チョコレート
『欲しがりません、勝つまでは――』そうは言っても、欲しいものは欲しく。ならば勝ち取るまでと、彼女達は立ち上がった。
『ギブミー・チョコレート』を合言葉に。
彼女達にとってチョコレートは、海外への憧れであり、その味は金にも値した。
しかし、『糖類憐みの令』での横流しが有るとはいえ、その量は僅かであった。
だから彼女達は竹槍を手に取り、戦った。
同じ女学生同士。己のチョコレートと、尊厳を賭け。
一対一の試合形式で行われたそれは、日頃の訓練で鍛えた竹槍で戦い、一本を先取した者が勝ち、相手のチョコレート手に出来るものだった。
試合のやり方は、寸止めから、防具を付けての打撃戦まで、各々互いの合意で決められていた。
そんな中、防具も付けず生身で竹槍を突き合う二人が居た。
勿論槍の先は尖り、本気で突き合う。殺そうかという勢いである。
しかし、その二人は決して怪我をしなかった。それどころか槍がかすりもしない。何か特別な力が働いている様な――。
それも不思議だったが、何より不思議だったのは、その彼女二人を知る者が居ない事だった。
いつの間にか現れ、決まって二人は戦い、いつの間にか消えてしまう。一体誰で、何処から来たのか、謎であった。
何故二人は戦うのか、何処の誰かも名乗らず。最初は二人を怖がり恐れていたが、それでも二人の試合は凄かった。そんな事を忘れさせる程に。
徐々に二人は憧れの的に成り、その戦いに魅せられた女学生達は、自分達で戦う事を止め、自らのチョコレートを二人に託し、見守る様に成っていた。
女学生達の乙女心は、二人の事をその優美な見た目から『姫』と『お嬢』と呼び、彼女達をときめかせた。
そして何時しか、二人の試合は学校対抗の代理戦争に成り替わっていた。職業訓練女学生側は『姫』を、女学女子側は『お嬢』を代表に決め、学校の威信、命程のチョコレートを賭けて二人は戦った――。