8:告白は突然に
――あの会議から一か月。
小麦などが採れにくいまま季節は秋を終えようとしているが、街を行く人々に不安そうな雰囲気はなかった。
買い物帰りに私が通りを歩く中、親子が笑顔ですれ違っていく。
「ママーっ、ジャガの根ってすごく美味しいね! 新しい王様とお妃様がひろめたんでしょー?」
「えぇそうよ。凶作続きでどうなるか不安だったけど、これなら大丈夫そうね。新国王ご夫婦に感謝しましょう」
「うんっ!」
う、う~……っ!
すでに民衆たちの間では『お妃様』に格上げされちゃってるよぉ……!
――ジャガが民衆の食生活に根付き始めていた。
主な買い手であった貴族たちが革命で死んだことで、商人たちがジャガを大幅に値下げしていたのだ。
それを大量に買い取って栽培も始めたため、順調に新たな食材として受け入れられつつあった。
はぁ……それはとってもめでたいんですけど、『新国王夫婦が広めた野菜』って評判になるのは困りますって……!
私は顔が熱くなるのを感じながら、ラインハルト様の屋敷へと戻っていった――。
◆ ◇ ◆
「もう、ラインハルト様っ! 本当にどうして私なんかのことを婚約者だなんて言ったんですかぁ……!」
「はははっ、何度も謝っただろうが。ついだ、つい」
「ついで婚約者にしないでくださいっ!」
その日の夜、私はベッドに腰掛けながら隣に座った国王様を怒っていた。
……ちなみに私たちの寝室は一緒だったりする。
といってもこれまで『そういったこと』は一度もしてないし、ベッドもちゃんと二台あるわけですけど。
こんなことになった理由はラインハルト様の気遣いからだ。
私は一応、前国王の悪しき血を引く娘である。そのため、もしかしたら暗殺者がやって来るかもしれない。
そこで私を守りやすいよう、寝室を一つにしようと彼が言い始めたのである。
うぅ、なんだか丸め込まれてしまっている気もするけど……とにかく、
「真面目な話をしてるんですよ、ラインハルト様。国王たるもの、婚約者はもっと慎重に選ばないといけません。
――特に私なんて最悪じゃないですか。アナタが危惧してくれたように、人々から恨まれている王家の血を引いているわけですし……」
……自分の言葉に胸が痛んだ。
そう、私は国を追われた罪人の子だ。
あの革命の日、人々の憎しみをぶつけられて死ぬべき命だったのだ。
こんな私が妃になったら、きっと禍根が残ってしまう。
「……私、アナタに婚約者として扱われたことが嫌だから怒っているんじゃないですよ? むしろちょっぴり……いいえ、すごく嬉しいくらいなんです」
「レーナ……」
「アナタはとても素敵な人です。たくさんの人たちに支持されて革命を成功させ、それからも寝る間も惜しんで国の運営に励んでらっしゃる。きっと慣れないことも多いでしょうに……」
寝室を共にしているからわかる。
私がベッドに入った時にはまだいなくて、そして起きる時間になったらすでに彼は仕事をしていた。
シーツがわずかに乱れていることから一応は睡眠をとっているのだろうが、はたして四時間も寝ているかどうか……。
そんな風に血肉を削ってまで国の未来を考えられる人だからこそ、私みたいな女が足を引っ張ってはいけない。
「ですから、国王陛下……婚約の話はどうか断らせてください。私はこの血を広めることなく、一生を終えたいと思います」
――少しだけ泣きそうになりながら、彼にはっきりとそう言い放つ。
そうして私が立ち上がり、自身のベッドに向かおうとした……その時、
「ッ、レーナ!」
「きゃっ!?」
力強い腕が私を引き留め、そのままベッドに押し倒される――!
そしてラインハルト様は私の上にのしかかり、
「血の問題など知ったことか! 俺は、お前のことを愛している――ッ!」
そう言って、私の口へと唇を重ねるのだった――!
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