思い出の竹林
流暢に話す彼女と裏腹に、戸惑いを隠せない私は、彼女に抱えられ唯宙を漂っているだけだった。
『私、空を飛んでる。彼女、空を飛べるんだ――というか、普通に喋れるじゃん!』
「サッちゃん、なのね?――貴女、何故こんな事を?」
「かぐやちゃんこそ、何故非国民なんかに――髪綺麗ね」
「私は、夫人を助ける為に――」
「――私もよ、仲間の為に」
仲間――。
「そうだ!『お嬢』は――」
「大丈夫。彼女はもう逃げたわ――このまま話すのもあれだし、私達も逃げましょう」
――私は彼女に抱きかかえられ、その場を飛び去った。眼下に小さく見える夫人や女学生達を残して。
空を飛ぶという奇跡的な体験は、余りの出来事で実感が無く、いつの間にか私は、『松竹梅』や、『魔法の竹』が在った竹林の山へ連れて来られていた。
その山頂、『松竹梅』が在った場所。そこへ降り立った。
今はもう無くなっている。その原因、あれは現実だったのか。今でも信じられない。
それは今のこの状況も同じである。
「『松竹梅』。もう無くなっちゃったのね。覚えている?ここでよく――」
「覚えていないわ。貴女の事もついさっき思い出した位なの」
私は『魔法の竹槍』を放し、彼女に正体、基素顔を晒した。
もうバレているのだからそれに抵抗は無かった。
「仕方ないわ、何年も前の事だもの――大人に成ったのね」
「私が、私が自分で消したのよ。今考えても信じられない、昔も今も――『サッちゃん』。貴女は一体何者なの?」
彼女には表情が無かった――口や目が有り、それがどんなに動こうとも、そこに感情と呼べるものは現れなかった。
それでも、その無言の時間は、彼女の心が創ったものだろう。
「――私、『赤紙』が来たの。戦場へ行く事になったわ」
「――!?」
「今日は貴女に会えて良かった――」
「サッちゃん…」
「――さよなら、かぐやちゃん」
そう言うと、彼女は飛び去ってしまった。
私を一人残して――。




