切れ
ブンッ――!
西條舞子基、『お嬢』の振るった竹槍での一太刀は、私の前髪を掠めていった。
――私は身を仰け反り、寸前のところで何とかその一撃をかわした。
一体何を――。
「危ないじゃない!――何のつもり?」
「力が、力が溢れて来る――今なら何でも出来そうだ…」
彼女、どうしたのか。何かおかしい。
天を仰ぐ彼女は、何かに取り憑かれた様に不気味で、上の空だった。
これは、新しい『魔法の竹』所為なの?力が溢れるとは一体。
「――『お嬢』?」
ギロリ――。
天を仰ぐ彼女は、顔も動かさず眼だけを動かし私を睨みつけた。
「私は奴が憎かった――初めて逢ったあの日。奴に敗れたあの時から続いている」
「……」
「私は一時も忘れた事が無い。いや、忘れられない。脳裏にちらつく」
「……」
「それは今も続いている」
「……一体何が?」
「『敗北』――私は常に勝ち続けて来た。しかし、奴に出会ってから勝つ事が出来なくなった。常に奴が、『敗北』ちらつき、それを拭えない」
「お嬢…」
「『姫』が私を嘲笑い、私は今も負け続けている――奴は何処だ?奴を出せ!」
お嬢――。
それ程『姫』に負けた事を――しかし、何故今。彼女は一体どうしてしまったのか。まるで負の感情が溢れている。
ブンッ!――憎しみの矛先は再び私に向けられ、彼女は襲い掛かって来た。
私は『姫』であって、今は『姫』ではない。生身のままでは、変身した彼女の竹槍を何時までも躱しきれない。
一体どうすれば――。
ブン、ブンッ――。
?おかしい、彼女の太刀筋とはまるで違う――『お嬢』は竹槍を薙刀の様に扱っていたのに、これでは本来の、技の切れが無い。
今まで受けて来た彼女の形とはまるで別のものだ。
唯闇雲に振っている様な。我を忘れている様な。
しかし、寸前を掠める竹槍は鋭さを増し、竹林の青竹を次々と切り刻んでいった。
このままでは――。




