夫人故に
――夫人救出事件後、舞子に学校前に待ち伏せられた日から数日が過ぎ、前回の竹槍訓練から一ヶ月が経った。
月に一度の合同竹槍訓練、それが今日だった。
『白百合城南高等女学校(通称、百合女)』の校庭で行われるそれは、憲兵が直々に赴き、聞き飽きた戯言を延々と演説し、時代錯誤な精神論で私達に竹槍を振るわせるものだった。
しかし女学生達の間ではその事よりも、その後の事について憶測が飛び交った。
竹槍訓練後のチョコレートを賭けた、『錬女』と『百合女』の決闘――それは果たして行うのか?実は二人は仲が良いのか?二人は夫人と決闘を行うのではないか等。
夫人救出事件では、『非国民狩り』に遭った夫人を、『姫』と『お嬢』が助け出そうとした――しかし真相は夫人が二人を貶め様としており、現場には多く女学生も居り、その一部始終を目撃され、夫人の本性が露呈した。
その場の雰囲気や好奇心とは言え、女学生達もその事に加担した事を気にしており、夫人を責める者は居なかった。
女学生達の間でも意見は二分し、二人の正体を知ろうとした夫人のやり方を好ましくない者も多く、噂を聞いた『姫』や『お嬢』をひいきにしている者達から反感を買った。
しかし、チョコレートの力は絶大で、夫人の行った散蒔きとも呼べるそれは女学生達の心を取り戻したのだった。
とは言え、夫人はチョコレートだけで『夫人』と呼ばれていた訳ではない。
その容姿に性格、それは事件の真相とは程遠く、私は今でも信じられなかった。
それに、夫人に対する同情も多く、それによって歪められた真実は夫人が被害者の様に扱った――その所為もあってか、夫人の人気は変わらずのものだった。




