第9話 子供ミュクゼ
『子供ミュクゼ』
なんなんだ。
なんなんだよ。
俺は一体どうなったんだ。
訳が分からないんだ。この状況の。
父さんも母さんも殺されて、復讐を誓った瞬間。
変なとこに移動してしまった。
どこかの森の中だ、近くには変な人達もいる。
その人達は、なんか妙に俺に馴れ馴れしい。
どういう事なんだよ。
俺の身に何が起こったんだ。知ってる人がいるなら誰か説明してほしい。
一応、俺の周りには女の人とか頼りなさそうな男の人とか、何も考えてなさそうな男の人とか、色々な人がいたけど、ぜんぜん信用できない。
だって、ここに来るまでの今までの記憶がないんだから。
場合によってはこいつらは悪人側なのかもしれないし。
人は見かけによらない。
事情を知るなら誰かに聞くより自分で調べた方が、確実だ。
だから、俺はそいつらの元から隙をみて逃げ出した。
けれど、まずかったな。
迷ってしまった。
方向が分からない。
俺は森の中で生きていける種族だけど、どこかも分からない知らない森ではそれも通用しない。
動物達に話を聞いてみても、よく分からなかった。
長身からは、知らない森を甘く見るなと言われていたのに。
途方に暮れた俺は、立ち止まってしまう。
復讐なんてできるんだろうか。こんなざまで。
俺は確かに両親の仇をとると誓った。
けれど、現実の俺は無力だ。
困難の一つも突破する事ができないんだ。
こんなざまだと、余計な事をしでかしてまったく関係のない人まで、まきこんでしまうかもしれない。
でも、ならこの悔しい気持ちはどうすればいい。
両親の無念だって、誰がはらしてやれるんだ。
どこに向かって歩けばいいのか分からずに、苛立ちと焦燥感だけがつのっていく。
「くそっ」
声を荒げたって仕方がないのに。
味方でいてくれるはずの動物達ですら怯えて近づかなくなってしまった。
一人だ。
一人になってしまっている。
このまま運が悪かったら、ここで朽ち果てる事になりかねない。
「父さん! 母さん!」
だから、いるはずもない人達に思わず助けを求めてしまった。
来てくれるわけ、ないのに。
けれど、そこに一人の男がやって来た。




