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中編

「大丈夫?」


兄さんの身体が一瞬強張り、私は必死で抱き締める。

真っ青な顔の兄さんは身体を震わせ、私を見て微笑もうとするが無理をしている。

痛い程分かった。


「兄ちゃん無理しないで!」


楓も後ろから兄さんを抱き締める。

妹も兄さんが大好きだ、家族の中で誰1人として血の繋がりが無い兄さん。

その孤独を癒そうと必死な様子は私の心を打った。


「...すまない陽平」


父さんも決して兄さんが嫌いじゃない。

憎むべき元妻と間男の間に産まれた兄さんを自分の子供として育ててきたんだ。

裏切りの証明である兄さんを...


「どうして陽ちゃんの居場所が分かったの?

あの女が収監されてから引っ越してるし、皆には住所を口止めしていたでしょ?」


母さんは話を変えようと次に移る、さすが弁護士だけの事はある。


「それにあの女の恋人は刑務所で死んだって聞いたよ」


薬物乱用の後遺症、まさに自業自得の最後だ。


「おそらく実家から聞いたんだろ」


「実家に?」


父さんは意外な事を言った。

実家ってあの女の実家の?

でもあの女の実家は、


「分かってる、あの女の両親はもう居ない」


あの女の両親は5年前に相次いで他界している。

資産家で名家の娘だったあの女。

無職で悪い噂の絶えない恋人と切り離す為に父さんは結婚させられたんだ。


恋人同士だった母さんと父さんを無理矢理別れさせてまで...


「それじゃどうして?」


兄さんが父さんに迫る、本当は聞きたくも無いだろうに。


「たぶんお前の金が目当ての親戚連中が焚き付けたんだろう」


「僕のお金?」


「糞が...」


母さんが吐き捨てた。

私も同じ気持ちだ、あの女の親戚は兄さんが相続したと思っている財産に目が眩んだのか。


死ぬ前、ようやく自分達が父さんと母さんの人生を滅茶苦茶にした事に気づいたあの女の両親。

そりゃ娘が薬中で売人までやらかし刑務所行き、子供は托卵、世間に知られて権威は失墜、ざまあみろ。

で、遺言で兄さんに遺産を相続させる事を書いていた。


「でも放棄したよ?」


「でも信じてないんだろうな、馬鹿な連中だ」


怒りに震えながら父さんが言った。

もう見えて来た、あの女の親戚が兄さんが財産を相続していると思い込んであの女に住所を教えたんだ。

きっと興信所とかを使たんだろう。


「欲に目が眩んだ亡者達が、徹底的に潰すわよ」


「...母さん」


「ええ、私の大切な兄さんを苦しめる馬鹿共には制裁が必要よ」


私も怒りが堪えられない。


「...友里」


「兄ちゃんを悲しませる奴等なんか生かしておけないよ!」


「楓、少し怖いよ」


兄さんは楓の頭を優しく撫でた。

幸せそうな楓、後で私もして貰おう。


「陽平は俺の大切な息子だ。

傷付けた馬鹿を野放しにする訳にはいかん」


最後に父さんが呟いた。

母さんを諦め、懸命にあの女と家族になろうとした父さん。

授かった息子は他人の子供だった、それでも父さんは愛したんだ。

5年間に渡る親子の絆は本物だったんだ。


母さんも父さんを諦めようとした。

そして周りから言われるまま結婚して私を産んだ。

でも私の血縁上の父は母さんを捨てて他の女に走った。

離婚して実家に戻った母さんは父さんが酷い状況にある事を知り、必死で支えた。

(もちろん私も)


そうして再婚した父さんと母さん。

妹も産まれ、ようやく幸せを掴んだのに!


「ありがとう父さん、母さん、僕の為なんかに...」


言葉を詰まらせる兄さん。

そんな辛そうな顔をしないで。

私だって父さんと血の繋がりは無いけど、家族なんだから。


「陽ちゃん、『僕の為なんか』って言っちゃ駄目」


母さんが兄さんの両手をそっと握りしめた。


「...母さん」


「陽ちゃんは私達の子供よ、血の繋がりなんか関係無いわ。

血縁?そんな物が何?

夫婦は元々他人よ、でも愛し合って家族になるの。

私達は貴方を愛してる、だから家族なの!」


「お前は俺の息子だ、初めて抱いた瞬間から間違い無く俺の子供だ!

友里も俺の大切な娘なんだぞ!」


父さんと母さんが叫ぶように言った。

兄さんの目から涙が溢れる。

続かなくては!


「そうだよ、兄ちゃんは兄ちゃんだ!

私の自慢の兄ちゃんなんだから!」


あ、楓に先を越された!


「そうよ愛し合って夫婦に、家族になれるなら私と兄さんが結婚すれば良いのよ!」


どうだ言ってやった!


「は?」


「友里?」


「友里ちゃん?」


「姉ちゃんズルい!!」


三者三様の言葉が返ってきた。

でも本音だぞ。


「....それは置いといて、あの女を迎え撃つ準備をしましょう」


母さんはまた話を変えた。

そして私達はあの女と親戚に引導を渡す為に話合うのだった。

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