表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも仮に好きと言えたなら  作者: わいず
雪美side 消えない罪・虚しい想い・癒えない心
1/12

1話

 私は最低の人間と言ってもいい。

 自分の恋愛感情に嘘を付いてまで、告白してきた大好きな人に対して。酷い振り方をしたのだから。


『ごめんなさい。私は貴女とそう言う関係にはなりたくないの』


 限りなく冷たい口調で、尚且つ冷たい目で言った。その直後に、告白してきた女の子に大して明らかに見下した笑い声が起きる。


 ……嘲笑い、陰口を叩く、その全ては私にではなく大好きな人に全て向けられた。

 これは全部私が原因で起きた事。私のせいであの娘は悪い風に言われて、あの娘は静かに泣いてしまった。


 そう、私が泣かしてしまったの。


 その娘の表情が鮮明に写った時、私は急激に落下し地面に激突したような衝撃が走り、私は"夢"から覚めた。


「ーーッッ。はぁ、はぁ……ッッ。ぇ、ぁ……ゆ、夢?」


 2DKの部屋、その一室で私は飛び起きる様に目が覚めた。酷く頭が痺れるように痛い、と言うか辛い。全身にぐっしょりと汗をかいている、お陰で最悪な目覚めになってしまった。


「またあの夢……」


 朝は決まって、最悪な過去を思い出して目が覚める。眠ためで窓の外の景色を見つつ、寝癖のついた茶髪でセミロングの髪を掻きつつ起き上がった。


「もう、あれから何年経つのかしら」


 今日の天気は曇り。特に眩しくはないけれど、私は目を細め。目覚める際に見た過去の事を思い返す。


 あの出来事は私自身の弱さが招いた罪の記憶。辛いけれど忘れるつもりは無い。

 でも、本音を言うのなら。


「あの娘の思い出の全てを忘れたいわ……」


 だって、本当に辛い思い出だから。





 南野(みなみの) 雪美(ゆきみ)。29歳のなんの取り柄もないつまらない女。だから、なんの取り柄もこれといった特徴はない。

 けれど、他の人とは違う事を言うのなら……私は女の子の事が恋愛感情を抱いてしまう位大好き。


 この気持ちに気がついたのは、割りと早かったと思う。だから周りと違う事に早めに気が付いて、皆との違いを恐れて"あんな事"をしてしまった。


(朝から重たい事なんて考えたくなかった)


 また過去を思い出しそうになり。着替えをしながらテレビを付けた。丁度占い番組をやっていた。

 本当は興味は無いんだけど、気晴らしに見てみようかな。私は山羊座、順位は……あ、1位じゃない。


「好きな人と出会えるかも、か」


 その占い結果に私は鼻で笑ってしまった。バカバカしい、薄っぺらいにも程がある。この程度の情報で好きな人に出会えるなら苦労はしないわ、そもそも……。


「好きな人なんていないし。そもそも私が人を好きになる資格なんてないわ」


 あぁ、まただ。"あの時"の事を思い出しちゃう。着替え途中だけど、慌ててテレビを消した。


(これは罰なの? テレビまで私を苦しめて来ないでよ)


 その罰は、言ってしまえば……私の弱さが招いた事。今でもハッキリ覚えてる、高校生の時の……確か、夏休みに入る前の放課後。

 私は、私の好き"だった"人に呼び出されたの。


 その娘はモジモジした様子で私を見つめ、意を決した様な目をして。私に告白してくれた。

 あの時、とても嬉しかったのを覚えてる。表情が綻んで、笑顔になってさ……咄嗟に『嬉しい』なんて言いそうになったの。

 だって、その娘の事が大好きだったから。


 でもね、その時私は……本心を言えなかった。理由は単純。他の生徒が、その告白の様子を隠れて見ていたから。

 その時の、アイツ等の表情を私は忘れない。まるで変な物をみるかの様な、明らかに軽蔑した表情。


 もちろん、アイツ等は私の事も見ていて私がどんな風に答えるか、聞き耳を立てていた。その事実を、あの娘は知らない。私だけが知ってしまった。


 だから……なのかな? すごく怖くなったの。ここで告白にOKしたら、私はどんな風に言われる?


 女の子の告白を受けただなんて知られれば……きっと、他とは違う異質な存在として見られ、嫌がらせを受けてしまう。咄嗟に自分だけを守る事を考えてしまった。


 本当に最低だわ。

 なにが最低かって、あの娘の事よりも自分がどう思われるかを気にしたのだから。

 結果。私は自分の気持ちに嘘を付くことにした。だから、言いたくもない言葉が出てしまったという訳……。


『ほんとうにごめんなさい。貴女のこと微塵も興味が無いの』


 違う、違う……違うの。待って!! その言葉は嘘なのよ。

 言った瞬間、酷く後悔した。でもね、言った時点でそれは私自身の"言葉"なのよ。

 隠れていたアイツ等は飛び出て、あの娘を取り囲み。思い出すだけで吐き気が出るような悪口を散々口にし馬鹿にした。


 そうしてあの娘は"異質な者"な扱いを受け……酷い高校生活を送ってしまったの。


(あの時、アイツ等がいなければ……なんて言い訳は腐る程思った。でも違うのよ、明らかに悪いのは私)


 もし、あの時……本当の気持ちを伝えていたら? 馬鹿にされても2人で立ち向かえたかも知れない。

 なのに、なのに、なのに!! 馬鹿な私はソレすらも考えずに保身を選んだ最悪の女。


 人の気持ちを踏みにじった女が人を好きになる? 好きな人がいる?

 冗談でも笑えない、私にはそんな事なんて出来ない。罪の意識で頭がどうにかなっちゃうわ。


「私なんて、一生孤独に生きてた方が良いのよ」


 酷い自己嫌悪に浸りつつ、着替えが終わった私は、予めテーブルに置いてあった栄養食品をかじり、冷蔵庫に入ってる牛乳を取り出し、コップに注いでから流し込む。

 いつも、朝食はコレで済ます私は流れでスマホを見た。


 ♪〜


「……ッッ」


 その瞬間、電話がきた。驚いた、その拍子にスマホを落としそうになったけれど、寸前で耐えた。


「朝っぱらから誰よ。こっちは寝起きなのに」


 ため息をつきつつ、画面を見てみると……。


「……あぁ、そうか。そう言えば今日が約束の日だったわね」


 とあるお店からの電話だった。すっかり忘れていた。朝からご苦労さま。


「はい、雪美です。おはようございます……はい、はい。今日で間違いないです」


 私は電話に出た直後、無感情に対応する。別に嫌な相手って訳じゃないけれど。暗い過去の事を考えてたら誰だってそうなるわ。


 でも。気持ちは切り替えなきゃいけないかも。だって、今日は……他人に癒して貰おうとしているのだから。

読んで頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ