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11:第一王女の後悔(国王サイド)





「――もうこんな生活は嫌っ! 生の野菜なんて食べたくないッ!」


「文句を言わないで頂戴っ!」


 人里離れた山奥にて、母と娘の金切り声が響き渡る。

 革命の日から既に一か月以上。セレスティア王家の者たちの生活は困窮を極めていた。


 襤褸ぼろをかぶって街中に紛れても、王家の証である『紫の瞳』を見られた途端に追われる始末。

 かつては誇らしげに輝かせていたその瞳孔は、もはや罪人の象徴になっていた。


「お父様ぁ……王様なんだからどうにかしてよぉ……!」


 土のついたダイコンを握りながら、第一王女はぐずり泣く。

 

 もはや彼女の精神は限界だ。

 瞳のせいで人里に行くことも出来ず、どことも知れない山中にて身体を洗うこともままならない生活を送ってきたことで、第一王女はやつれきっていた。


 ……たまたま小さな畑を見つけなかったら、親子ともども餓死していただろう。

 今では畑の主に気付かれぬよう、真夜中にこそこそと農作物を盗んでいく日々を送っていた。


 ああ、まるでネズミのようだと彼女は我が身を恥じらった。

 毎日好きな服を着て、食べきれないほどの料理を堪能していた日々が懐かしい。

 あの優雅な生活には、もう戻れないのだろうか?


「ねぇお父様ッ、なんとかしてよっ、お父様ぁ!」


 父の服を掴んで泣き叫ぶ少女。

 だがしかし、


「――うるさいんだよォ!」


 そんな第一王女の頬を、元国王は容赦なく張り飛ばした――!

 薄暗い山中に肉を打つ音が響き渡る。


「きゃっ!? ぇ、え……お父様……いま、私のことをぶった……!?」


 目を白黒とさせる第一王女。

 家族から暴力を振るわれたのはこれが初めてだった。

 痛み以上の衝撃が、彼女を呆然自失にさせる。


 しかし父王はフンッと鼻を鳴らし、悪びれもなく盗んだニンジンにかじりついた。


「ワシが頑張って逆転の策を考えているというのに、貴様はいちいちアレは嫌だコレは嫌だと泣き喚きおって。はぁぁ、これなら静かで何でも言うことを聞くレーナのやつを連れてきたほうがマシだったわ……」


「なっ、何言ってるのよ!? あんな乳がデカいだけの暗い女が私よりマシですって!? ねぇお母様っ、お父様が酷いことを言ったわ!」


 次は母親に泣きつく第一王女だったが、妃のほうも娘の癇癪を聞く余裕などなかった。

 死んだ魚のような目で「えぇまったく」と呟く。


「レーナだったら、紫色の瞳をえぐって娼婦でもやってこいと言ったら従ったでしょう。それで稼いだお金を元手に何か策を立てることが出来たはずだわ。

 それなのにこっちの娘ときたら使えないったらありゃしない……」


「っ……!?」


 侮蔑交じりの冷たい声が、第一王女を責め立てる。

 ここに来て初めて彼女は、家族から冷遇されるという苦しみを体験することとなった。


「そんな……お父様、お母様……!」


 胸が詰まり、呼吸が浅く激しくなっていく。涙が零れて止まらない。

 まるで世界で一人ぼっちになってしまったような孤独感が、第一王女の心を苛む。


 ……人は余裕がなくなった時、その本性が現れるという。

 ならばこれが、こんな醜い男と女が、自分の両親の正体だったというのか?

 そして自分も二人と同じく、金や権力がなければ泣き叫ぶことしか出来ない、愚かな子供だったというのか……?


 ――そんな真実に打ちのめされ、第一王女が立ち尽くしていた……その時、



「お前たちかぁッ、オラの野菜を盗んだのはーーーッ!」



 罵声と共に飛んできた小石が、第一王女の頭に当たった――!


「ぎぃっ!?」


 悲鳴を漏らして倒れ込む王女。頭部から血がビュッと噴き出す。


 ……真っ赤に染まっていく視界の隅に、恐ろしい形相をした浅黒い男が立っているのが見えた。

 おそらくは彼が山中にあった畑の主なのだろう。


「たっ、助けて……お父様、お母様……!」


 ――このままじゃ殺される。

 そう思って両親に手を伸ばす少女だったが、当の二人は娘になんて目もくれずに走りだしていた。


「くそっ、見つかったかーッ!」


「あっ、ま、まって、待ってよぉ……!」


 必死に声を出すものの、元国王とその妃は振り返ることすらせずに駆けていく。

 ……その後ろ姿に第一王女はふと思った。



 “あぁ――革命の日に置いていかれた妹も、こんなに悲しかったのかしら……”



 今さらになってようやく彼女は、自分がどれだけ酷いことをしたか思い知る。

 しかし後悔しようが今さら遅い。浅黒い男が側に立ち、手を伸ばして何かをしようとしてくるのが見えたからだ。


 殺されるか……汚されるか……あるいはその両方か。

 どちらにせよ、ろくな末路は待っていないだろう。


 ――深い絶望を味わいながら、第一王女シルフィーナは静かに意識を落としたのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 数ヶ月後!そこには立派な農家の嫁さんとなったシルフィーナの姿が?
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] さて、(元)第一王女シルフィーナの運命や如何に? [一言] 続きも楽しみにしています!
[一言] さて、どうなるかな?
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