非国民狩り
『おチョコ夫人』――。本名、『天満・A・千代子』
平塚職業訓練女子学校(通称、錬女)、家庭科三年。花嫁修業の為入学。
この時既に、女学校では花嫁修業、行儀修行等は教えてはおらず、職業訓練学校へ進む者も多かった。
彼女の家は特権階級で、そこそこ良い階級、『二等国民』に位置しており、『糖類憐みの令』が適用されていた。
その為、度々錬女にチョコレートを横流ししており、ギブミー・チョコレートを体現している人物であった。
容姿端麗、良家の令嬢。それでいて、誰にでも隔たり無く接し、優しかった。
かぐやを含め、錬女生徒の憧れであった――。
「お嬢。『おチョコ夫人』は、私達百合女にもチョコレートを流してくれている人よ。私達、とてもお世話になっている方で――」
「私達が食べていたチョコレートは、彼女が――」
『非国民狩り』――。鎖国と戦争によって、贅沢や外国の物事が規制され、『今』の状況に協力的でない人や物事を非国民扱いしていた。
さらにそれらを取り締まり、裁いていた行為を『非国民狩り』と称していた。
しかし、ちょっとやそっとの事では非国民狩りに遭う事はまずなく、まして特権階級に至ってはその様な事起きる訳がなかった。
そして、滅多にない事ではあるが、女学生が非国民狩りに遭うと、強制的に予科練へ送られていた。
『紅百合』へ――。
「何故そんな事に――一体どうして?」
「それが、『MP』を使ったとかで…」
「たったそれだけで――」
『MP』――。外国製だが、その時女学生の間で流行していた音楽を聴く道具。
――数多くの音楽が嗜まれ、その中でも『シンディ』は乙女達の心そのものだった。




