表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー系

蛇蜘蛛姫

 ――ああ、久々のお客さんね。いらっしゃい、ここは蜘蛛蛇城よ。

 あら、驚いているようね。私の姿が、そんなに醜いかしら?


 醜いわよね。私だってわかっているわ。

 手足は蜘蛛みたいに長いし、胴体なんて蛇そのもの。こうやって首をもたげていると蛇腹がよく見えるでしょう。

 それなのに顔だけ人間のまま。気持ち悪いわよね。


 でもそんなに怯えなくていいのよ。大丈夫だから。

 せっかく人に会えたんですもの、お話をしなくっちゃ。


 ねえ聞いてくれる――? 遠い昔々のお話を。


 嫌だと言っても聞かせるのだけれどね?


 ある日私はこっそり城を抜け出して、森の中へやってきていたの。

 元々は、大きな国のお姫様だったのよ? 今では信じられないでしょうけど、美姫とまで言われていたんだから。


 でも私は城の窮屈な生活が嫌になっていた。だから父親と喧嘩した時に飛び出して、それっきりね……。


 旅の途中で素敵な男の人と会った。そう、ちょうどあなたのようにね。

 逞しい人だった。力があって優しくて、あれが一目惚れというやつなのかしら。


 ――好きだった。大好きだった。


 彼を城に連れて帰ろうと思ったのよ……。そろそろ、家出にも飽きてきたし。それで城へ戻る途中、この館へ寄ったのよ。

 今では、あの時のことをずっと後悔しているわ……。


「誰かいませんか」と言ったら中から声がしたの。


「入っておいで」ってね。


 だから私は、彼と一緒に館へ入ったのよ。まさか、中であんな奴が待っているとは思わなかったからね……。


 そいつは蛇。今の私みたいな格好だった。とても醜くて、穢らわしい蜘蛛のような蛇。

 私は彼と一緒に逃げ出そうとした。でも、蛇の毒牙は私たちを襲って……、彼は蛇に食われ、死んだわ。

 そして私も思う存分貪られた。人の尊厳なんて知るかとばかりに。


 でも私は生き残るのに必死だった。逆に蛇に食らいついて、蜘蛛の足をちぎり取って。

 気づけば蜘蛛蛇は血に沈んでいた。


 ……けれどね、お話はそれだけじゃないの。

 ゆっくり頭をもたげたそいつが何を言ったと思う? 「お前に呪いをかけた。人を千人喰らうまでは解けないだろう」


 それを無視して私は、すぐに化け物にとどめを刺そうとしてわかったの。

 ――自分の手が、蜘蛛みたいに細くなってることにね。


 千人を殺すまで、私はここから出られない。この苦しみから解き放たれない。

 彼の後を追おうと、何度も思ったわ……。でもそれは無理だった。私は死ねなくて、けれど生きているかどうかも怪しいままで、何百年も過ごしてきたのよ……。


 かつては美しく、今は醜い哀れなお姫様。愛する人に先立たれてもなお死ねなかった女。それが私、蛇蜘蛛姫なの。


 さあ、これでお話はおしまい。

 旅人さん、あなたでちょうど千人め。だから私もこんなに話したくなったのでしょうね。


 あらあらだめよ? 逃げようとしたって無駄。もう城のあちこちに蜘蛛の巣を張り巡らせてあるの。絡まっちゃって、かわいい人。


 じっとしてて。狙いがぶれるから。

 どうか、私を救ってちょうだい。この長い長い苦しみから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おお! 柴野さんにしては珍しく一人語りの設定とは! おどろおどろしい姿のまま、ホラーエンドとは徹底してますね。 はてさて姫はもとの姿に戻れるのでしょうか……?
[良い点] 怖いけどすごく好きな世界観です〜! 蛇蜘蛛姫、なんとも切ないですね(ノ_<) 読ませていただきありがとうございました!
2022/06/02 19:34 退会済み
管理
[一言]  ((((;゜Д゜))))  かなりこわかったです。  語り口がやわらかいところがまた。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ