舞子
いつの間にか握られていた竹槍は、彼女が振り降ろした薙刀を頭上で止めていた。
咄嗟にその場に散らばっていた竹槍を私は掴んでいたのだった。
とは言え、真剣の薙刀を竹槍ごときが防げる筈も無く、彼女は最初から寸止めでもするつもりだったのだろう。
「私の一撃を防いだか――それなりの心得はある様だな。立ち上がり、私と戦え。貴女に興味がわいた」
後から聞いた話によると、彼女の名前は『西條舞子』。二学年で、私より一つ上。この『百合女』では少し有名な存在だった。
彼女の家は薙刀の名家で、『東の西條、西の東條』と言われる程有名だった。
勿論彼女もまた薙刀の腕が立ち、師範である父親をも凌ぐとも言われていた。
さらに精悍な顔立ちに、その袴姿は、女学生達からの注目の的であった。
彼女の人気は、百合女で流行していた海外の祭りを真似、相手にチョコレートを贈る行為において、その貰った数を競われる程であった。
さすがは女学校、随分と勿体無い事をしている――唯、その祭り自体は面白い。やはり海外はやる事が違う。私も何時か外へ――。
――私と会ったあの日より少し前から、学内でのチョコレートの盗難が相次ぎ、道場でも同様な被害が出ていた。
彼女も被害者らしく、犯人を血眼になって探していたらしい。
そして、学内の見回りを請け負ったのが彼女だった。
貰ったチョコレートでも盗まれたのだろう、その女学生達の為か、将又自分の為か。あの日も同様に見回っていたのだ。
竹槍を持っていた私を、犯人に間違う程必死に。
「いいか?次は止めないぞ――」