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もしも仮に好きと言えたなら  作者: わいず
美春side 重たい愛 聞きたい想い 見えていなかった事
9/12

9話

 雪美の足音は徐々に遠くなっていった。その歩幅は未練がましさを現すように、狭い。

 明らかに俯き気味に歩く雪美の姿は見ていて辛い。


「ふざ……けないで。なんで、どうしてよ……ッッ」


 悪いけれど、怒りが抑えられそうにない。気がついたら私は拳を作っていて、静かにベンチから立ち上がっていた。

 理性と冷静さが失われていく。また聞きたくない言葉を言った。違う、違う、違う、そんな言葉なんて聞きたくない。


 何度思わせれば気が済むの?


『ごめんなさい。私は貴女とは付き合えないわ。そんな資格は無いもの』


 付き合えないなんて選択肢は無いし、資格なんて必要無い!!


『きっと美春の為にも良いと思うの。だから、これでさよならしましょう』


 私の……為? ふざけるのも大概にして。何処まで私の気持ちを無視するの?


「待ってよ。納得出来ない事言わないで」


 声を荒らげ雪美よりも大きな歩幅で近づいた時。雪美の歩く速さが増した。

 ……私は瞬時に、このまま逃げる気だと解った。何もかも気持ちを押さえ込んで居なくなるつもりなんだ。


「ねぇ、私は待ってて言ったよ。止まってよ、ねぇッッ」


 私の問い掛けに何も返さない。止まらない。振り向きもしない。

 止まれ、止まれ止まれ止まれ!! 未練がましく逃げるなら、止まって私を見て!! 必死に言ってもやっぱり止まらない。


 その時、私の中でプツリと何かがキレた。私は勢い良く走り出す。追い付くようにじゃない。


「待てって、言ってるでしょ」

「……きゃっ!?」


 思い切り突き飛ばす為。雪美は正面へ盛大に転んだ。そこに覆い被さる様に私は雪美を掴まえる。


「はぁ……ッッ、はぁ……ッッ。こんな手荒な事を私にさせるな。大好きな人を、傷つけさせないでよ!!」


 何度言っても止まってくれないから、そんな言い訳を盾にし、背を向けている雪美を無理矢理に正面を向かせた。

 その時の表情は、私の心を大きく震わせた。


「う゛……ぐすっ、ふぅ……ゥゥ」


 ……ほら、やっぱり泣いてるんじゃない。美人が掠れる位にグシャグシャにさせて、ボロボロ涙を零してる。

 今、雪美のそんな顔を見るとスゴく腹が立つ。振った癖にそんな顔しないでよ。嘘ついてまで振らないでよ。


「泣かないで。そんな雪美の顔、私は見たくない!!」


 痛いと感じさせるくらい、雪美の両肩を押さえつけてやった。少し痛かったのか雪美の眉がピクリと動いた。

 ……痛い、見ている私まで痛くなる。もう嫌だよ、少しでも雪美を傷付けたく無い。だからお願い。


 一生会わないつもりの"さよなら"なんて言わないで。資格だとかそんなの必要ないから……私に惚れたんなら、大好きって言って。


「そうよね。泣いて済む話じゃないのは解ってるわ。ごめんなさい」

「違う、違う違う違う!! そう言う意味じゃ無いの!!」


 どうして解ってくれないの。どうして伝わらないの。どうして、なんで、どうしてなの!! 雪美、バレてないとでも思うの? バレバレなんだよ。


 そんなに泣いて、未練がましく立ち去ろうとしたりして……本当は私の事が大好きなの、バレバレなんだから!!


「そうよね、うん。もう聞きたくないわよね……ごめんなさいなんて」

「ッッ、だ……だから、だから違うって言ってるでしょ!!」


 ビチッッ!!


 燃え上がる感情が雪美の頬を叩かせた。鈍く短く鳴ったその音と、痛がる仕草をする雪美を見た私の心は……酷く絞めつけられた。

 また、またやった。また手をあげちゃった。


「どうしてっ。どうしてそんな事しか言わないの!! 私を好きって言ってよ!! 謝るのも、逃げるのも、もう止めてよ!!」


 赤く腫れた雪美の頬と、泣き顔で私を見つめる雪美を交互に見つめ、叫んだ。こんな事も言いたく無い。

 言えば言うほど辛いんだよ? 謝るなら、私の気持ちを汲んでよ。許して欲しいなら……私と付き合ってよ。その後……結婚してよ、雪美。


「言えないわ」

「だ、だから。どうして!!」

「だって!!」


 雪美は私の言葉を遮るように叫んだ。この瞬間、雪美も感情をあらわにしたんだ。この時私は直感した。

 雪美の気持ちが解る、きっと雪美は私と付き合えない理由を言うんだと。


「美春の事を振ったあの時、あの後……酷いことを言われたじゃない。それで美春は泣いたわ」

「……?」


 刹那的に、私の中で大きな疑問が浮かんだ。それが私と付き合えない……理由? あの後……酷いことを……?

 もしかして急にでてきた奴等の事? 悪いけれど、私はアイツ等の言葉なんて微塵も響いていない。

 泣いた理由は。雪美、貴女に振られたからよ。


「私は怖かったの。隠れて見ていた奴等に何か言われるのが怖くて、私は自分の気持ちに嘘をついて……美春を振ったのよ」

「……ッッ!?」

「そんな女が、今更美春の事を好きって言えると思う? 私は思わないわ」


 ……は?

 な、なによソレ。そんなの雪美の勝手な理論じゃない。そんな意味不明の理論を壁にして、自分の行為を偽るなんて……実に愚かだ。


 だから、だから私は。


「他人にどう見られるか位で、私を振らないでよ。この臆病者!!」

「……ッッ」


 言った。声低く、怒りの感情をありったけ込めて。その後、私は続けて言い放った。


「ぜんぶ、雪美が勇気を持てば済む話。雪美の言ってる事は全部言い訳よ!!」

「ぇ、ぁ」

「そんな程度の理由で振られた私は惨めじゃな……ッッ」


 けれど、その言葉は突如遮られてしまった。


「何よソレ。私は美春ほど強い女じゃ無いわ!! その程度だなんて言わないで!!」


 空気を切り裂くほど、雪美が大きな声で叫んだから。その言葉の後、私は。


 ビチィッッ!!


 雪美に叩かれた……。それもスゴい力で。

 勢いで横に倒れ、仰向けになった私は雪美に覆い被さられ胸ぐらを掴まれた。息苦しさを感じた直後。


 溢れんばかりの涙を流し、雪美は声を荒らげ言い放った。


「私だって大好きって言いたかったわよ。もしも仮に好きって言えたなら……ッッ。私は、私は!! 美春と付き合いたかった」

「……ッッ」


 その涙ながらの声量は、遠くまで響いてしまう程に大きい。雪美の感情が伝わる。痛いくらいに伝わる。

 故に私は、酷く困惑してしまう。


「仮初のデートをしていた時も、私は未練がましく美春の事を想っていたの」


 私の服を掴み必死に訴えるのは、私の事が大好きで大好きで堪らない雪美の姿。……私は勢いに圧され黙ってしまった。

 同時に猛る様に燃えた雪美への怒りは何処かへ消え、自分自身に怒った。


「だから私の事を臆病者なんて言わないで。そんなの、もう痛い程解ってるから。聞きたく無いのよ」


 全部、自分のことばかりだった。雪美の気持ちを理解なんてしてなかった。

 気持ちが大き過ぎるが故に見えていなかった事実……。いえ、違う。私が見ようとも知ろうともしなかった事実ね。


 もし仮に、私が雪美の気持ちを知れば良かったんじゃないの? 振られた事実に悲しむ前に……彼女の心を知れば良かったのに。


(私は、大好きな人を信じれていなかった……の?)


 先程叩かれた痛みが霞むくらい心が痛い。全身の力が抜け、気が付けば雪美からズレ落ち床に座り込んでしまう。

 そんな私を見た雪美は……。


「美春の告白を受けられない理由、分かってくれたかしら?」


 静かに語った。分かりたくない、と思いつつ。私は漸く雪美の気持ちを理解した。

 雪美は私の事を嫌いだから振ったんじゃない。私を傷つけた事に苦しんでいるから振ったんだ。


「どんな未練があっても、大好きな人を傷つけた事実がある限り。私は春美とは付き合えないの」


 その事実がわかった時。雪美は冷たく呟いた後、まるで『これが本当のさよならよ』と寂しげに語るかの様に、ゆくり立ち上がり走り去っった。


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