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もしも仮に好きと言えたなら  作者: わいず
雪美side 消えない罪・虚しい想い・癒えない心
4/12

4話

「わぁ、いい景色。見とれちゃうなぁ」

「そう? 喜んで貰えて嬉しいわ」

「あとね。料理も美味しいの。こんな美味しいの食べたの初めて」


 ……時刻は午後6時。仮のデートも、もう直ぐで終わり。その締め括りに都内でも随一にキレイな景色が見えるレンタルへ私は小春を連れてきた。


 そんな景色や料理に、子供のようにはしゃぐ姿をみていると、過去の自己嫌悪の事でいっぱいになっていた私の心は少しだけ癒される。

 何故かしら?小春にはそう言う魅力を感じてしまう。


「えへへ。午前のショッピングもそうでしたけど、雪美はロマンチストだね」

「あら、そう?」

「そうですよ」


 小春の語り口調や仕草、全てが私をトキめかしてくれる。やっぱりレンタル彼女と言う仕事をしている以上、女を魅了させるような仕草も勉強しているのかしら?


 でも。ロマンチストか、そんな事を言われたのは初めてだわ。


「だって、こう言う所で食事とか正にソレ。雰囲気作りに意識してると言うか、そう言うのを大事にしてる? そんな風に感じたの」

「ねぇ、それってちょっぴりからかってる?」

「いえいえ、褒めてるんです。雪美さんはステキだなぁって」


 雰囲気を大事にしてる、か。

 小春、それは違うわよ。私が一番大事にしているのは、自分自身。


 傷付く事を恐れるあまり、大切な事に気が付かない愚かな女。


 小春は勘違いしてる。けれど、勘違いさせたままで良いわ。その可愛らしい微笑みを私に向けたまま今を楽しく過ごしてちょうだい。

 

「じゃぁ、素直に喜んでおくけど。褒めたからって言って何も出せる物は無いわよ?」

「いやいや、なにか欲しくてこんな事言ってるんじゃないんです。ただ、率直に私が思っただけ」


 小春は、上手く誤魔化されたまま微笑むのをみて。何故かイジワルな事を言ってしまった。

 多分、変な風に褒められて私の心が叫んでいるからだわ。


『違う、私はそんな女じゃない。惨めで狡い最悪な女よ。だから私を褒めないで』


 必死の否定、心からの拒絶。あの頃の美春を傷付けた故の心の叫び。

 思わず、表情に出そうな位私の強い負の感情を押さえ込み、私は話を続けた


「本当かしら?私をからかってない?」

「からかってませんよ。私の本心ですっ」


 本心ね。思った事を口にしたのかしら。まぁ、そんな風に見られて気持ちは嬉しいけれど。

 小春はもっと人を見る目を養った方が良いわね、貴女が思う程私は良い女じゃないわ。


「ね。話変わっちゃうんですけど雪美の事、聞いていいですか?」

「何よ、唐突ね」


 本当に唐突だわ。いきなり私に聞きたい事って。なんの意図があるのよ。

 って、思ったけれど。恐らく彼女を演じるに当たって聞いておきたいのよね……そう思う事にしましょう。


「だって。雪美の事、深く知りたいんだもん。聞きたいなぁ、私の知らない雪美の事」

「別に良いけど、私の何が知りたいのよ」


 可愛らしい上目遣いで自然に聞いてくる辺り、小春はプロのレンタル彼女かも。ちょっぴり、心が揺れたわ。


「んー、そうですね。あ、雪美さんに元カノがいるか聞きたいですっ」


 ーーこの瞬間。私は心の中で凍り付いた。

 周りの時間すらも止まって見えて、ショックで表情すらも凍ってしまう。

 元カノ? 当然いないわ、好きな人はいたけれど。好きになる資格なんて無い人はいる。


「いないわよ。そんな人」

「そ、そうですか。じゃぁ、私が初めての彼女って事ですか?」


 気持ちを押し殺し、冷たく口にした。少し感情が表に出過ぎたかしら、小春が少しだけ怯えてる。気を付けないと……。


「そうね。私が一番最初に好きになったのは、貴女だけよ」


 私は笑顔をつくり、感情を抑えて優しく話す。今度はキザったらしくなったけど。怖がらせるよりはマシでしょう。


「……そ、そうですか。嬉しいっ」


 ?

 いま、一瞬だけれど小春の表情が曇った? それに変な間もあった気が。いえ、きっと気の所為ね。色々気負いすぎて少し病んでいるんだわ。

 だから周りの事を変な風に認識してしまう。まったく、折角のデートなのに無粋ね。


「ほら。話すのも言いけれど、食事も楽しまないと。料理が冷めてしまうわ」

「で、ですねっ。食べましょ食べましょー」


 そんな気持ちを補うように、料理に目を向けさせて、私も食事を進めた。意味深に見つめてくる小春の視線に気が付かずに。

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