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2:運命の再会

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「ずっとずっと、会いたかった……!」



 ――おかしな状況になってしまったぞ、と思う。

 民衆たちに嬲られる覚悟をした直後、敵将によって助けられたと思ったらいきなり抱き締められたのだから。


「あぁそうだっ、いつまでもそんな恰好をさせておくわけにはいかない! おいヴィルヘルムッ、お前のマントを脱いでよこせッ!」


「なっ、何言ってんだよ将軍!? これ革命軍のマークがついた誇り高いやつなんですけど!?」


「いいからよこせ!」


「いやよくないでしょ!?」


 先ほど私にのしかかっていた黒髪の青年が狼狽える。

 彼の名はヴィルヘルムというらしい。私と同じく、『氷の魔将』ラインハルトの突飛な言動についていけてないようだ。


 うーん、本当に何がどうなっているんでしょう……。

 革命家であるラインハルト・エーレンブルクといったら、冷酷無比なる人物として知られていたはずだ。

 それなのに私のことを抱き締めながら部下に吠え散らかしている彼は、なんというかその……ご主人様のことが好きすぎる大型犬というか……。


「あ、あの、ラインハルト様……? 私とアナタは、初対面のはずですよね……?」


「むッ!? ……あぁそうか、薄暗い中での出会いだったからな。私もキミの瞳が紫色だとわからず、今まで王族と知らなかったわけだし……」


 ぶつぶつと呟きだす『氷の魔将』。

 はて、外出すらほとんど許されていなかった私に革命家と接触する機会なんてあっただろうか?



 そう首を捻ると、彼は自身の着ていた漆黒のマントを羽織らせてくれながら、耳元でこう囁いた。



「かつてキミはこう言ってくれただろう? ――『アナタの瞳は、自由な空の色をしている』と」


「っ……!?」


 

 その一言で思い出す……。

 かつて私が義母から助けた、金髪碧眼の青年のことを――。



 ◆ ◇ ◆



 四年前のこと。使用人の仕事をさせられ始めた私に対し、ある日義母が命令してきた。


「うっかり奴隷の片目を潰してしまったわ。アナタ、彼を治療してきなさい」


「……はい、お妃様」


 ――義母である妃には『拷問』というどうしようもない趣味があった。

 兵士に命令し、貧民街などから見目麗しい男子を拉致してくるのだ。


 今回の被害者となったのは十八歳の青年だった。

 普段は主に十代前半の子供を嬲っている義母だが、そんな彼女が日々熱心に鞭を振るうほど例の青年は凛々しいらしい。

 ルンルンと鼻を鳴らしながら地下の拷問部屋に向かう姿をよく見る。



「はぁ……」



 治療箱を手に地下へと向かう。

 階段を一歩降りるたび、むせ返るような血の臭いが強くなっていく。

 あぁ駄目だ。こんなところにいたら吐いてしまいそうだ。


 私はさっさと治療を終えて戻ろうと思いながら、拷問部屋へ辿り着き――そして、彼と出会うことになった。



「……なんだ、お前は。あの女の命令で来たのか?」


「あっ……」



 目を合わせた瞬間に、胸がときめいた。


 ――あぁ……なんて美しい瞳をしているんだろう。


 壁に両腕を固定され、右目は痛々しく潰されていながらも、残った左目は力強く輝いていた。

 今こうしている間も腕をぎちぎちと揺らし、必死で拘束を解こうとしている。


 ……たしか彼が囚われてから、もう一か月は経つはずだ。

 それなのにこの青年は諦めていなかった。全身から血を滲ませながらも、自由を求めて足掻き続けていた。


 そんな彼を前にして――気付けば私は拷問用ののこぎりを拾い上げ、手枷にあてがい始めていた。


「危ないですから、じっとしていてください……」


「なっ、お前は何をやっている!? ただの使用人があの妃に逆らってみろっ、殺されるぞ!?」


「別に殺されてもいいですから」


「いやよくないだろう!?」


 彼は意外にも人情家のようだ。冷たい美貌をしておきながら、私の身を案じてくれていた。

 ――すでに生きることを諦めてしまっている、私なんかのことを。


「……私の闇色の瞳とは違い、アナタの瞳は、自由な空の色をしています。どうか私のことなど気にせず、強く真っ直ぐに生きてください」


「ッ……!」


 そしてガシャンッと音が鳴り、彼の手枷は外された。

 私は片目を見開いている青年に簡単な治療を施すと、王城にいくつか存在する王族用脱出路の一つを教える。


「な……なぜメイドのキミが、王族用の脱出路のことを……」


「内緒です。それよりも早く逃げてください、妃が様子を見に来るかもしれません」


「……ああ、わかった。どうか生きていてくれ。いつか必ず、キミのことを助けに行こう……!」


 ――そうして去っていく金髪の青年。

 力強く外に向かっていく彼の姿は、汚れていながらもとても美しく見えた。



 ……その後、私は()()()()彼を逃がしてしまったと報告し、両手の爪を全て剥がされた。

 しかもその状態で水仕事を命じられ、痛みで思わず泣きそうになった。


 だけど後悔はない。

 これが気弱な私の行った、最初で最後の反逆の結果なのだから。


 ――あの青年が健やかに生きてくれることを、私は静かに祈り続けた。




※レーナちゃんのこの一手で王国は崩壊しました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の人格には好感が持てます。 母親が居なくなって以降、彼女の事を誰も面倒を見ていなかった訳は無いですので、宮中・後宮の役人や使用人などに、優しい、マトモな大人が居たのだろうと想像しま…
[一言] 自己犠牲がすごい
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