当たり前を当たり前と享受しないということは難しいかもしれないけれど、思い出した時には大切にしたい。




ドンチャン騒ぎから一夜明け、途中でおねむだったイースさん以外は二日酔いという地獄を味わっている。

妖精ってすごいからね、無限にお酒が作れちゃったんだ…飲んじゃったんだ…。てへぺろ!

でも、余程楽しかったようで偉そうな妖精も、他の妖精達もとても満足気だった。


「昨夜…今朝方か!久々にとても楽しく満足させてもらったぞ!人間共!!

もう少しで火を止め、水を枯らせ、木々が育たぬようにして風も吹かぬようにするところであった!」


………あぶねーーー!!!

私達、世界救ってた!知らない間に宴会で世界救ってた!!

冷や汗かいてよいが一気に醒めたのはわたしだけじゃないだろう。


「これからは妖精達のご加護を忘れずに生きていきたいと思います」

私が勇者として代表としてそう告げると、偉そうな妖精はまた少し不機嫌な顔をして宣言する。

「すべての人間がそうなればいいが、難しいだろうからな!今回の宴会だけで数百年は許してやろう! 」


数百年だけかー。

子孫頑張れー!!

これは語り継がねばならないな。

なにせ、人類存続の危機だからな。




そして景気よく妖精達と別れ街へ戻ろうとした。

妖精の加護を貰い忘れたと途中で気付き慌てて引き返すまで10分掛かった。

宴会ですっかり忘れてた…。

妖精の加護は、その力を秘めた宝石だった。

キラキラ光ってキレイだな。

光に当てると七色に光る。

すべてのものの未来もこんな風に明るければいいのにと思った。

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