7話
私は月島 美春。
愛が重たい女と自負してる、何処にでもいる女。けれど、それが悪いことだって微塵にも思っていない。
だってそうでしょ?
私が愛する人は絶対に幸せにする。だから、私に愛される人は私の事を愛するのは当然でしょう? そこに一切の否定の言葉や迷いなんて、あってはいけないの。
それなのに。雪美は私を振った。どんな理由があろうとも許せない。
その事が私にとっての心の傷になって、今でもソレを引きずっている。
雪美がいない日常が耐えられない位寂しくなって、兎に角雪美が恋しくなった。だから、その寂しさを埋める為に女性客限定のレンタル彼女なんて仕事に就いたの。
誰にも変え難い大好きな人がいるのに。こんなの浮気と同じだって事は分かってる。でも、こうするしか無かった。
でもね、こんな言い訳を重ねた結果。寂しさが無くならない事に気がついた。
私は自分の事と、雪美の事が許せない。
あの時、雪美が私の告白に応えてくれれば寂しい想いなんてしないで済んだのに。
私は振られたから、一緒にお買い物に行くことも、好きな映画を観に行くことも……結婚も出来ない。
やりたかった事が出来ないのって、こんなに耐え難い程辛いの? 気持ちが悪くて、心が痛くて……どうしようも無く辛い。
雪美。ごめんね、貴女以外の女と一緒にいた事を許して欲しい。貴女の代わりなんていない事を"レンタル彼女"の仕事に就いた時、気がついた。
虚しくて悲しい。なのにこの仕事は止められない。だって、一度就いた仕事だもの。私の勝手な心情ひとつで止めるのはその仕事に失礼じゃない。
でも、好きでも無い女を相手に笑顔を作るのはもう疲れた。一緒にいるのなら雪美が良い、貴女と私だけの時間を過ごしたい。
……ねぇ、雪美。
私、貴女とやっと会えるって決まった時。嬉しかったんだよ。きっと、私と会った時に喜んでくれるって思った。
なのに、雪美は気付いてくれなかったね。私を別の女として見て、聞きたくない話を沢山された。
レンタル彼女をしている事、私は謝りたかったんだよ? やっと会えた時は言いたい事を言うだけじゃないって決めていたのに。
なのに、なのに、ナノニ……。
私が "じゃぁ、私が初めての彼女って事ですか?"って聞いた時。
"私が一番最初に好きになったのは、貴女だけよ"
って答えたのを覚えてる? 許るせ無い。雪美が口にした言葉は、偽りの言葉。私を私として見ていないもの。
薄っぺらくて何の色もない、虚しい言葉は私を酷く傷付けた。
それに……。あのペアリングの事も許せない。あんな事、きっと雪美は他の娘にもやったんだ。偽りのペアリングなんて、渡してないのと同じ。
雪美はそれで満足するの? しないよね? だって偽りだもの。そんな事をする雪美は……自ら傷つきにいってる愚かな女に見えるわ。
でも、そんな事をする雪美でも私は。
「私のこと、覚えてる?」
「……」
「なんで黙っているの。何か喋ってよ」
この世界中で誰よりも、雪美の事が大好き。命すら賭けても良い。
雪美……。
私は何度でも思うよ、私の告白を断った理由はなに? 他に意味があるの? ねぇ、教えてよ。
好きな人が出来た? 私の事が嫌い? それとも他の理由があるの?
言っておくけど、どんな理由であれ許さないから。
「黙まらないで。なにか言うことは無いの?」
「……」
夜の公園、私と雪美は近い距離。微かに聴こえる車の音や、草木をなびく風の音なんてどうでも良くなる位、私は雪美の仕草が気になった。
どうして私を見てくれないの? なんで何も言ってくれないの? ねぇ、なんで?
「耳、ついてるよね? それとも私の言葉、理解出来ないのかな?」
「……ッッ」
怯えてる。震えてるのが分かる。私が怖いんだよね。顔を見れば分かるよ。少しずつ後退りして、逃げようとしてるもの。
今、心の中でなんて言ってるのかな? 色んな事、思ってるよね?
悪いけど、雪美がどんな事を考えてようが、今日まで溜まりに溜まった私の想いはぶつけさせて貰うから。
「逃げないで」
「ご、ごめんな……さいっ。ごめんなさい」
「何に対して謝ってるの?」
「ッッ、ぁ。ご、ごめんなさい!! わ、私……私……ッッ」
「だから、何に謝ってるの」
声を荒らげて必死に謝る雪美に対して、私は氷の様に冷たく返す。かなり怒っているから、余計に怯えさせているけど……この際、冷たく当たらせて貰う。
「私、たくさん雪美に言いたい事があるの。だから、ソコに座ってお話しよ?」
「い、いや。わ、私は」
無表情で雪美を見つめつつ、彼女の腕を掴んだ後、私は木のベンチを指さした。長話になるもの。座ってお話しましょ?
でも、雪美は嫌がる態度をとって、この後に及んで逃げようとしている。
また逃げるの? 逃げたら苦しいだけなのに、まだ分からないんだ。
「雪美に拒否権があると思う?」
「で、でも。い、今更話し合う事なんて……無いと思うわ」
「は?」
無いって思ってるんだ。雪美が想う私への想いはその程度なのね。私、勘違いしたのかな?
てっきり雪美は、私の事を今でも大好きだって想っていた……。あ、もしかしてその気持ちはあるけれど、過去の事を悪く思い過ぎて私に嫌われてると思ってる?
そうに違いない。雪美ならきっと思う。だって人一倍優しくて人の感情とかに敏感で、変な風に感じ取っちゃう所がある娘だから。
「良いから座ってよ。私は話したい事があるって言ってるの」
「ぃッ。ぁ、痛い、痛い……ッッ。離して」
でも、そんなの関係あるか。何がなんでも私は雪美と話すって決めたの。奇跡的に今こうやって会えたんだから!! こんなチャンスは二度と無い。
絶対に離してやるものか。
そんな想いもあった、雪美の腕を強く掴んで無理矢理に引きずっていく。かなり抵抗されたけど、無理矢理にベンチに座らせた。
夜の闇でも分かるくらい、鋭い目で雪美を見つめた時、私の言葉を怯えながら聞いた雪美は……かなり間を開けて頷いた。
きっと半分も信じていないと思う、今でも逃げようって気持ちを感じるから、嫌でも分かる。
(ごめんなさい、なんて気持ちなんて全く湧かない。言いたいことだけ言ってやる……)
雪美には沢山反省して欲しい。それと……絶対、絶対に……私はあの時言ってくれなかった言葉を雪美の口から言って貰うんだから。




