3話
小春とのデートをしている時。私が想うあの娘の出来事を、ほんの少しだけ昔の事を思い出した。
その娘の名前は、月島 美春。名が体を成すくらいキレイな娘。
黒いロングヘアがとてもステキで、クールで口数が少ないミステリアスな一面を持つけれど。私の前では沢山お喋りするし、微笑んでくれる。
私だけにスキンシップが強くて、二人きりの時は決まって寄り添ってきた。なにかと理由をつけて傍に来た時は毎度心が壊れそうなくらいドキドキ揺らいで大変だったのを覚えてる。
「ねぇ、雪美は好きな人はいるの?」
「何よ、突然」
美春が告白してくる日の随分前の日のこと。思い返せば、あの娘はこんな事を言っていた。思えば、美春はこの日から私に告白しようって思っていたんだわ。
「良いから答えて」
「そ、そんな急に言われても困るわ」
でも、当時の私はハッキリと口に出来なかった。もちろん、美春の事は大好き。そう言えなかったのは、純粋に恥ずかしかったんだと思う。
「困るってなに? 好きな人がいるってこと? 答えにならない解答はやめてよ」
「や、そう言う訳じゃ」
美春はたまぁに、こうやって私を困らせてきた。この時にも、ちゃんと好きって言えたらあんな事にはならなかった筈。
この時に既に、美春の事が大好きなのに。
女の子を好きになる事の不安、コレが大きかったのかも知れない。恋愛感情なんて人それぞれなのに、勝手に思い込んでいつの間にか美春への大好きの気持ちを隠すようになっていた。
「じゃぁ、言ってよ」
「そ、それは」
「ふふ。なんて、ちょっと困らせてみただけ。相変わらず雪美は反応が可愛い」
「なっ、何よそれ。からかわないでよ」
美春も、そんな私を気遣って誤魔化したんだと思う。
私が困った反応をした時は"からかってみただけ"とか"意地悪しただけよ"と言って、その話を止める。
私の口から美春は聞きたかったのよ。好きなのは美春よ……って。
「その恥じらった顔も可愛い。もっと私に見せて?」
「ちょっと、近いわよ。 離れなさいっ」
いつも触れてくるのは美春の方、ちょっぴりイタズラっ娘の様に私の身体に触れながら、私を見つめて距離を詰め。心の距離までも詰めようとしてくる。
もう分かっていたのよ、この頃から私の事が好きなんだって。
「だーめ」
「もうっ。子供みたいな事言わないで」
「私達はまだ子供よ? 10代後半だけど」
「そう言う意味じゃなくて。その」
「うん、わかってる。今のは私なりのユーモア。本気にしてはいけない」
「な、何よそれ」
でも。いつだって美春は最後には自ら引いていた。私が乗ってこないから、素直になれないから。
思い返せば、悲しそうな目をしていたわ。
また言わなかった、と言う悲しみと。雪美は私の事なんて好きじゃないの? という不安が入り交じった眼。
そんな感情がこもっていた。
「でも雪美」
「な、なによ」
「そんな風に、気持ちを素直に言えないでいると。いつか痛い目をみるから、気をつけて」
「こ、こんな時に説教なんてしないで」
そんな美春の口から言っていたのは、警告だったのね。
"いつか必ず告白するから、その時は雪美も素直な気持ちをぶつけてね"
遠回しに、そう言っていたんだと思う。結局その警告すらも守れなかった私は。
後悔と未練に挟まれて、レンタル彼女で美春と出来ていた筈のデートを他の女としている。
……なんで今更こんな事を思っているの? 私ってば臆病者で未練がましい最低の女じゃない。
美春、ごめんなさい。あの時、素直になれなくて。もしも仮に好きって言えたなら。こんな風に気持ちを誤魔化す様な生活をしなくて済んだのかな?
後悔しても遅い。きっと私は、大好きな美春への想いを誤魔化し続けるんだわ。
永遠に。