予科練
「まさか夫人は、『予科練』に連れて行かれたりしてないよね?――」
「『紅百合』――。でもあれは噂でしょう」
『予科練』――。『戦闘機予科練習生』の略。志願制の戦闘機搭乗員養成制度。年頃の男子が集められ、戦場へ送る為訓練をさせられていた。
これに志願しなければ非国民と罵られていた。
しかし、少数ではあるが、女子によるそれも存在した。
『紅百合』――。『看護予科訓練生』。戦闘はしないが戦場へ行き、衛生兵として働く為女子が集められた。その総称。
募集はしているが、志願する者等居らず、半強制的に集められていた。
その一つの方法が非国民狩りであった。
「まだそうと決まった訳ではないわ――」
「そうね、非国民狩りに遭った事も本当かどうか」
「でしたら、夫人の家に行ってみましょう!」
――錬女の生徒達は決起し、おチョコ夫人の家に行くという。私も来て欲しいと言われたが、その場は適当に誤魔化し、その日は、試合はお開きとなった。
私とお嬢は、皆が帰った後、魔法の竹槍を見つからない様に隠し、帰る用意をしていた。
自分達の正体を隠す為とはいえ、私も皆と夫人の家に飛んで行きたかった。
今からでも行きたいところだったが、私は夫人の家の場所が分からず、どうすることも出来なかった。
夫人に会いたい――会って無事を確かめたい。全て嘘だと言われたい。
夫人――。
「――もし、仮に非国民狩りで捕まったとしたら、その人物はまず憲兵署に連れて行かれる筈だ」
「西條さん、それは本当!?じゃあ、そちらに行けば――」
「しかし、そこに居るということは、最悪を意味する。それでも行くか?」
そんな事信じない。きっと夫人はお屋敷に居る筈――今頃、優雅にチョコレートを食べながら。




