一本
私には、『危険回避能力』とでもいうような、『第六感』と呼べるものがあった。
危険を感じると体が勝手に動いてしまい、それを回避する。無自覚ではあったが、そうとしか言い様がなかった。
危険というものは、日々生きて行く中で、そんなにも起こり得るものではない。しかし、今までの経験とこの状況で私は確信した。この力の存在を。
この能力の所為だろう、私は立ち上がり、竹槍を構えていたのだから。
はっきり言って私に勝ち目は無かった。なのにどうだろう、私の身体は、私は戦おうとしている。今直ぐ竹槍を離し、額の一つでも床に擦り付ければ済むものの。
第六感がそうさせたのだろう――彼女相手には立ち向かうしか身を守る術がないと。
もしくは、別の何かが――。
薙刀と槍の戦いではあったが、私の槍は竹製で、槍ではない。それに比べ彼女の薙刀は真剣。それに彼女の構えは何か、特別に威圧感があった。
「行くぞ――おーえす!」
スン――。カラン…!
気が付くと、私が刀の様に、無造作に持っていた竹槍は、真ん中から真っ二つに成っていた。
「あ、あれ?――」
その軌道すら見えなかった彼女の薙刀は、袈裟を描き振り降ろされていた。
「次!――」
その言葉にハッとした私は、彼女に促されるまま、二本目の竹槍を拾っていた。
おかしい、一体何が起こったのか。つい先刻の自慢げにしていたあれは何処へ――。
竹槍を槍らしく持ってはみたものの、次の瞬間には手元から消えていた。
掃い、一文字、突き、小手――竹槍は弾き飛ばされ、切り刻まれ、見る見るその数を減らしていった。
そして、ようやく気が付いた。手を抜かれている事に。