8話
初まりは氷の様に冷やかに、話す時は烈火のよう話すって今決めた。きっと今からするのは一方的に気持ちをぶつける行為。
しちゃいけないんだろう、避けるべきなんだろう。でもごめんね、我慢出来ないから言うよ。
「私の言いたい事、分かる?」
「……」
以前、雪美は黙ったまま。そのまま黙っているつもり? それって卑怯だよ。お願いだから何か喋って。じゃないと……一方的に怒らないといけなくなる。
「言ったでしょ? 自分の気持ちを素直に言えないでいるといつか痛い目をみるって。覚えてる?」
チクリチクリとわざと言葉の棘を突き刺していき、私は雪美を苦しめた。苦しんで、苦しんで、苦しみ続けて反省して欲しいから。
「私、いつか必ず告白するって言ったよね? その時は雪美も素直な気持ちをぶつけて……って言ったよね?」
言葉をぶつける度、雪美は悲しい顔をする。後悔と反省の顔だって事、分かってはいるけれど私は止まらない。止まるつもりなんて無い。
「覚えてる? 忘れた……なんて言わせないから」
「ちゃんと覚えてるわよ。美春の言った通りになったわ。その、スゴく後悔してるわ」
やっと喋った雪美の声は、酷く暗い。目線を落として一切私を見ようとはしない。
何その仕草、気に入らない。それに言う言葉、間違ってる。私が聞きたい言葉は……『私も美春の事が大好き』ただソレだけ。
謝るよりも好きって言って、切っ掛けが無いと無理……? そんな言葉は聞きたくない、私は何年もずっと待っているの。
「美春、ごめんなさい。私、酷いことをしてしまったわ」
だから謝らないで。そんな言葉聞きたくない。謝って欲しくて会いたかったんじゃないのよ。
……って、私はまだ雪美に言いたい事を言ってない。言わないと、言わないと、言わないと!!
でも、私の口から言いたい言葉が出てこなかった。今日のレンタル彼女で感じた雪美にされた嫌な事が多すぎて言葉がまとまらない。
久しぶりに会ったとはいえ私に気が付かなかった事。どうして気が付かないのよ。気づいてよ……私の事、忘れられたかと思って悲しくなるじゃない。
"私が一番最初に好きになったのは、貴女だけよ"と言う言葉。それ、もっと早く聞きたかった。
私、あの言葉にはなんの感情も込められていないって分かってるから。ただ言いたいだけの薄っぺらい言葉。
言うのも虚しいだろうし、聞いてる方も虚しくなった。
あとは。そう、あのペアリング!! あれって、私以外にも渡そうとしてるよね。やり慣れた渡し方だから、直ぐに分かった。
アレもただやりたいだけ。
……ぜんぶ。ぜんぶぜんぶ、雪美が勇気を持てば過去に全部やれた事じゃない!!
見ていて悲しいし辛い。どうせあんな事をやっても心は満たされていないでしょう? そうよね。そうに決まってる。
だって、雪美は私の事が今でも好きだから。好きだから本当は私にやりたい……でも出来ないから、あんな薄っぺらい事をし続けてる。
「雪美のやっている事は全て偽物よ。そんな事やっていて虚しくならないの?」
「……」
いま、私と会った時でさえ。雪美は私に何も言わない。気づいてよ、私待ってるんだよ。あの時の告白の本当の返事を。
言ってよ、この瞬間でも良い。私は雪美の告白を聞きたい。
「虚しいわ」
……ッッ。やっと雪美が話した時、私は驚いて肩を震わせてしまった。視線は下を向いたまま雪美は続けて話した。
「でも、止められないの。虚しくても悲しくなっても、あぁする事でしか私は癒されないのよ」
「それ。本気で言ってるの?」
その言葉は私の怒りを更に燃え上がらせた。嘘つき、ウソツキ、嘘つき!! そんなの言い訳じゃない。つまらない事を言わないで!!
「今までの1度も微塵も癒されてもいないのに、そんな事よく言えるよね」
「見てもいないのに、どうして解るのよ」
「解るよ。そんな悲しい声音で言えば。雪美の事、私は今でも大好きなの。そんな私の事を舐めないで」
だから、そんな悲しい事は二度と言わないで。じゃないと、引っぱたきなる。
そう私が思った時。雪美は私の"大好きなの"と言う言葉に微かに反応した。
「そう。今でも私の事、大好きって思ってるのね」
「言っておくけど、嘘じゃないから」
「解ってるわよ。美春は好きって感情には嘘をつかないのは解ってるから」
解っているならどうして雪美も好きって言わないの? 解ってるのなら言って。大好きって言うぐらいの勇気を出してよ。
どうして、それだけの事を出来ないの? ずっと苦しいまま私への気持ちを閉まっておくつもり? そんなの許さない。
意地でも言わせてみせる、雪美が私の事を大好きって言うまで……私は貴女を帰さない。
燃ゆる想いを抱いたまま、私は雪美をみつめた。相変わらず俯いたままの雪美は、漸く私の方を見てくれる。
なによ、その目。泣きそうじゃない。泣くくらいなら気持ちを伝えてよ。もう楽になってよ。どうしてそこまで苦しむの?
それだけが全く分からない。もしかして私のせい? 私の知らない何かが原因でそんな顔をしているの?
そう思った直後、雪美は重苦しく口を開いた後……。
「でも、大好きって感情には嘘をついた私は。美春とは付き合えないわ。だから……」
「ッッ!? まっ、待って。待って、待って、待って!!」
私は咄嗟に嫌な予感がした。
雪美は私が聞きたくもない事を言い掛けている。
お願いだから待ってッッ!! 咄嗟に雪美に寄りかかり私は雪美の口に手を当てようとした……。でも、雪美はそれよりも早く、言ってしまう。
「ごめんなさい。私は貴女とは付き合えないわ。私にそんな資格は無いもの」
また私の事を振った? なにこれ……なんなの、これは。どす黒い感情が湧き上がると共に。
暫く何も言えなくなった。そんな私を尻目に雪美は静かにベンチから立ち上がり。
「きっと美春の為にも良いと思うの。だから、これでさよならしましょ」
乾いた声で語り、雪美は立ち去った。