第七十八話 闇の魔術師、クロムウェル
クロが倒れたことで彼の部下も総崩れとなり、全員がオキクに討ち取られた。
一時は騒然としていた公園は、再び夜の静寂に包まれている
そんな中、俺は倒れているクロに近付いていく。
クロは既に瀕死だった。
岩に背を預けたまま、クロが呟く。
「なんという男だ……」
そのセリフは、彼が俺を認めてくれたことに他ならない。許せない奴であることに変わりはないが、何故か俺はそれが嬉しかった。
クロは続けて喋り出す。
「貴様……さきほど我らがやっていることを知り、その上でたかが知れていると、そう言ったな?」
「ああ。言った」
「……貴様は私が洗脳されていると思うか?」
「!!」
俺はそのセリフに驚いていた。何故ならそれは洗脳されていたら出てこない言葉だからだ。
もしかして、洗脳が解けかかっているのか?
「貴様ほどの男がそう言ったのだ。考えたくもなる。それに……」
「俺の一撃を食らって、あんたの中の何かが消えたか?」
「……くく、分かっていたのか。本当に貴様は大した奴だ……」
そう、今の彼からは先程まで感じていた邪悪さがまるでない。文字通り、人が変わったようだった。
それは【流体魔道】で人の魔力の質が分かる俺だからこそ見抜けたことである。
「……気を付けろ。他の者たちは私と違って洗脳されているとは限らん」
「他の者たち?」
「私は『偉大なるあの方』の十三人いる直弟子の一人――第十三使徒のクロムウェルだ」
「第十三使徒だって……?」
え? いや、待て。こんな奴があと十二人もいるのか!? 勘弁してくれよ!
「くくく……『偉大なるあの方』か。私は今でもあの方を尊敬しているのだな」
恐らく彼自身、洗脳されていたと理解してきているのだろうに、それでもクロはそう言った。
「……貴様。一つだけ忠告しておいてやる」
「なんだ?」
「貴様は甘すぎる。この戦いにおいて貴様があの第一王子を助ける意味はなかった。貴様にも大義があるのなら、些事のために大義を見失うな」
「………」
彼のその言葉は理解出来る。だが、それでも俺は反論せざるを得なかった。
「第一王子を助けたことは意味がないことなんかじゃない。少なくても、一人の女の子が泣くのを止めることが出来た。それが俺にとっての大義だ」
俺がそう言うと、クロは呆気に取られた目をするが――
しばらくして、クロは笑い出す。
「くくく……やはり貴様は大した奴だ」
ただ、その目が不意に鋭くなる。
「ただ、やはり甘い。私にきっちりとどめを刺しておくべきだった」
クロは懐から羽のような物を取り出した。
するとその羽は突如、激しい光を放ち、クロの体を包む。
そして――光が上空に向かって飛び始める。
「待て!!」
オキクがとっさに刀を振るったが、しかし、その刀は空を切った。
光は上空に向かって飛んで行き、あっという間に星空に消えていく。……あれは相当高価なマジックアイテムだな。
結局、クロに逃げられたわけだが。
「申し訳ありません、坊ちゃま。逃がしてしまいました」
見ればオキクも体中に傷を負っている。それで初動が遅れたのだろう。
だが、俺は逃げられたことに関しては別に何とも思っていない。
「大丈夫だよ、オキク。あいつはもう今回のようなことはやらないと思う」
「はっ、坊ちゃまがそう言われるのなら」
……本当に物分りがいいな、この子。さすがにちょっと心配になって来た。
ちょっと注意しておこうかと考えていたら、後ろから第一王子の声がかかる。
「あ、あの……」
俺は振り向く。
そこには何かを言いたげな顔の第一王子タンヨウの姿があった。
俺は彼の方に体を向けようとするが、
「あ、あれ……?」
体が思うように動かなかった。
それどころか立ってもいられなくなる。
「はぁ……はぁ……」
息も切れてきた。
眩暈がする。
まずい、意識が……。
「坊ちゃま!!」
「お、おい」
オキクとタンヨウの声を聞きながら、俺は意識を手離した。
ブックマークや評価をいただきありがとうございます!
次は明後日の21時半ころ投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




