10:『妃』の宣言
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――チュンチュンッという鳥たちの声が響く。
「んっ……」
朝日が窓から差し込む中、私は気だるさと共に目を覚ました。
隣には、満足げに眠るラインハルト様のお顔が。
彼は一糸纏わぬ姿で、たくましい腕を私の枕にしてくれていた。
「あぁ……私は、昨晩……」
頬が熱くなっていくのを感じる。
シーツで胸元を抑えながら、ひとまず後片付けをせねばと起き上がった。
――あれから私は一晩中、ラインハルト様より愛を授かった。
何度も好きだと囁かれながら唇を奪われ、かつて義姉から『はしたない雌牛のようだ』と罵られた胸を、ふやけるくらいに求めてくれた。
そして、何より……、
「っ、ンっ……」
お腹の奥で、愛の証がとっくりと揺れる。
私は下腹部をそっと撫でた。
皮膚一枚を隔てた先で、淫らな熱さが命の海を泳ぎ回っているのを感じる。
それらは奥へ奥へと向かい、私の結晶を責め立てて――あぁ……!
「……ありがとうございます、国王陛下……」
――多幸感に包まれながら、私は眠る愛しい人に、静かに思いを告げたのだった。
◆ ◇ ◆
私が彼と愛し合うようになってから半月が経った。
国の運営は順調だ。『ジャガの根栽培計画』の成功により飢饉の不安が拭い去られたため、民衆たちはラインハルト様をこぞって褒め称えるようになった。
書類仕事にもずいぶんと慣れてきたようで、最近は私と同じ時間にベッドに入ってくれる。
……まぁ睡眠時間はアレがアレなので、前とあんまり変わってないんですけどね。
疲れてしまわないか彼の身体が心配ですけど、むしろ顔がどんどんツヤツヤしていく不思議現象が起きている。
ご満足されているようで何よりです。……もしかして私のほうもツヤツヤしてたりするんでしょうか?
ともかく、今のところ彼の治世に目立った問題はなかった。
となれば今やることは前王の残した負の遺産を片付けることだ。
そのため先週より多くの人員を動員し、『貧民街』への奉仕作業を行っていた。
地区一体を清掃したり、貧しい方たちへ炊き出しをするのだ。
私もラインハルト様の役に立つべく、それに参加させてもらっている。
「レ、レーナ様、私の子にも蒸かしたジャガを……」
「えぇどうぞ。たくさん用意しましたから、お母様もどうか食べてください」
「っ、はい……ありがとうございます……っ!」
ありがたそうにジャガを持って帰る親子。その背中を笑顔で見送る。
……ふぅ。これでこの辺りに住んでいる人たちには配り終えましたね。
こちらも一息つきましょうか。
「お昼にしましょう、ヴィルヘルム様?」
「あ、ああ……」
私の言葉に、ラインハルト様の部下であるヴィルヘルム様が気まずげに頷いた。
彼は黒髪を掻きながら、「なぁ」と小さく問いかけてくる。
「あー、そのよぉ、レーナ様よぉ……」
「え、呼び捨てでもいいですよ?」
「いやよくねーだろっ!? アンタ未来のお妃様だろうが!」
うがーっと吼えるヴィルヘルム様。
悪そうな風貌をしている彼だけど、上下関係にはしっかりとしているようだ。
「……じゃあ間を取ってレーナさんよ。アンタ、俺のことが怖くないのか? だって俺はよぉ、あの革命の日……アンタを……」
「あぁ……」
彼の言葉にあの日の記憶が頭を過ぎる。
私の頬をぶち、服を破り、激情によって目を血走らせながら襲おうとしていたヴィルヘルム様の姿が……。
「気にしてない……といえば嘘になりますね。でもあの時の私は、自分なんてどうなってもいいって思ってましたから。
……それに何より、民衆の怒りを受け止めるのは王族としての責務だと感じていましたし……」
「責務って……チッ。なんで半分平民のアンタがそんな使命感を発揮して、純血の王族どもは逃げ出してんだよ。おかしいだろ」
本当にクソだなアイツらと呟きながら、ヴィルヘルム様は薄汚れた壁に背中を預けた。
「……俺は元々貧民街の生まれでよぉ。必死こいて生きるため、ガキの頃から盗みや喧嘩を繰り返してたっけなぁ……」
彼は静かに語り始めた。
地面をうろつく小さなネズミを見つめながら、死んだ目をして言葉を続ける。
「そんなどうしようもない俺だったが、喧嘩で勝っていく内にどんどん俺を慕う奴らが現れてきた。どいつもこいつも馬鹿でアホなクズばっかだったが、女子供には手を出さねぇ気のいい奴らでよぉ……」
「……その人たちは、いま?」
「――殺されたよ。四年前、アンタの親父が“国を綺麗にする”だの言い出して、兵隊を使って貧民たちを殺しまくった日にな」
「っ……!」
――『血の清掃日』と呼ばれる一件のことだ。
当時、父王がどんどん税を重くしたことで、貧民街に人が溢れた。
それによる治安の悪化を憂いた王は、あろうことか虐殺を以って事態を解決しようとしたのだ。
……兵士たちが嫌がったため被害者数は百人程度にとどまったそうだが、この一件が引き金となり、民衆たちの心に革命の炎が燃え上がることになった。
「……申し訳、ありませんでした……!」
「あっ、いや、アンタが謝ることじゃねぇって! 悪いのは全部クソ国王だろうがよっ!」
そう言ってくれるヴィルヘルム様だが、まったくの無関係というわけではないだろう。
――私が勇気を振り絞って、父に『虐殺はやめてほしい』と懇願していたらどうなっていたか……。
きっと聞いてくれなかっただろうけど、でも少しばかりは心が揺らぐ可能性はあった。
出来ることがあったのにそれをせずに黙殺してしまったのは、この私だ。
思い詰めた私は、ヴィルヘルム様の手を強く握り――、
「――あの日犠牲になった人たちの分まで、私がみなさんを幸せにしますっ! ラインハルト様と共に、誰も悲しまない国を創り上げてみせます!」
「ッ――!」
心からの想いを込めて宣言する。
そんな私の言葉に、ヴィルヘルム様は赤い瞳を見開いた。
それから数秒……彼は私をじっと見つめ、やがて小さく笑みを浮かべる。
「ハッ……もしもアンタがあの時みたいに『犯してスッキリしてください』とでも言ってたら、アンタのことをぶん殴ってたよ。自分を安売りする女は大嫌いだからな」
「もうそんなことは言いませんよ。だって今の私には、愛してくれる人がいるんですから」
「ククッ、そりゃぁそうだなっ! ラインハルトの旦那もいい嫁さんを見つけたじゃねーかッ!
――あぁ、上等だ。俺も全力で協力する。だから、死んだ仲間たちが墓から飛び出してきちまうくらい幸せな国を作ろうぜ、メイド服のお妃様?」
そう言って彼は、私の手に忠誠の口づけを落とすのだった。
ライン「む、手からわずかにヴィルヘルムの匂いが……」
レーナ「犬ですか!?」
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