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第四十八話 誇りと立場

 暗殺者の襲撃が終わった時、俺は息を切らしていた。

 暗殺者の力そのものは大したことはなかったと思う。しかし、その技量と覚悟を侮っていたと言わざるを得ない。

 辺りに転がっている七人の暗殺者の死体。

 ……まさか、仲間を殺し、自ら命を絶つとは……。

 俺は体の震えが止まらなかった。


「エイビー。大丈夫アルか?」


 ハッとする。いつの間にか近くにファラウェイがいた。


「あ、ああ。君は怪我はないか?」

「ワタシは大丈夫ネ。それよりエイビー、もしかして命のやり取りは初めてだたアルか?」

「まあ、ね……。正直この人たちの覚悟を甘く見ていた。まさかこんな結果になってしまうなんて……」


 俺は未だに彼らの死体から目を離せない。

 するとファラウェイが俺を抱いてくる。


「大丈夫。大丈夫ヨ」


 まるであやすように、ファラウェイは優しく俺の背中をぽんぽんと叩く。


「エイビーは優し過ぎるネ」

「そんなことは……」

「そうヨ。少なくてもワタシが初めて人を殺した時は、そんな風に悩めなかたアル」

「……それがいいのか悪いのかは分からないよ。ファラウェイは多分、最初から覚悟を決めていただけのことだろう? そっちの方が凄いと思うよ」

「ふふ、ほら。エイビーは優しいネ」


 ファラウェイはずっと俺を抱いたまま背中を叩いて落ち着かせてくれた。

 ……まさか十二歳の女の子にあやされてしまうとは……。ここに至って尚、前世の時から精神が成長していなかったのだと思い知らされる。

 だが同時に、一つ成長できたとも思う。

 俺はファラウェイを離れると、あらためて暗殺者たちを見た。

 確かに彼らは敵だった。しかし、彼らの覚悟と誇りを忘れることはしない。

 決意をあらたにしていると、オキクが音もなく近寄ってくる。


「申し訳ありません、坊ちゃま。最後の一人も死なせてしまいました」

「仕方ないよ。彼らの覚悟の方が上だっただけのことだ」

「坊ちゃま……」

「それより、一体何者だったんだ……? 誰を狙ってきたんだろう?」


 俺は手を合わせてから、暗殺者たちの死体を調べ始めた。

 しかし、これといって彼らの身分証明になるものは何も出てこない。

 ……自ら命を絶つほどの者たちだ。やはりそこら辺は徹底しているか……。


「もしかしたら、ワタシを狙た可能性があるアル……」


 ファラウェイが唐突に告げた。

 当然、俺は聞き返す。


「どうしてファラウェイを?」


 すると彼女は困ったような、辛そうな顔をした。


「ワタシのことについては何も言えない。言えばエイビーたちを……」


 彼女は言葉を切った。だが――

「巻き込むことになる」恐らく彼女はそう言いたかったのだと思う。

 彼女は辛そうな顔のまま訊いてくる。


「ワタシのことが嫌になたアルか……?」


 多分彼女のことだ、気丈に言っているつもりなのだろう。

 だが、性格が素直な分、感情は隠せていない。

 俺は笑うしかなかった。


「何言ってんだ。俺たちはもう仲間だろ? 仲間は守るものだ」


 そう答えると、ファラウェイは目を見開いた。


「頼むから、何も言わずに俺の前からいなくなることだけはやめてくれよ?」

「エイビー……」


 彼女は茫然と俺の名を呟くと、次の瞬間、


「やっぱり好きネ!」


 思い切り抱き着かれ、俺は狼狽える。


「そ、それとこれとは話が別だから」


 そんなアホみたいなことしか言えない自分が情けない。

 ファラウェイは一頻り俺に頬ずりした後、満足したのか離れていく。

 そして、再び暗殺者に視線を下ろすと、


「でも、何故今さらワタシを……」


 その小さな呟きを、俺は聞き逃さなかった。



 *************************************



 暗殺者との戦いの音は完全には消せなかった。そのせいで、すぐに村長も駆け付ける次第となった。

 村長は暗殺者の死体に目をやると、厳しい顔をすると同時に、ファラウェイが無事であることを確認して心底ホッとした顔をしていた。

 村長はこの現状に驚いてはいるが、焦ったり狼狽えたりしているようには見えない。

 ……まるでファラウェイが襲われることに心当たりがあるような態度。

 村長は一頻りファラウェイの身を案じた後、このように言う。


「この者たちの後始末は私の方でやっておきましょう」


 その対処は冷静。それは一介の村長らしからぬ姿に見えた。

 ただ、先程のファラウェイとのやり取りもあるので、俺は何も聞かない。

 代わりにこのように頼む。


「村長。彼らを丁重に葬ってやってくれますか? 敵とはいえ、彼らは自分の仕事に誇りを持ち、仕事に準じました」


 自分でも甘いことを言っている自覚はある。迷惑をかけているとも思う。それでも、彼らを雑に扱うことは気が引けた。

 結局、村長は笑いながら快く俺のそのお願いを引き受けてくれる。

 そして――最後にこのように言った。


「エイビー殿。どうかファラウェイ様のことをよろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げてくる村長。

 その姿はやはりただの村長ではない。


 それから間もなく――

 俺たちは早朝に村を発った。





ブックマークや評価をいただきありがとうございます!


明日は20時半ころ投稿予定です。


よろしくお願いします。

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