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もしも仮に好きと言えたなら  作者: わいず
雪美side 消えない罪・虚しい想い・癒えない心
2/12

2話

 普段なら休みの日でも、着飾るなんて事は絶対にしない。でも今日は特別。人に会うんだから、しっかりしないといけないもの。


「うん。これで良いわ」


 鏡を見て、自身の姿を確認した後。私はアパートから出ていった。

 向かう先は、ここから少しだけ歩いた先にある駅。待ち合わせの時間には、まだ余裕があるけれど自然と早足になっていた。


「待つのは嫌だけど、待たせるのはもっと嫌だもの」


 実を言うと、さっきの電話の相手はレンタル彼女のお店。それも女性専用のね。


 読んで字の如く、彼女をレンタル出来るサービスね。女性専用だから必然的にお客は女の人ばかり。

 聞いた話によると、インスタ映え代行や。一緒に誕生日を祝ってもらう為にレンタルするみたいね。


 確かに、1人で誕生日を祝うのは寂しいものね。あったら良いサービスだと思う。でもね、私はその為にレンタルしたんじゃないの。


 私はね。今日一日だけ、本当に私と付き合っている女としてデートをして貰う為にレンタルをしたのよ。

 なんでそんな事をするか、理由は簡単。


 あの娘と付き合えなかった悲しみを埋める為にデートをするの。

 今日会う初対面の人を何年も付き合っている人と見立てて、高いレストランで食事をしたりキレイな景色を見る。


 ……そんな事したって虚しいだけ。私も何度もソレは思ったわ。でもね、やらないと可笑しくなりそうなの。


 私はね。どうしても過去あの娘と付き合えなかった悲しみを埋めたいのよ。

 本来ならあの娘と出来ていた筈のデートを、仮初のデートをしたって記憶で拭いたい。そうすれば忘れられると思うから……。


 まぁ、今まで何回もやってきて、一度だって忘れた事はないんだけど。


 だって、あの娘と比べると全てに置いて美しさに欠ける。

 あの娘が持っていたクールさも、あの娘独特の黒いロングヘアーも無いし。あの娘と話していた様に話せないもの。


 当然よね、所詮は仮にデートをしている相手。本気で付き合ってるわけじゃない。それに、あの過去の時と同じく……絶対に告白なんて出来ない。


 キャストへの告白はNG、って規約もあるけれど。精神的な意味でも出来ないのよ。心の何処かでソレを拒んでる。

 それでも告白をしたい理由は、多分ソレすらも埋めたいのかも知れないわ。


『やっと告白出来たよ。私はあの時とは違うわ』


 なんて思いたいんじゃないかしら?


「だとしたら、私は虚しい女よね」


 あの娘以外の女に言えたって意味が無いのに。結局私はあの娘の事が忘れられないのね。


 何度も思うけれど、好きになっちゃいけないのよ、私にはそんな資格は無い。こんな事を思っていても好きと思い続けてる。


「今日こそ、きっと虚しさは埋められる筈よ」


 でも、それも今日で終わりにしたい。こんな事はレンタル彼女を頼んだ時に毎回思っているけれど……終わらせる気でいるの。


 そう思い悩んでいる内に、私は待ち合わせの駅についた。やっぱり待ち合わせ時間にはまだ早い。だから、近くのベンチに腰掛けた。

 時間なんて適当にしていれば直ぐに過ぎるわ。そう思い、スマホを覗き込んだ時……。


「あの。もしかして……南野 雪美さん、ですか?」


 透き通る様な落ち着いた声音、細い瞳に美しい黒く短い髪。クールな雰囲気がステキな女性が目の前に現れた。

 驚いた。今までレンタルしたどの女の子よりもキレイじゃない。


「は、はい。そうだけど……」

「あ、そうですか。私は《レンタルサービス一時(ひととき)》の小春です。今日はよろしくお願いします」

 

 小春と名乗る髪が風で靡き、私の心まで靡いてしまった。気を抜けば本気で恋をしてしまいそう。


「そう、貴女が……」


 見ているだけでドキドキすると言うか、緊張すると言うか……。

 …って、見とれていないで私も自己紹介しないと。


「こちらこそよろしく。分かってると思うけど、貴女は一日私の……」

「はい、存じてます。今日だけ彼女になればいいんですよね?」

「えぇ、分かっているなら良いわ」


 偉く話がスムーズに進んで良かった。小春の言った通り、小春は今日一日だけ私の彼女。


 虚しさを埋めるだなんて役割を任して申し訳ないけれど。今日だけ、よろしく頼むわね。小春さん。


「じゃぁ、早速行きましょう。先ずはショッピングなんてどうかしら?」

「良いですね、お付き合いしますよ……って、彼女なら。少し馴れ馴れしい方が良いですか?」

「……そう、ね。そうして貰える?」


 軽い会話を少しした後、さっそく私と小春は動き出した。初っ端から小春は彼女らしさを出して来たわ。


「じゃ、雪美って呼びますね。彼女らしく呼び捨てでいきまーす」

「構わないわ。私も小春って呼ぶわ」

「はーい」


 彼女らしさが出ていて、ステキよ。そのまま私を癒して頂戴ね。その代わり、貴女を退屈なんてさせないから。 


 レンタルデートまでの制限時間は夜の9時まで、時間はたっぷりある。忘れられない思い出を作りましょうか。

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