第七十一話 急転直下
さらに半年が過ぎ、俺は十二歳になった。
背も伸びてきて、ようやく脱子供の一歩手前まで近付いた感じである。
だというのに、未だにファラウェイが一緒に寝たがるものだから色々な意味でキツイ。
彼女も十四歳になって、少女としての美しさに益々磨きがかかっているというのに……。
それでもたまに風呂にまで現れるので、修行よりもそっちの理性を抑える方がよっぽど難易度が高かったりする。
それで修行の方だが――そっちは順調だ。
【纏い身体強化】の魔術を会得した上に、【時空魔術】を組み合わせるというとっかかりを得たおかげで目標も明確になり、今はただ一直線に研鑽を積んでいるところだ。
それに――少しは『完成した』と言ってもいいかもしれない。完全ではないが、多少は形になった。
やはり思った通り、【時空】属性の【纏い身体強化】の魔術は強力だ。あれを極めることは俺を一段と……いや、二段も、三段もレベルアップさせてくれるに違いない。
あと少し……あと少し時間が欲しい。そうすればかなり形になるはずだ。
だが――世の中はそう上手くはいかないというか――
そんな時に、事件は起きてしまう。
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「李高が暗殺されただと!?」
第一王子のタンヨウはその報せを聞き、自室で激昂した。
それを伝えたのは黒の軍師――クロである。
「ああ。今朝方、自分の屋敷の中、変死体で発見されたそうだ」
「な、なんということだ……!」
第一王子は頭を抱えて蹲った。
何故なら宰相の李高は第一王子派の中で最大の力を有した男だからだ。その男がいなくなったことは第一王子派の勢力を大幅に減衰させることを意味する。
タンヨウはクロを睨み付けると、
「誰の仕業だ!?」
「下手人は分かっていない。今、我が手の者に調べさせているところだ」
「どうせニャンニャン派の連中の仕業に決まっている!!」
タンヨウは拳で机を叩きつけた。痛みはあるはずなのに、彼はその素振りを見せない。怒りで痛みを感じていないのだ。
「タンヨウ様。決めつけるのは危険だ」
「李高が死んで得をする者が他にどこにいる!?」
「確かにそうだが」
「そうだろうが!?」
タンヨウはギリッと歯ぎしりさせる。
「……戦争の準備をしろ」
その命令にクロは一拍置いてから聞き返す。
「よろしいのか?」
「ああ」
「では、仰せのままに」
クロは恭しく礼をすると踵を返し、そのまま第一王子の私室を出ていく。
タンヨウはやはり、その黒頭巾の下がほくそ笑んでいることに気付いていなかった。
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