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後編-2

資料が整い、満を持して女と親戚に連絡をした。

女の親戚は話し合いを渋ったが

(女は事情から同席が不可能になった)


『陽平君の遺産についてです』


その一言であっさり話し合いを了承した。

場所は私が所属する弁護士事務所、所長に許可を貰い応接室で奴等を待っていた。


「やっぱり別室で待っていたら?」


心配そうな友里は陽平君に寄り添う。

楓は遠慮して貰った、まだ10歳の娘には見せたくない。


「大丈夫だよ、みんな居るんだから」


陽平君は勇気を振り絞って微笑んだ。

そんな陽平君を見て主人は頷いた。


「みんな陽平の味方だぞ」


「そうよ陽ちゃん」


「もちろん、私も楓もね」


みんなで励ます、陽平君にとっては因縁の相手だが、けじめを着けると同席を希望したのだ。


「失礼します、先方がお着きしました」


扉がノックされ、事務員が声を掛ける。


「入って貰っ...」


言葉が終わる前に2人の中年男女が部屋に入って来た。


「今日はなんだ!?いきなり呼び出すとは失礼じゃないか!」


椅子に座るなり大声を出す男。

調査によると女の兄で現在の当主、働いた事が無いのが自慢とあった。


「どうしても話しておかないと思いまして、今日のやり取りは記録させて貰ってますよ」


主人の言葉は穏健だが男を睨み付けて離さない。

その気迫に男は黙って視線を逸らした。


「それで私達に話しって?

陽平ちゃんの事かしら?」


記録をしていると聞き、猫なで声で陽平君の名を言ったこいつは女の妹。

陽平君の話では私達に引き取られるまで毎日のように棒で叩かれたと聞いた...


「お前が...」


友里の身体から殺気が、12年前全身痣だらけだった陽平君を思い出したんだろう。


「落ち着きなさい」


「...はい」


主人が友里を止める。

涙目の娘、気持ちが伝わり胸が詰まる。


「はあ怖い、怖い。

やっぱり陽平ちゃんを奪って私達の財産を掠めとる盗人だけの事はあるわね。

陽平ちゃん、こんな人達と暮らしてるなんて可哀想...私の所に来ない?」


下品な化粧と派手な服装で固めた女は大袈裟に首を振った。

仕事柄、感情のコントロールは慣れている。

しかし腹の立つ物は立つ、私達を盗人だと?


「おいふざけるな!

陽平は俺が引き取るんだぞ!」


男は妹に怒鳴り付けた。

一体何を言ってるんだ、どうして陽平君を引き取る事が前提になっているの?


「先ず訂正ですが、私達家族はそちらの財産を全て放棄しております」


主人は書類をテーブルに広げた。

5年前、女の実家が雇っている顧問弁護士から相続を伝えられ、相続放棄した一連の書類。

もちろん公正証書に起こしていた。


「そんな物が信じられるか!

どうせ親父の財産をこっそり受け取っていたんだろ!」


「そうよ、貴方達が家を購入したのは知っているんだからね!」


奴等はテーブルを叩き、大声で騒ぎ立てる。

恫喝したら話が有利に進むと思っているのか?


「自宅を購入した事まで調べてましたか」


主人は呆れた顔で奴等を見た。

よくもまあ...


「自宅は私達の貯金で購入しました。

ローンではありますが、陽平から一円も借りてません。

それ以前に陽平は相続してないと言ったでしょう」


主人は自宅を購入した際、振り込んだ通帳のコピーを奴等に見せた。


「こんな物が証拠になるか!」


「そうよ、私の両親から金を騙し取るなんて!」


コピーを破り捨て口汚く罵られる。

仕方ない、想定内だ、次はこちらの番だな。

冷静な気持ちで深呼吸をする。


「随分と私達の事をお調べですね」


出来るだけ静かに声を出す。

私の様子に主人と娘が驚いているが、まあ良いだろう。


「こちらも貴方達を調べさせて貰いました」


ファイルを取り出し奴等の前に出した。


「「な!?」」


奴等の表情が一変する。

そりゃそうだ、奴等の脱税を指摘する文書なのだから。


「不動産の収入を随分過小申告されてましたね、かなり悪質な手口です。

申告してない物件も散見されましたし、時効されてない物だけでも億に上ります」


「ど、どうして...」


男は真っ赤な顔で睨む、そんな物当然怖くない。

こんな物くらい直ぐに調べは着く。

実際、噂になっていたくらいなんだから。

これで終わると思うなよ。


「不動産は全て銀行の抵当に入っておられる様ですね、覚悟なさってください」


「ま、まさか...」


女は真っ青な顔で、私にすがる目をした。

理解したのか、もう手遅れだけど。


「もちろん告発済みですよ」


その後は聞くに堪えない罵詈雑言、『人でなし』だの『鬼だの』自己紹介かと思った。


「気が済みました?」


息も絶え絶えの奴等に微笑む。

弁護士にとって日常茶飯事、下らない。


「陽平、お前は俺達の家族だ。

た、助けてくれ」


「お願い陽平、私達は家族よね?

お母さんに会わせてあげるから」


「は?」


「何?」


思わず呆気に、私と主人も理解出来ない。


「...お前等は」


友里は我慢出来ず立ち上がった。

なんて馬鹿な連中だ、この期に及んで家族?

あの女に会わせる?

今回の悪夢は全てここから始まっているのに!


「友里、座って」


「兄さん」


陽平君は友里の手を握り、座らせる。

興奮していた友里だけど陽平君を見ると素直に座った。

完全に落ちてるね、恋に。


「また捕まったそうですね」


陽平君は感情も無い声で奴等に言った。


「え?」


「どうしてそれを?」


「母さんから聞きました。

また薬物って、懲りない人ですね」


女が同席しなかったのは出来なかったのだ。

先週また薬物で逮捕されて刑務所に逆戻りしていた。


「薬物を買った金はどこから来たんですか?」


「「...う」」


奴等は声を詰まらせた。

身に覚えがあるのだろう、金を渡した事に。


「それも調べれば分かるよね、母さん」


陽平君は微笑みながら私を見た。

綺麗な瞳、これは友里や楓の気持ちが分かるってもんよ。


「もちろん、女の自供次第ね」


私の言葉に再び奴等は叫んだ。


『お前が金を渡したのが悪い』とか『兄さんが渡せと言った』とかそういうのは帰ってからしてくれ。


「最後に良いですか?」


騒ぐ馬鹿共に陽平君が言った。


「さっき家族って言いましたよね?」


馬鹿共は陽平君の言葉に黙る。

苦し紛れに言った言葉なんか覚えてないか。


「僕の家族はここに居ます。

そもそも、あなたは誰ですか?」


それだけ言うと陽平君は席を立った。

もちろん友里も一緒に、後を頼んだよ。

扉が閉まったのを確認する。


「さあ仕上げますか」


とっとと終わらせよう。

そして主人と帰るんだ、愛する家族の元に。


この日を最後に奴等は私達の前に姿を現す事は二度と無かった。

女が薬物中毒で死んだと聞いたのはそれから10年後、陽平君と娘の結婚式のあった年だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 弁護士相手に脅すとか馬鹿な連中ですな。 ほかの人の感想より、改訂で2人のゴールイン付け足しですね。 しかし、友里は最初から兄をロックオンして撃墜ですね。
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