5話
時刻は午後8時50分。
美味しい料理に舌鼓をうち、レンタル彼女の制限時間10分前までに至る。私は小春を連れて海を眺める事が出来る公園にいた。
その公園の藤棚の真下にある木のベンチ付近を小春を連れて歩いていた時。私はふと空を見た。
「またロマンチストな事してる」
「別にロマンチストだなんて思っていないわよ。ただ星をみただけ」
「ほんと? 狙ってやってない?」
星を見たのは何となく。もうレンタルデートの時間が終わるなって、思って寂しくなっただけ。小春とのデートは、レンタルデートの中で1番に楽しかったわ。
話し方や、雰囲気作りが手慣れていたもの。
今も嫌味にならない程度にからかって来てくれて、私の心を弄んでくる。本当に惚れてしまいそうになるわ。
「狙ってないわよ。と言うか、そう言う事をして欲しいの? 小春はロマンチストな雰囲気が好きなのかしら」
私はレンタル彼女に恋なんてしない。したいの"デートをした"と言う気分を味わうだけだから。
自分の気持ちを改めて心に思った後、私も小春をからかってみた。どんな反応を見せてくれるのか、少し楽しみね。
「んー。どちらかと言うと、誠実な感じが好きですね」
「誠実?」
少し面白い答えを期待したのだけれど。私には理解し難い解答がきてしまった。
「つまり、好きなら自分の気持ちを隠さずに好きー!! って伝える事? そんな感じの雰囲気です」
小春は変な風に雰囲気作りなんてしないで、気持ちを素直に言って欲しいタイプなのね。
大好きな人相手に誠実とは程遠い事をした私は、小春とは合わないわね……。
「意外ね。砕けた雰囲気の方が好きと思っていたわ」
「違いますよ。私って結構白黒ハッキリしてないと気が済まないんですよ?」
「そうなのね」
白黒ハッキリか。耳が痛いわね。
「実は昔、自分の気持ちに素直になれない娘に酷い事言われちゃって。それで結構傷ついたんです」
「そう、なの」
これも耳が痛い。私の心の傷が抉られるわ。あまり聞きたくないけれど、此処で話を止めるのは変よね。
「うん。私の事好きな筈なのに嫌いだ、みたいな事を言われて」
「……ッッ」
「あの時は悲しかったなぁ。キュゥゥって胸が苦しくなって、泣いちゃったんです」
う、嘘。なによそれ、私と同じ事をその娘はしたの? その事実に私はどう言えば良いか分からず、固まってしまった。
早く何かを言わないと、でもなんて言えば良いの?
同じ事した私は同調なんてできないわ。
「ごめんなさい、嫌な事を思い出させたわね」
だから、こんな薄っぺらい言葉しか言えない。でも、小春はニコリと微笑んで手をひらひらさせながら答えてくれた。
「いやいや、気にしないで下さい。つい最近、良いことがありましたから」
「あら、本当?」
「本当ですっ。飛び切り良いことが……ね」
そう言ってくれて良かったわ。
でも何故かしら? いま小春は私を見て妖しく笑った。
どうしてそんな目で私を見るの? やっぱり嫌な記憶を思い出させて怒ってるのかしら。
「それよりも。思い残した事はないですか? そろそろ、帰りの時間ですよ」
その時だった。小春の口から"制限時間"があと僅かである事を遠回しに語ってきた。
もうそんな時間なのね。結構時間が経つのが早く感じたわ。
「思い残した事……ね」
当然、あるわ。たった1つだけ、ね。それを果たして、このレンタル彼女を終わりにさせましょう。
私が最後にしたい事を。