中毒
『ニンジン』を使った『非国民狩り』が失敗に終わり、意気消沈した夫人であったが、私の元にもその黒い魅惑の甘味は夫人から横流しされてきた。
甘く、人を惑わす黒い悪魔。『チョコレート』。
夫人との一件があったにもかかわらず、私は誘惑を断る事が出来ず、それを口に含んだ――。
それは何時になく甘く、その味とは裏腹にほろ苦いひと時をもたらした。
――平塚職業訓練女子学校(通称、錬女)。私の通う学校。
朝には話題にも上がっていたが、週末の騒動など既に忘れられたか、何事も無く何時も通りの日常だった。
授業も程々に学徒動員。兵器造りの日常。
錬女には施設も道具の揃っており、さながら軍需工場の様な風景だった。
それが私の日常――だった。
夫人救出騒動の一件以来『非国民狩り』に遭う女学生が増えていた――それは私達、基『姫』と『お嬢』の行動により、『ギブミー・チョコレート』と唱える者が心なしか増えだしたと言う事だった。
何に感化されたのか、洋服を着だしたり、『シンディ』を大声で歌いだしたり、仕舞いには金髪にしだす女学生まで出始めていた。
しかしそれは全て非国民狩りの対象であり、捕まった女学生達は強制社会奉仕へ繰り出された。
私は『予科練』を連想していた所為か、その処罰はとても軽く感じた。
やはり『予科練』というのは噂でしかなかったのか――。
その所為もあってか、非国民狩りへの恐怖は社会奉仕程度と、非・国民的な女学生の噂をたまに聞いた。
それでも私の周りには、実際にそんな事をする者は居なかった――唯一人を除いて。




