12:気付き
――私はラインハルト様の屋敷が大好きだった。
日当たりがよくてお洗濯ものが乾かしやすいですし、そして何より裏庭には、『露天温泉』があるんですから……!
「はぁ~、あったまりますね~……!」
ある日の夜、私は一日の疲れを取るべくゆっくりとお湯に浸かっていた。
月を見上げながらホッと息を吐く。夜風が少し冷たいけれど、火照る身体に気持ちいい。
「ふふっ、今日も身体をピカピカにしておかないとですね……」
微笑みを零しながら腕を撫でる。
……最近の私はナマイキにも、美容というものに気遣うようになっていた。
国王であるラインハルト様の側に立つ者として、いつまでも垢抜けないままではいられないと思ったからだ。
それに何より、愛しい彼には綺麗な自分に触れてほしい。
そんなことをよく思うようになっていた。
「まぁシルフィーナ姉様から散々野暮ったいと言われた私ですから、磨いたところでそこそこがやっとでしょうけど……」
(性格はともかく)容姿だけは輝いていた彼女がそう言うのだから、自分にはあまり魅力がないのだろう。
特に王城にいた時はいつも死んだ目をしていたし、『アンタの顔を見てると雰囲気が暗くなるのよ』と義姉によく罵られていた。
「あはは……そんな自分の顔が嫌で前髪を長くして、義姉からさらに暗くなったと馬鹿にされていましたっけ……」
なんとも間抜けな話だと苦笑してしまう。
義姉とのエピソードはそんな和気あいあいとは言い難いモノばかりだが、家族で一番絡みがあったのは彼女だ。
今どうしているか少しだけ心配だったりもする。
「……まぁ図太いあの人のことですし、それなりに上手くやってるかもですね。一緒に教育を受けさせられていた頃には、よく宿題を代わりにやれと言ってきたり……」
私より一つ年上なんですから、どうせ自分でも出来るでしょうに。
なのにあの人はよく宿題を解かせたり、授業の時もめんどうなのか私に答えさせてばかりいた。
「あと私よりも身長が十センチ低いことを気にしてか、こちらを睨みつけながら牛乳をガブガブ飲んでましたっけ……」
はてさて、どうしてあんなに恨めしそうな目で見てきたんでしょうか……?
私なんて姉様よりは高いといっても、平均身長より少し低いくらいですのに。
義姉としてのプライドが許せなかったんですかね~と、私は胸の前で腕を組みながら考えるのだった。
と、そんな時。
「うふふっ、レーナちゃんってば独り言が外まで聞こえているわよ?」
優しげな声と共に、湯けむりの先から一人の女性が現れた……!
――革命軍の情報担当にして、私の憧れであるマリア様だ!
「はわっ!? マ、マリア様いらしてたんですか!?」
「えぇ。また色々と国王陛下に報告することがあったしね。隣、いいかしら?」
「は、はいっ!」
優雅な所作でかけ湯を行い、マリア様も温泉に入ってくる。
……いつもは葬儀用のゴシックドレスを纏っている彼女だけど、今は当然裸だ。
服の下に隠されていた完璧すぎる美体が露わになっていた。
「ふう〜、やっぱり温泉は気持ちいいわねえ」
「そ、そうですね……!」
……わ、私も女性のはずなのに、顔が熱くなってしまうのはなぜでしょうか……!
ラインハルト様の裸を初めて見たときのような気持ちが、なんでかちょっぴり湧き上がってきて……。
「あらあらっ、レーナちゃんってばお顔が真っ赤よ? もしかしてのぼせちゃった?」
「あっ、いえいえいえいえっ! 大丈夫ですよっ、全然……!」
う、うぐぐぐ……マリア様に心配されてしまった……なんという失態……!
ああ、それにしても本当に憧れちゃいますねーマリア様。
余裕たっぷりな大人の女性って感じで、私みたいな自信のない弱い子とは大違いです。
それに容姿もとっても綺麗。
特に今日は普段顔にかかっている黒いベールもないため、その美貌が完全に露わに……………………って、あれ?
「マリア……様?」
――どうしてでしょうか。
マリア様のお顔が、私なんかと似て見えるのは――。
レーナ「私みたいな、はしたない胸の気弱メイドなんてモテませんよね……」
ラインハルト+男性国民「うおおおおおおおお!!!」
・ただの萌え要素の塊ーー!
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