10話
ありえない、信じたくない。こんな事があって良いの……? そんな思いから私の目の前が真っ白になった。
「私が雪美を傷付けた? あんなに愛していたのに。なんで、どうして」
どれだけ信じたくないって思っても、これは現実だと伝える様に痛ましく心臓が苦しい。
他人の言うことなんて、どうでもいいって思ってた。だから私は雪美にあんな事を言った。
正直気にしなければ良いのにって、やっぱり思ってしまう。
でも、本当にその人の事が好きなら、その人の気持ちを理解するべきじゃない。そもそも私がしている恋は同性愛。雪美が私と付き合う事への不安や恐怖があっても可笑しくは無い。
なのに私は、私が好きな人は私のことを愛していて当然。この思いの元、告白は素直に受けてくれるモノと思い込んでいた。
「私なら気にしなかった。雪美も気にしていないって思ってた」
実際は違った。私が思ってる以上に雪美の心はか弱く繊細だった。どうしても取るに足らない他人の言葉が、気になってしまうみたい。
きっとあの時、物陰に隠れていたと思うアイツ等を見た時……不安に思ったんだろう。
私の告白を受けたら、きっと嫌な事を言われる。いつの間にか自分を守る事で精一杯になって……本心とは違う言葉が口に出ていた。
「そんなウソ。雪美の事が好きなら見抜けた筈なのに」
振られた事を事実と捉えて、ただ私は悲しんだ。
とても惨めじゃない。愛する人の事を理解しようとしないで、ちっちょ前に悲しむだなんて。とんだ被害者面した面倒な女じゃない。
私は雪美が感じている不安の気持ちよりも、愛情を優先した。だから、分からなかった。
雪美が、私の事を傷つけたって想っている事も。私と付き合いたいけれど、ソレが罪だと想っている事も。
「雪美のその気持ち。理解したら私は気にしてないよ。って言えていたのに」
当然ながら、実際は何も言ってあげられなかった。
後悔、絶対になんてしたくなかったのに。あの時こうしていれば、どうしてアレをしなかったの? って、脳内で交錯ばかりしてる。
ねぇ雪美。私……貴女に傷付けられたなんて微塵も思ってないのよ。ずっと雪美と付き合いたいとだけ思ってた。
私のせいなの? 愛が重かった? そんな事ないよね。
愛は重たければ、相手はソレに応えてくれる。だから、悪くなんて無い。
……いえ、今はそんな話はどうだって良い。考えるべきは、雪美の事。私はどうすれば良いの、雪美を追いかけるべき? でも、追い掛けて何をするのよ。
「また告白でもするの? あんな事を言われたのに」
知らず知らずの内に私は雪美を傷付けた。私の言葉と愛で。雪美の言葉を借りると、愛する雪美を傷つけた私は付き合う資格なんて……無い。
「雪美の言った通り、私達はもう会わない方が良い」
それが雪美が望んだこと。私も応えるべき。これでサヨナラするべきなんだ。私だって……雪美を傷付けてしまったんだから。
「…………なんて、そんな事死んでもする訳がないでしょうがァァァッッ」
しみったれた私が抱く気持ちを振り払うように、叫んだ。空を切り裂くような声は……辺りの木々に止まっていた鳥達を羽ばたかせる程に大きかった。
気がつけば呼吸が荒くなっていて、私の両脚は雪美が走っていった方向へと脚を進めている。徐々に速く、心臓の鼓動よりも速く走らせていく。
「付き合う資格? そんなの要るわけない。雪美は私と付き合う運命なの。もう決まってる事なの!!」
私が好きだから付き合うの、私が好きだから告白したの。愛の重さが原因で傷付けたのは悪いとは思ってる。
でも……ソレが私と付き合わない理由になるとでも思う? なるわけないよね?
「例え神様がダメと言っても、私は雪美と付き合う、絶対にッッ」
そもそも雪美は優し過ぎるの、私のことを気使い過ぎ。自分を傷付けてまで付き合わない選択をしなくていい。
だってそうでしょ? ずっと仮初のデートをして、仮初のプレゼントを渡そうとしてた。その時雪美はずっと……私とのデートを想定していた筈。
私を振った時も泣いてた、泣く程嫌だったの、気づいてるよね。
雪美はいい加減に理解するべき、本当は私の事を忘れられない程大好きで……あの時の告白の本当の返事をしたいって事を。
「ちゃんとあの日の本当の気持ちを聞きにいく。待ってなさい、雪美」
隠しきれていない気持ちを私に言ってもらおう。もう"もし仮に"なんて思わせない、仮初の行為は……ここで終わりにさせて、私と付き合ってもらう。
ブレない私の重い愛、これが私……私はこうやって愛を伝える。今度はちゃんと雪美の事をみて……。
だから私は雪美を追い掛ける、真実の言葉を聞きに。




