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第二十四話 魔術師エイビー・ベル・スカイフィールド

「ほう……これほどの魔術書が所蔵されておるとは。さすがは魔術の名門と言われるスカイフィールドの屋敷じゃのう」


 ストロベリー姉さんが感嘆の声を上げた。

 ルナとの勝負の後、取りあえずルナをオキクに預け(無理矢理引き取ってもらったとも言う)、姉さんを図書室へと案内した。

 彼女が、俺が普段している魔術の勉強法を知りたいと言い出したからだ。

 しかし彼女が驚くのも無理はない。図書室と言ってもここは日本にあった図書館よりも広いのだから。

 一応屋敷と繋がっているので『図書室』と呼称してはいるが、屋敷と隣接している大図書館と言い表した方が分かり易い。

 そこに上から下までびっしり本が埋まっている状態で、何なら地下図書室まであったりする。レアな魔術本は地下にある方が多い。


「のう、これらの本は本来、門外不出のはずじゃろう? 部外者のワシに見せてもよかったのか?」

「姉さんにはこの屋敷に来てもらう代わりに色々と便宜を図ることになっているから。ここにある本は好きなだけ見てもらっても構わないよ」

「それはありがたいのう」


 姉さんは嬉しそうに頷いた。

 そして何気ない感じで聞いてくる。


「ちなみにお主はここにある本をどれくらい読んだのじゃ?」

「全部だよ」

「……なんじゃと?」

「だから、全部読んだよ。それがどうかした?」


 生まれた時からここにいるのだ。むしろ読まないはずがないだろう。

 しかし姉さんはというと何やら呆気に取られていた。


「お、お主、本当にここにある本を全部読んだというのか……?」

「うん、そうだけど……」

「ここにどれだけ本があると思っておるのじゃ!? どう考えてもその歳で読み切るのは無理じゃろうが!?」

「え? そうかな? だって俺、生まれた時からここにいるんだよ?」

「そんな当たり前のことみたいに言われてもこっちが困るわい!」


 姉さんがめちゃくちゃ怒鳴ってくる。

 しかし珍しいな、姉さんがここまで取り乱すのは……。

 これは一応弁明しておいた方がよさそうだな。


「でも、姉さん。全部読んだと言っても、未だに理解に至っていない魔術もあるんだよ?」

「……一応訊くが、それはどんな魔術じゃ?」

「時空魔術だよ」


 すると姉さんはまた呆気に取られたような顔になった後、くわっと口を開き、


「バ……バカ者! それは【賢者】の領域ではないか!? ワシが知っている限りでは時空魔術を扱える者は一人くらいしか心当たりがないぞ!? しかもその者は歴史上の大人物じゃ!」


 歴史上の人物……それはつまりこの世には既にいないということだ。

 難しい魔術とは思っていたが、まさかそれほどとは思わなかった。

 でも、実際のところあと一歩で理解出来そうなところまで来ていると思う。


「ちなみにだけど、その時空魔術を使えた歴史上の人物って誰?」

「知れたことを。【大賢者ウォード】じゃ」


 大賢者ウォード……その名は知っている。

 いや、この世界に居てその名を知らぬ者はいないだろう。それほどの大人物だ。

 千年前の勇魔大戦の立役者の一人であり、この世界に魔術を広めた人物でもある。

 彼がいた前と後では魔術レベルが天と地ほどの差があるほど違うと言われている。


 だが、実はそれからなんだよな。この世界に戦火が絶えなくなったのは……。


 ……と、話がずれたな。

 とにかく大賢者ウォードとはこの世で最も偉大な魔術師と呼ばれている。長い歴史の中、【大賢者】の称号がウォードにしか用いられていないことからして、その偉大さが分かるというものだ。

 俺としては彼が生きていないことが悔やまれる。生きているなら時空魔術を始めとして他にも色々な禁術を教えてもらいに行くのに……。

 ちなみに禁術は学ぶことが禁止されている魔術なので、手を出すことは違法である。

 しかし、どうせなら色々な魔術を学んでみたかった。

 帝都にある古代図書館には禁書と呼ばれる魔術書が保存されているとの噂なので、一回行ってみたいんだよなぁ。


「まったく……魔術に対しての造詣は深いとは思っておったが、まさか時空魔術にまで手を出しているとは思いもよらなんだわい……」


 何やら姉さんが俺を見て感心していた。


「時空魔術を極めようものなら、それこそかの【大賢者】に手が届く領域じゃ。いや、もしかしたらお主は大賢者ウォードの生まれ変わりなのかもしれんの」


 いや、それはない。俺の前世は39歳フリーターである。


「と、この言い方はフェアではなかったの。すまんな。お主が努力家なのは知っておるはずじゃったのに……」


 姉さんが頭を下げてくる。別にそんなに気にしなくていいのに。


「じゃが、さすがエイビーじゃな! ワシの弟子がかの大賢者に届こうものなら、師匠としてこれほど鼻が高いことはないぞ。と言っても、ワシは武術しか教えておらんのじゃが」


 そう言って姉さんは自嘲気味に笑うが、


「何言ってんだよ、姉さん。俺の肉体がここまで強くなったのも、近接戦闘でここまで戦えるようになったのも、全部姉さんのおかげだ。姉さんがいたからこそここまで強くなれたんだ」

「う、うむ、そ、そうか?」


 俺は姉さんの手をガシッと掴み、


「そうだよ! 姉さんにはこれからもいっぱい教えて欲しいことがあるんだ」

「わ、分かった。ワシに出来ることならいくらでも教えてやるわい……と、ところでなエイビーよ、ちょっと近いのじゃが……」


 俺は姉さんの言葉を無視して手をぐっと引き寄せる。


「なっ、なな……ち、近……!?」

「ありがとう、姉さん! 実際俺はまだまだ姉さんには敵わない。俺はいずれ姉さんの隣に立って――」

「近いと言っておろうがっ!!」

「ごばぁっ!?」


 姉さんの拳が俺の腹にクリーンヒットし、俺は図書館の端まで吹っ飛ばされていく。

 そして端の本棚にぶつかると、衝撃で倒れてきた本棚と本の雨に埋もれる俺。


「まったく……ワシとて乙女なのじゃぞ」


 何やら恥じらうような声が聞こえてくるが……。

 姉さん……これ、乙女の一撃じゃないよ……。

 俺はそのまま意識を手離した。




ブックマークありがとうございます!


それと評価ポイントによる援護射撃、とてもありがたいです(*^_^*)


明日は18時半ごろ投稿予定です。


よろしくお願いします。


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