蛇蜘蛛姫
――ああ、久々のお客さんね。いらっしゃい、ここは蜘蛛蛇城よ。
あら、驚いているようね。私の姿が、そんなに醜いかしら?
醜いわよね。私だってわかっているわ。
手足は蜘蛛みたいに長いし、胴体なんて蛇そのもの。こうやって首をもたげていると蛇腹がよく見えるでしょう。
それなのに顔だけ人間のまま。気持ち悪いわよね。
でもそんなに怯えなくていいのよ。大丈夫だから。
せっかく人に会えたんですもの、お話をしなくっちゃ。
ねえ聞いてくれる――? 遠い昔々のお話を。
嫌だと言っても聞かせるのだけれどね?
ある日私はこっそり城を抜け出して、森の中へやってきていたの。
元々は、大きな国のお姫様だったのよ? 今では信じられないでしょうけど、美姫とまで言われていたんだから。
でも私は城の窮屈な生活が嫌になっていた。だから父親と喧嘩した時に飛び出して、それっきりね……。
旅の途中で素敵な男の人と会った。そう、ちょうどあなたのようにね。
逞しい人だった。力があって優しくて、あれが一目惚れというやつなのかしら。
――好きだった。大好きだった。
彼を城に連れて帰ろうと思ったのよ……。そろそろ、家出にも飽きてきたし。それで城へ戻る途中、この館へ寄ったのよ。
今では、あの時のことをずっと後悔しているわ……。
「誰かいませんか」と言ったら中から声がしたの。
「入っておいで」ってね。
だから私は、彼と一緒に館へ入ったのよ。まさか、中であんな奴が待っているとは思わなかったからね……。
そいつは蛇。今の私みたいな格好だった。とても醜くて、穢らわしい蜘蛛のような蛇。
私は彼と一緒に逃げ出そうとした。でも、蛇の毒牙は私たちを襲って……、彼は蛇に食われ、死んだわ。
そして私も思う存分貪られた。人の尊厳なんて知るかとばかりに。
でも私は生き残るのに必死だった。逆に蛇に食らいついて、蜘蛛の足をちぎり取って。
気づけば蜘蛛蛇は血に沈んでいた。
……けれどね、お話はそれだけじゃないの。
ゆっくり頭をもたげたそいつが何を言ったと思う? 「お前に呪いをかけた。人を千人喰らうまでは解けないだろう」
それを無視して私は、すぐに化け物にとどめを刺そうとしてわかったの。
――自分の手が、蜘蛛みたいに細くなってることにね。
千人を殺すまで、私はここから出られない。この苦しみから解き放たれない。
彼の後を追おうと、何度も思ったわ……。でもそれは無理だった。私は死ねなくて、けれど生きているかどうかも怪しいままで、何百年も過ごしてきたのよ……。
かつては美しく、今は醜い哀れなお姫様。愛する人に先立たれてもなお死ねなかった女。それが私、蛇蜘蛛姫なの。
さあ、これでお話はおしまい。
旅人さん、あなたでちょうど千人め。だから私もこんなに話したくなったのでしょうね。
あらあらだめよ? 逃げようとしたって無駄。もう城のあちこちに蜘蛛の巣を張り巡らせてあるの。絡まっちゃって、かわいい人。
じっとしてて。狙いがぶれるから。
どうか、私を救ってちょうだい。この長い長い苦しみから。