6:勘違いと提案
マリア様の報告から数日。
王都の屋敷には、新たに各地を治めることになった領主たちが集まっていた。
私がメイドとして壁際に控える中、大規模な不作に備えてどう動くべきか話し合っている。
「国王ラインハルトよ。王族たちが溜め込んでいた金銀財宝を売り払って、商人たちより食べ物を買い集めるのはどうだろう?」
「難しいな。商人たちめ、すでに今年は凶作になることを知り、食品類の値段を跳ね上げてきた。これではいくら財宝を売り払おうが国民全員を食わせることは出来ん」
「では食糧の配給を大都市のみで行い、一部の村などを切り捨てるというのは……?」
「大却下だ。私たちが何のために政権を奪い取ったか忘れたのか? 貧しい者も病める者も関係なく、全ての民衆が笑顔で暮らせる国家を作り上げるためだろうが」
「しかしっ――」
議論は遅々として進まない。
誰もがアイディアを出し合うが、決定的な打開策は出てこないようだ。
――そんな中でふと誰かが呟く。「本物の貴族たちは、こういう時にどうしていたのだろう」と。
その呟きに会議室の空気は重くなった。
「あぁ……我らは元々、そこらの町長だった者だからなぁ……」
「邪悪な王族とそれに従う領主どもを殺せば、全ての問題が片付くと思っていたが……」
「……難しいものだな、偉くなるということは」
顔を伏せていく領主たち。
そう、ここにきて革命の問題点が浮き彫りになってしまった。
それはずばり『経験の断絶』だ。
ラインハルト様の革命は電撃作戦によって行われた。上に立つ者たちの首を一気に斬り落とすことで無用な犠牲を出すことは避けられたものの、それによって各領主家に受け継がれてきたノウハウも一斉に消え去ってしまったのだ。
……もし一人でも善良な貴族がいてくれたらその人を革命後の指導係に出来たのだが、マリア様いわくこの国の貴族は全員汚職をやらかしていたらしい。
本当に終わってたんですねー私の国……。
はぁ、これからどうなることやら……。
心の中で溜め息を吐きながら、ラインハルト様の空になったティーカップを下げようと一歩前に出た――その時、
「むっ、どうしたんだレーナ? もしや何か意見でも?」
「えっ!?」
『なにっ――!?』
ラインハルト様のふとした言葉に、行き詰っていた領主たちが食いついてきた……!
って、違いますからーーー!?
私はただ、カップを下げようとしただけですからっ!?
「あ、あの、私は……」
「おぉ、ぜひともレーナ殿の意見を聞きたいところだな! どうか申してくれ、『革命の乙女』よ!」
「ああ! なにせそなたは平民の血と心を持ちながら、王家で育てられたのだからなっ! なにか我らでは思い付かないような発想を持っているのでは!?」
目を輝かせて私を見つめる領主たち……!
そう、革命軍における私の評判はかなり高いものとなっていた。
かつてラインハルト様を救い出したエピソードはもちろん、王族の隠し通路を(勢いで)報告した件が人気の決め手となってしまったようだ。
結局父王たちは捕まらなかったが、森の中に捨てられた装飾品や走りづらいハイヒールなどから、彼らが必死な状況にあることは明白だった。
私の報告によって迅速に追跡できたため、捕まるのは時間の問題だろうとマリア様はにこやかに言っていた。
あぁ、だけど~……!
「レーナ殿、どうかお知恵を……!」
って言われても何も出てきませんからーーーっ!?
たしかに私は義姉に何かあった時のスペアとして、高等教育を受けさせられましたよ?
でも私なんかに教える価値はないと思ったのか教師の方は数週間で辞めてしまいましたし、飢饉を救う手立てなんて知りませんって……。
あぁでもみなさん、私のほうを期待の眼差しで見てますし、う~ん……!
そうして彼らを見渡しながら、口をまごつかせていた――その時、
「あっ……」
ふと、テーブルの中心に置かれた『ジャガの花』が目に入った。
貴族たちの間で流行っている観葉植物の一種だ。
花が小さくて可愛らしいことや、雑に世話をしても枯れないことから人気を博している。
それを見ながら思い出した。
かつて、義姉によって毒のあるジャガの根を食べさせられた苦い記憶と、そのとき気付いたちょっとした発見のことを。
「っ……もしかしたら、何とかなるかもしれません……!」
こちらを見つめる領主たちへと、私はそう言い放った。
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