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05 新しい友だち。




「あなたが、本物のカリー?」


 パドックさんの庭仕事を終えて、軽く荷ほどきをして、必要なものをメモしてから家族皆で街に出た。ちなみにレーティーはお留守番。

 その街のショッピングモールで、外食をすませて買い物をしていたら、そう話しかけられる。

 プラチナブロンドに赤いリボンをつけて、ハーフツインテールにしている女の子が仁王立ちしていた。強気に眉が上げられている。瞳はブルーアイ。

 後ろには、褐色の肌の女の子が覗き込んでいる。

 二人とも、年齢は私と同じくらい。


「うん……カトリーナ・セルペン。カリーでいい」


 初めて本当の名前をフルネームで名乗った。

 私は今母と雑貨店にいる。父も兄達も、どこかに行ってしまったのだ。

 私のことって、街中に知れ渡ってしまっているのだろうか。


「あら。セイディ、サブリナ。お母さん達も来ているのかしら?」

「アラリックさんと話しているところです、あっちです」

「挨拶してくるわね。カリー、一緒に学校へ通うことになるお友だちよ」


 母はそれだけを伝えると、私を置いて父と彼女達の親を探しに店内を行った。

 なるほど。私と同じ魔法使いのタマゴってわけか。

 魔法使い同士、親しい仲の家族に、私のことを話したようだ。


「えっと……もう一人のカリーとは親しかったの?」


 私はちょっと敵意を見せているような女の子達と向き合った。


「ただの人間のカリーのことなんてどうでもいいのよ! あなたの功績を聞こうじゃない」

「功績?」


 親しくなかったみたい。

 何を言っているか、わからなくて首を傾げる。


「今まで使った魔法よ!」

「セイディ、声を大きいよ……」


 私も大きな声に、びっくりしてしまった。

 どうやら、プラチナブロンドの女の子がセイディで、褐色の肌の女の子がサブリナのようだ。

 幸い子どもが魔法なんて言っていても、遊びだと思われるだろうから大丈夫だろう。


「あたしは、五歳の時に本やおもちゃをいーっぱい宙に浮かせたんだから! サブリナはプールを溢れさせたのよ!」

「あっ。そういうこと……」


 魔法使いの子どもは、泣いた時とか怒った時に、魔法を発動させるらしい。

 昨日、兄達はそれが聞きたかったのだろう。


「私は……そういうことは全然ないの。……あっ! エンゼルヘアなら見える」

「!?」


 エンゼルヘアが見えるのはすごいことみたいだから、言ってみた。

 そうすれば、セイディはこれでもかとブルーアイを見開く。


「エンゼルヘアが見えるなんて、すごい……わたし、声しか聞こえないのに」


 サブリナが、ポツリと呟いた。

 やっぱりこれは自慢していいらしい。


「な、ななっ……! あたしよりすごいなんて! 認めないんだから!」


 セイディがわなわなと震えた。


「どうかしたのか?」


 そこに声をかけてきたのは、テオドリックだ。

 セイディは、びくんと肩を震え上がらせた。


「テオ……!」


 そう呼んだ声が、わずかに弾んでいるように聞こえる。


「挨拶はすんだか?」

「え、ええ!」


 両手を合わせて頷いて見せるセイディは、明らかに上目遣いをしているように見えた。


「そうか。セイディもサブリナも、カリーと仲良くしてくれ」

「はいっ!」


 テオドリックの言葉に、元気良く頷くとプラチナブロンドが揺らめく。

 私はそっと笑ってしまった。

 セイディはテオドリックが好きなんだ。


「よろしくな」


 テオドリックはセイディとサブリナの頭を撫でて、また離れていった。

 頬をリンゴ並みに赤く染めたセイディは、頭を押さえる。嬉しさ一杯な様子で、足踏みをした。


「そういうことだから!」


 微笑ましく見ていたら、セイディが私に向き直る。


「仲良くしてあげるわ! カリー!」

「よろしくね、わたしはサブリナ」

「よろしく。セイディ、サブリナ」


 テオドリックのおかげで、穏便に友だちになれた。

 あとでお礼を言っておこう。

 私は、二人と握手をした。


「もう一人のカリーとは本当に仲良くなかったの?」

「平凡で退屈だった」


 普通の子だもの、しょうがない。


「最悪なのは、あのリック兄弟の悪口ばかり言うところ!」


 セイディは人差し指を立てて詰め寄った。


「え? 悪口を言う子だったの? いいお兄さん達に思えるのに」

「こんな世界ありえないって、言ってたよね」


 サブリナは苦笑いを漏らす。


「私も、馴染めなったから……気持ちはわかる」


 私は目を背ける。ちょっといつかの違和感を思い出して、脳裏に項垂れた自分を思い浮かべた。


「“リック兄弟”について聞きたいな。寄宿学校でそう有名なんでしょ?」


 話題を変えて、調べてみる。


「知らないの?」


 信じられない! とセイディはまた声を上げようとした。


「昨日来たばかり。レーティーが先生だって聞いたけど、学校のこと詳しく聞いてないの」

「そうなの。なら、教えてあげるわ」


 立ち話をするのもなんだから、雑貨店を出て、近くの植木のそばのベンチに三人で並んだ。


「学校の名前は、ホスワノイート学校よ。アメリカ南部中の魔法使いの子どもが集まるの」

「ホスワノ、イート……」

「十一歳から入学出来て、七年通うんだよ」


 七年制の寄宿学校、ホスワノイート。


「お姉ちゃんの話じゃあ、上位の成績なんだって三人とも」

「特にテオはずっと一位を維持してるんだって! 本当かっこいい……はぁ」


 テオドリックに相当メロメロらしいセイディは、ため息を溢す。


「サブリナにはお姉ちゃんがいるんだね」

「うん、シオリックと同い年なの」


 シオリックは私の一つ上らしいから、歳の離れてない姉妹か。


「モテモテなの? リック兄弟は」

「そうよ! 人気なんだから!」


 セイディが胸を張る。ドーン、と。

 サブリナはクスクスと笑う。


「小学校の頃からそうなんだよ」

「スポーツも万能だし、優しいもの!」

「うん、優しい」


 私は同意した。

 まだ会って一日しか経ってないけど、優しくて好きだ。

 人気者の妹なんて、自慢だ。


「ねぇ、カリー。使い魔は決めた?」

「うん」


 セイディは話題を変えた。


「え? もう?」


 私の即答に、セイディは怪訝な顔になる。

 昨日魔法の世界を知ったばかりで、学校の名前も知らなかった私の返答が、嘘に思えたらしい。


「実はレーティーがなってくれたの」


 レーティーの紹介は不要だろう。

 二人は目をまん丸にした。


「「吸血鬼ヴァンパイアが使い魔ーっ!?」」

「しーっ!」


 嬉しい反応だけど、聞かれちゃいけないから声を潜めるように、唇に人差し指を当てる。

 レーティーを使い魔にしたことも、自慢出来る点だった。


「ホスワノイート学校で先生やってるんでしょ!?」

「そうみたい。あとから知った」

「ずるい! 先生が使い魔なんて……ずるい!」

「そうね、ちょっとずるいよね」


 私は頷いて笑うと、セイディが私の脇をくすぐってきた。

「ずるい〜っ!」と言いながら。

 ベンチに転倒した私は、くすぐったさに笑いを零す。

 そこで、親達が来た。セイディはくすぐることをやめ、私も起き上がって姿勢を正す。


「仲良くなったみたいね」


 母が胸を撫で下ろす。


「よろしく、カリー。セイディの母よ」


 最初に挨拶してきたのは、セイディの母。手を差し出してくれたので、私はベンチから降りて、その手を握った。

 プラチナブロンドの美女だ。


「わたしがサブリナの母親。カリー、よろしくね」


 サブリナと同じ褐色の肌をしていて、腰まで届くロングヘアはストレートだった。そんなサブリナの母とも握手をする。

 二人とも温かい眼差しで見てきた。気を遣いたそうなため、私は大丈夫だと示すように笑みを作る。


「レーティーを使い魔にしたなんて、すごいわね。将来有望に違いないわ」

「本当ね」


 どうやら母がもう自慢したらしい。


「エンゼルヘアも見えるんだって!」


 セイディが報告する。

「それも聞いたわ」と、セイディの母は我が子の頭を撫でた。


「それでスビュリーティピーにはいつ行くの?」


 セイディの母が、私の母に問う。


「カリーは新参者だから、もう少し家で過ごしてから行こうと思うの。ねぇ? あなた」


 母はやってきた父に確認する。

 父の両手で三つのジュースを持っていった。

「タピオカ入りジュースだよ」と、私達子どもに渡してくれる。

「ありがとう、アラリックさん」と喜んでセイディとサブリナは受け取った。私もお礼を言って、飲んだ。またマンゴージュース。美味しいので好き。


「そう、うちはレーティーがついているとはいえ、心配だからね。家で少し勉強させてから、スビュリーティピーに行こうと思う」


 母の肩を抱いて、そう答える父を見上げる。

 スビュ……なんとかって、どこのことだろう。

 会話を聞いていれば、なんとなくわかるかなって見ていたのだけれど、横から囁き声が教えてくれた。


「魔法のショッピングモールのことだよ」


 サブリナだ。

 ありがとう、と込めて微笑みを向ける。

 魔法のショッピングモールなんてあるのか。

 それは、なんとも期待が高まる場所だ。

 早く行ってみたいけれど、私にはまだ早いらしい。昨日魔法を知ったばかりだもの。もしかしたら、魔法のショッピングモールを見て、失神するかも。


「心細いでしょうね」


 サブリナの母が、私を心配してくれた。


「家族がいるので、大丈夫です」


 そう笑顔を見せれば「なんていい子なの」と感心される。

 ちょっと照れてしまう。


「来月には行こうと思う。上の子達の教材も揃えないといけないしね」


 父の言葉で、魔法のショッピングモールで学校の教材を買うために行くのだと知る。

 魔法の教材かぁ。期待が膨らむ。


「じゃあ、カリー。学校でもうちの子と仲良くしてね」

「うちの子もよろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 バイバイ、とサブリナとセイディと手を振って、お別れをした。


「さぁ、私生活の方の買い物を続けよう」


 父はそう言って、買い物を再開させる。

 そのうち、兄達が合流して「あれ買って」や「これ買って」とせがんだが、私のものが優先だと母はぴしゃりと言った。リオリックとシオリックはふてくされた顔になる。

 でも夕食用の七面鳥を買ってもらえると、機嫌は直ったようだ。

 家に帰ってきたら、母と手分けして買ったものを飾ったり、新しい服をハンガーにかけたりした。


「これ、全部カリーがスケッチしたの?」

「うん。ほとんど蛇の絵だけど」


 買ってもらった折りたたみ式の収納ボックスに、今までのスケッチブックをしまおうとしたら、母が手に取る。


「見てもいい?」

「どうぞ」


 私は許可を出した。

 十冊はあるスケッチブックの一つを、ペラッと捲る母の反応を待つ。


「まぁ……上手ね。向こうの両親から、描くことを教わったの?」

「ううん、自分から描き始めたの。レーティーの……あー、蛇の夢を描き留めようとしたのが始まり」


 レーティーの夢と言いそうになったので、言い直した。


「そう、画力はカリーの特別な才能なのね」


 母が遺伝とは言わなかったので、本当の両親も絵は描かないと理解する。

 ちょっとこのスケッチブックが誇らしくなってきた。

 ほとんどは、白蛇の模写。あとは手や似顔絵。ペンや机や積み重なった本。まだまだ未熟だけれど、これからずっと描いていけば成長するだろう。

 母は全部見たいらしいけれど、夕食の支度を忘れないでほしい。


「夕食は?」

「ああ、大丈夫。レーティーがやってくれるわ」

「レーティー……料理得意なの?」

「ええ。趣味で覚えたそうよ。たまに手伝ってくれるから、大助かり」


 二冊目のスケッチブックを手にして、母がそう答える。

 あんなに素敵な容姿で料理まで出来ちゃうなんて、きっとモテるのだろう。

 リック兄弟以上に、学校で人気に違いない。

 でも恋人や妻がいるわけではなさそう。指輪もしていなかった。


「レーティーには……ううん、吸血鬼ヴァンパイアも結婚はするの?」

「私が知り合った吸血鬼ヴァンパイアはしてないわね。あーでも吸血鬼ヴァンパイアの夫婦が、ロンドンにいるわ」


 スケッチブックに夢中になりながらも、母は教えてくれる。

 ロンドンには吸血鬼ヴァンパイアの夫婦がいるのか。吸血鬼ヴァンパイアは長生きする魔法の生き物らしいから、きっと文字通り永遠に愛し合うことを誓ったのだろう。そう思うと微笑ましい。

 そしてレーティーの他にも吸血鬼ヴァンパイアはいることがわかった。

 あとでレーティーから、聞き出してみよう。

 私は、新しい自分の部屋を見回す。丸い窓には、カーテンをつけないことにした。あまり陽が差し込まないからだ。日当たりが良くないのは、唯一の欠点だと思う。他は、文句なし。

 低い屋根も、楽しみを感じる。何か飾ったらどうかと言われたけれど、これはこのままでもいい。

 壁にはコルクボードをかけて、前の部屋で壁に貼り付けていた絵を貼る。タイトルをつけるなら「白蛇と私」だろう。首に巻いた蛇と頬ずりした私によく似た女の子の絵。

 木造の机の上には、買ってもらったペン立てと黒い猫型の筆箱を置いた。

 タンスの中身は、お気に入りの服と新しい服でいっぱいだ。空になったトランクケースは、隣に置いてく。

 でも夏が終われば、出番がくるだろう。


「私達が通うホスワノイート学校ってどんなところ?」

「素敵なところよ。お城みたいで広くて、きっと気に入ると思うわ。森の中にあって、決して普通の人間には見付からない。間違っても迷い込んだりしないわ。魔法使いだけだから、心置きなく魔法を使える。最初に教わることなんだけど、魔法使いのタマゴはね、むやみやたらと魔法を使っちゃだめなのよ」


 母は三冊目のスケッチブックから目を離して、私に向けた。


「まぁ、レーティーがついているなら心配ないわね。カリーも分別はついているみたいだし」


 魔法がファンタジーに分類されていることから、明るみにしてはいけないものだということは理解しているつもりだ。

 レーティーへの信頼は、とても厚い。

「大丈夫」と私はむやみやたらと魔法を使ったりしないと答えた。


「今日は魔法で水やりをしたけれど、それはカウントされちゃう?」

「この辺なら大丈夫。他のところではだめよ?」

「わかった」


 笑顔で頷いて、私は「下に降りるね」と一言伝える。

 母の返事を聞いて、屋根裏部屋から降りた。



 

20190228

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