肉体のみで異世界最強?! ~周りが弱すぎて話になりません!~
すでに日が暮れ、風もひやりと冷たい。つま先の野草は先ほどまでここが軍靴に蹂躙されていたことをしっかりと記憶しながらも立ち上がり、揺れている。
遠くまで見通すことはかなわず、明かりは空に輝く大きな月のみである。
朦朧とした自我の中で、しかし、気力が少しずつ戻ってくるのを感じていた。
初めて戦場に立ち、力をふるった。勝利などどうでもよかった。ただひたすら生き残るために自分の本能に従った。
常に多対一を強いられる中で伯父も弟も最後は飲まれるように見えなくなった。
あえぐ余裕もなく押し寄せる敵、撃退の希望など全く見えずひたすらに戦い続けた。
怒号がやんだのはいつだったか覚えてはいない。気づけば一人、座り込んでいた。
自分の体がとても大きな操り人形のようで、操縦主の自分自身とは別物のようだった。
暴力をふるい続けた体が、打って変わってピクリとも動かない。
恐ろしい。いとも簡単に生を奪い、涙すら流さないこの体が。
ひやりとした風が背中をなでる。
ふと、血や臓物のにおいに混じってノムルの花の嗅ぎなれた香りがした。
あぁ、みんな死んでしまった!!
いったん溢れ出した涙は止まらない。
生き残った。 死ななかった。 死んでしまった。 、、、たくさん殺した。
そこに生の喜びなど一切なかった。思い浮かぶのは敵味方問わず、死に直面した、顔、顔、顔。
青白い月と、血と泥にまみれどす黒くなった顔が不思議と重なる。
焼けるような痛みと同時に骨を砕く感覚、肉を裂く感触も戻ってきた。
誰だ!戦場でこそ生を感じるなんて言ったやつは。最低だ。最悪だ。
早く帰りたい。
豊かではないが美しい、アナムルへ。
「魔物でも泣くんだな。」
「そんな話は来たことありませんけどねぇ。ナオト様といると珍しいものに出会えますから、研究者冥利に尽きます!」
「げっ、こいつアームルキングじゃん♡ ねぇねぇナオト、ペットにしてもいーぃ?」
「まだ息がある。ナオト殿、こいつは倒しておくべきだ。」
ニンゲンの声を聞いた途端、風も香りも感じなくなった。全身に恐ろしいほどの力が巡る。聞こえるのは自分の荒い息遣い、見えるのは4体のニンゲンのみ。
「ペットはもういいだろ。楽にしてやる。」
「死体は私の研究所に転送してくださいね?」
「おう、わかった。」
「えーーー」
「妥当な判断だな。」
もう夜が明けるだろうか。すっかり立ち直った緑が薄暗い中で揺れている。増えた死体のにおいに混じってまた、ノムルの花の香りがした。




