第十九話 次元空間制御の論理
さて、家を出て行かねばならなくなったからには、それなりの対策を立てておかねばならない。
ただ、俺は元々叔父から嫌われている現状を勘案しており、いつ追い出されても大丈夫なよう、一人でも生きていけるよう努力してきたつもりだ。
その証拠に俺が今、最も力を入れているのはある魔術の開発だった。
それは――【アイテムボックス】の魔術である。
【アイテムボックス】の魔術は時空魔術の応用で、何もない空間――異次元にアイテムを保管することが出来るという極めて便利な魔術だ。
分かり易く言うと、目の前の何もない空間にアイテムを収納できるようになり、バッグやリュックを必要とせず、手ぶらで旅や冒険が出来るようになるということである。
将来、家を出ることになることを考えると絶対に欲しい魔術だった。旅人や冒険者にとってこれ以上ないほどのアドバンテージとなる。
ただ、厳密に言えば【アイテムボックス】という名の魔術は存在しない。
何故なら【アイテムボックス】の魔術は理論上、使い続けることが出来ないからだ。
何もない空間――異次元にアイテムを保管するということ自体は可能ではある。
しかし、それはあくまで『魔力が続く限り』という条件が付く。
当たり前だ。何の代償もなしに魔術を使い続けることは有り得ない。この世の中は全て等価交換の理論で成り立っており、魔術とてその枠からは逃れられないのだから。
結局のところ理論上存在はするが現実的には使えない魔術――それが【アイテムボックス】の魔術なのである。
だが、考えてみて欲しい。そう、俺は魔力を無限に使えるのだ。
つまり理論上、俺だけがこの【アイテムボックス】の魔術を使いこなせるということだった。
『俺だけが使える』――その一点が俺の中二心をくすぐる。
しかし、敢えて『理論上』と言ったのは、俺もまだ使えていないからだ。
何故なら【アイテムボックス】の魔術の根源である【時空魔術】――それ自体がとてつもなく難しい技術なのである。
魔術の理論は、扱う魔術の元となる元素のことをどれだけ理解しているかということに繋がってくる。
例えば火の魔術を扱いたければ火に関しての知識がなければダメだし、水の魔術を使うにしても水の知識がなければ魔術は発動しない。
その点、俺には前世の知識――学生時代に習った化学の知識があった。だからこそ俺は誰よりも早くその辺に関しては理解出来たと思われる。俺が異常なまでに魔術を覚えるのが早かったのは、その辺の事情も一因になっていた。
しかし、【時空魔術】に関してはその限りではない。
何故なら前世では【時空】や【異次元】に関して勉強する機会など全くなかった。それゆえに俺は一から勉強しなければならなかった。
しかも【時空魔術】の理論そのものが極めて難しく、この世界でもその魔術を扱える者は片手で数えられるくらいしかいないのではないかと思う。それほど難しいのだ。
実際俺も誰かが使っているところを見たことがないし、だからこそ【流体魔道】にてその魔力の流れを『視る』ことも叶わないでいる。出来れば実際使われるところを見てみたいのだが……。
【時空魔術】はまさに【賢者】の領域。そう言っても過言ではなかった。
だが、だからこそ燃える。
何より【賢者】って呼ばれてみたい。
それに【時空魔術】は【アイテムボックス】として利用する以外にも色々と便利そうなのだ。絶対に覚えておいて損はない。
【時空魔術】は【流体魔道】を使える俺だからこそ向いている魔術だ。
俺はそのように確信していた。
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