表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/10

02 違う世界。




 私は、私の本当の家族の元に戻ることとなった。

 戻る、そういう表現が正しいかどうかわからない。

 きっと戻るで正しいのだろう。だって、本来の家族の元なのだ。

 私は、違う両親と共に取り違えた病院に向かった。赤ん坊の取り違いという私達、二つの家族の身に起きた悲劇のその病院に。

 必要な荷物は持った。たくさんのスケッチブックに、お気に入りの服。お気に入りのトランクケースに詰め込んだ。もちろん、違う両親には許可をもらった。

 近所の病院と大差変わらない大きさの病院の名前は、サンビレッチ。

 その待合室に入ると、すでに本当の家族がいた。

 あらかじめ、本当の家族は三人の兄がいる六人家族だと聞いていたけれど、五人の姿を見た時、私は正直驚いてしまう。大人数だと。歳がそう離れていなそうな少年が三人いるけど、背が高い。

 私の本当の家族といる同性同名のカトリーナを見た時も、驚いた。母だと思っていたトリーナによく似ていた顔立ちをしている。ロングの髪は黒。彼女の娘だ、と思う。

 私は本当の家族を見た。皆が赤みの強い茶髪だ。

 ーーああ、私の家族だ、と思った。

 漠然としていたけれど、実感がわずかに湧いてくる。

 同性同名のカトリーナとすれ違って、本当の家族に近付く。


「あなたが、カリーね」


 最初に口を開いたのは、本当の母親であろう人。ストレートのロングヘアーと四人の子を持つとは想像つかないスレンダーな体型をしている美しい女性。浮かべている朗らかな笑みも、なんだかぎこちなさを感じる。

 でも温かく見つめてくる瞳に、涙を込み上がらせて、やがて腕を広げた。


「私の本当の娘」


 その言葉が、じんわりと胸の中に染み渡る。

 私は彼女に抱き締められた。

 記憶の中では、初めての本当の母親の抱擁。温かいものだった。


「ごめんね、早く気付いてあげられなくて、ごめんね」

「……」


 なんて言えばいいかわからない。

 自分の子どもじゃないなんて、そう簡単には思えないだろう。

 だから、気付けただけですごいと思う。思うだけで、私は言えなかった。

 ちょっと抱き締められていることが、苦しいくらいだ。

 なのに、本当の父親と兄三人も、母親ごと私を抱き締めてきた。

 ーーーーこれが、私の本当の家族の温もり。


「これからは一緒だ」


 本当の父親が言った。

 キリッとした印象の眉の持ち主。でも母親によく似た朗らかな笑みを浮かべる人だった。


「さぁ、我が家に帰りましょう!」


 しばらくして離してくれた母親は、涙を拭うとそう笑顔で提案する。

 同じく本当の家族と再会して涙しているサムとトリーナに、私は頭を下げた。


「お世話になりました。……ありがとうございます」

「ああ……」

「元気でね……」


 今までお世話になったことに、お礼を言う。

 本当の娘を抱き締めながらも、言葉を返してくれた。

 そこでひょいっと手にしていたトランクケースを奪われる。兄の一人が、黙って取ったのだ。


「ほら、カリー。行くぞ」


 別の兄が、待合室のドアを開いてくれる。

 初めて、名前を呼ばれた。

 ぼーっとしていれば、最後の兄に背中を押されて、待合室から出される。

 私はこの兄達の名前を覚えられるだろうか。

 いきなり兄が三人も出来るなんて、戸惑ってしまう。

 本当の家族と十年ぶりに会っただけでも、かなり困惑しているけれど。

 きっとこれは序の口に違いないのだろう。

 だって、私は本来の家庭で過ごし、本来の生活を送るのだ。

 戸惑いもあるだろうけれど、これでやっと今まで抱いてきた違和感とはおさらばできる。新しい人生に期待。そんな高揚感もあった。


「実の娘に自己紹介なんて、変な気もするが……しょうがないな。父のアラリックだ」

「サリーナよ」


 少々ぎこちなさを出して、本当の両親が自己紹介する。

 母サリーナなんて、今更シャイな風に手を振って見せた。


「んーもう、美しい娘!」


 また涙ぐみながら、私の顔を抑え込むと晒した額にキスをする母サリーナ。


「キスもハグも家に帰ってからいくらでも出来るだろ、母さん」


 一人の兄が言った。


「お前達も挨拶しないと、カリーが困るだろう」


 そんな息子に向かって、父アラリックは笑って伝える。


「長男はテオドリック、トランクケースを持ってたやつな。オレは次男のリオリック」

「オレが三男のシオリック」


 うっ。似た名前ときたか。

 間違えてしまいそうだ。

 そうでなくても、人の顔と名前を覚えるのは苦手。

 兄テオドリックは、父親に似てキリッとした印象の眉をしていた。


「学校じゃあ、“リック兄弟”って呼ばれてるんだぜ」


 兄シオリックが、無邪気に笑いかけてきた。キリッとした眉ではないので、柔和な感じ印象。赤みがかった茶髪は、短くてサラサラしていそう。

 学校じゃあ、って。

 学校で有名なのだろうか。ちょっと疑問に思った。

 顔立ちもスタイルもいいから、モテているとか目立っているのだろうか。


「学校の話は後回しだ」


 父アラリックが、厳しい口調で言う。

 兄二人は、顔を背けた。その反応にも、ちょっと引っかかりを覚える。

 まるで学校の話は、してはいけないみたいだ。

 私も夏休み明けは、どの学校に行くのか聞けなかった。

 それはのちのち聞けるだろう。後回しだって言ったし。


「覚えた? まぁ、そのうち慣れるわ」


 母サリーナは、そう笑いかけてくれると私と腕を組んだ。

 彼女の方が、背が高い。私も彼女くらい背が伸びるのだろうか。

 お揃いの色の髪を見て、ちょっと照れて俯いた。


「髪、短い方が好きなの?」

「そう、うん……。短い方が楽、だから」


 どんな言葉を使うべきか、わからない。

 敬語なんて、よそよそしいと思われるだろうか。

 初対面とは言え、家族なのだから。

 本当の血の繋がった家族。


「伸ばしてみて、きっと似合うわ。一緒に手入れをしましょう」


 なんて、母はそう伝える。私の前下がりボブの髪を一房持つ。


「キューティクルが足りないわね。私の髪みたいにつやつやになる特製のローズオイルをあげるわ」


 触ってみて、と長い髪を差し出されたから、触れてみる。

 確かに私の髪よりも、つやつやしていた。


「特製?」

「母さんがバルコニーで育ててる薔薇ローズとかで調合したものだよ。スパイスも得意なんだ」


 兄が一人振り返ったが、もう誰なのかわからなくなってしまう。

 申し訳ない。もう一度名乗ってもらえないだろうか。

 専業主婦だって、聞いていた。四人も子どもがいるのだ。家庭のやりくりは大変だろう。そんな中、オイルやスパイスも作れちゃうのか。すごい。

「特に薬がね」と、にししっと笑うと、片方に小突かれた。


「バルコニーに薔薇ローズがあるんだ……」


 どんな家かは聞いていないけれど、バルコニーに期待が膨らむ。


「家は狭いよ」


 もう一人の兄が、振り返る。家の想像していたことを見抜かれた。


「狭いとはなんだ」


 父が怒った声を放つ。


「我が家は立派だ」


 兄二人は、やれやれと言った様子で前を向いた。

 どっちがリオリックで、どっちがシオリックだろうか。

 私は密かにその答えを探していた。でも見付けられず、病院を出る。


「カリーがどんな家で育ったのかは知らないが、うちはうちで立派だぞ」


 父が、私に優しく笑いかける。自慢げに見えた。


「楽しみ」


 私は精一杯の笑みを返す。


「どんな家で育ったんだ? カリー」


 駐車場に向かっているのだろう。兄が一人、また振り返った。

 先頭にいる兄テオドリックは、トランクケースを持って一度も振り返ってこない。彼はテオドリック。それは確かなはず。

 今振り返ったのは、どっちだろうか。


「えっと……」


 どんな家で育ったかなんて、皆が普通だと答えるだろう。

 皆が普通、その生まれ育った家を基準にする。

 私は普通じゃない。例外だ。

 これから向かう場所が、私の普通の家になる。


「庭があって、ブランコがある……そんな二階建ての家」


 普通。その言葉は、省く。


「勝った! こっちは三階建て!」


 片方の兄が、声を上げた。

 三階建てなら広い家だろうと思うのは、私だけなのか。


「一階はリビングとダイニングがある。二階が両親の寝室。三階がオレ達子ども部屋。わかりやすいだろ?」

「あ、うん」

「迷子にはならない」


 父親をちらりと見て、兄二人はニヤついた。

 そうか。横に広くなく、縦に広い家なのかも。


「賑やかで困るでしょう? 寂しかったんじゃない? 一人っ子の生活は」


 母が私の手を握って、気を引いた。


「えっと……私は……」


 口ごもる。だって寂しいと思ったことはない。

 生きている世界が、違うとしか感じていなかった。

 家族とも子どもとも距離を感じていたのは、孤独と言えるか。

 一人、庭のブランコで過ごしていた時、違和感に浸っていた。

 そんな時間は、孤独と呼べるものなのかもしれない。


「内気だから、一人の時間をもらってた……」


 私はそう答えた。


「内気だって? うちのファミリーに、内気な性格がいるのかよ」


 兄の一人が笑う。


「内気なものか。ちゃんとオレ達と話せているじゃないか」


 もう一人も、笑っては否定をした。


「気弱にも見えないしな」


 父も会話に加わる。


「母さんに似て、きっと強気なはずだ」


 そう言って、私の頭を大きな手で撫でた。

 ……そうかな。


「ちょっと大人びえている気もするわね。しっかりしている感じ」


 母が見たまんまを言ってくれる。

 性格って、親から引き継がれるものだろうか。

 それとも生きていている間に、出来上がるもの?

 まだ十年しか生きていない私には、わからなかった。


「ああ、この車だ。乗ってくれ」


 赤い大型の車のところで、足を止める。

 トランクケースを持った兄は、後ろに回って積む。


「あの、ありがとう……テオドリック、お兄さん」

「……」


 私の顔を見た兄に、ちょっと冷やせをかいた。

 じとりと見下ろしてきた彼の名前を、間違えたのかもと過ぎる。


「お兄さんなんて堅っ苦しいな。名前で呼んでよ。オレはリオ」

「オレはシオ。長男のことは、テオがいいよ」


 兄なんていなかったから、知らなかった。名前呼びがいいのか。

 本当にそれでいいのかと、私はテオドリックを見た。


「……」


 あ、この人は、私が気に入らないのだろうか。

 私はちょっと不安に思った。笑った顔をちっとも見せない。

 でもコクリと頷いた。名前呼びを許したのだ。

 そして、車の奥に乗り込む。

 私はどこに乗るべきかと、とりあえず母を見た。


「おっと! いつも通り母さんは助手席に乗って!」

「これからはオレ達の番!」


 一緒に真ん中の座席に座ろうとしたけれど、その前にリオリックとシオリックが私の手を取る。

 元気な二人に、質問責めにあうのか。

 母が離れる。とても離れがたそうに。

 母は助手席に座り、父が運転席に座る。私は真ん中の右席に座り、左にはたぶんシオリックが座り、リオリックは後ろの席にテオドリックと並んだ。


「では、我が家に出発!」


 そう父は車を発進させた。


「で? 覚えた? オレは誰でしょう?」


 左に座るたぶんシオリックが、意地悪な質問をしてくる。


「シオ?」

「せーかい!」


 ホッと胸を撫で下ろす。

 シオリックが左で、リオリックが後ろね。

 これなら間違えなさそう。


「カリー。何が好き?」


 後ろから身を乗り出して、リオリックが質問をする。


「何って、例えば?」

「とびっきりこれが好き! ってものは何?」


 んーと顎に人差し指を当てて、私は考え込んだ。


「スケッチ。趣味なんだ」

「へぇー絵を描くのか! なんの絵が得意?」

「蛇」


 すらっと答えたそれに、前に座っている母と運転している父さえも驚いたように振り返った。運転中だから、すぐに前に向き直る。でも耳を傾けていることはわかった。


「蛇?」

「ええ、蛇。夢に出てくるの、よく」

「……」

「……」


 意味深に、兄達は顔を合わせる。


「え? 何? どうかしたの?」


 蛇は苦手だと言うファミリーなのだろうか。

 でもシオリックを見ると、目を輝かせていた。

 期待一杯といった様子に思える。その反応は、なんだろうか。


「私達のファミリネームを聞いていないのかい?」


 父が確認する。


「セルペン……」

「蛇という意味の名前から取ったと言われているんだ」


 ファミリーネームは、セルペン。

 私は驚いて目を見開く。


「本物の妹だ!」


 喜んだようにシオリックは、私の頬を摘んだ。


「ねーもう、話していいんじゃない?」


 そして両親にそう問いかける。


「だめよ、慎重にするって話し合って決めたでしょう」


 母が厳しく返した。


「オレ、絶対大丈夫だと思うんだけどなー」


 シオリックは、座席に凭れる。

 私はなんの話か聞きたかったけれど、まだ話してはいけないようなので、触れないでおこうと思った。


「えっと……もう一人のカリーは」


 自分で言って、ちょっと変な感じ。


「どんな風に接していたの?」


 シオリックはぐったりした。


「あなたはあなたでいいのよ。カリー」


 優しい笑みと言葉を寄越してくれる母が振り返る。


「もう一人のカリーは……なんて言うか、そうね」


 口ごもりつつも、質問に答えようとしてくれた。


「うちには馴染めなかった」

「そう、か……」


 もう一人のカリーも、私と同じように違和感を覚えていたのだろうか。


「こんな家もう嫌ーっ!」


 甲高い声を上げるのは、右隣のシオリック。

 どうやらもう一人のカリーのモノマネみたい。


「蛇が苦手だって言うんだ、うえーってなるんだって。信じられるか?」


 シオリックは同意を求めてきた。


「私は好きだけど……」


 それしか答えないでおいた。

 一般的な女の子は、苦手だと思うだろう。


「当然だね、セルペン家なんだから」


 ニヤリと笑った。


「ところで、友だちはどう? やっぱり悲しいお別れをした?」

「うん……」


 同じ学校には行けないと話して、お別れ会をしてもらったのだ。


「悲しかったけど……」


 惜しみ泣いてくれる友だちを見て、胸を締め付けられた。

 それでも、なんでも話せるような友だちはいなかったから。


「でも新しいところで作れるように努力する」

「んーやっぱり内気って感じじゃないなー」


 シオリックは、ニコニコした。

 前向きな姿勢が、そう思われるみたい。


「友だちはいっぱいだった?」

「んーそれほど多くはない」

「何か奇妙なことは起きていないか?」


 リオリックのあとに質問をしてきたのは、驚くことにテオドリックだ。

 私には興味ないとばかり……。


「奇妙なことって?」

「ああ、なんでもないよ」

「摩訶不思議な出来事」


 リオリックが誤魔化そうとしたけど、テオドリックは答える。

 そんな妙な質問をされても、一応考えてみた。

 摩訶不思議な出来事。


「例えば、怒った時とか、感情が高ぶった時に何か起きなかった?」

「……私、怒ったことないから……」


 シオリックも尋ねてきたが、感情が高ぶるようなことも、起きたことない。


「怒ったことがないだって? この十年? 泣いたこともないの!?」


 シオリックは、これでもかと驚いた。

 私は、特に泣いたことはないと頷く。


「そんなのどう生きてきたら出来るんだ?」


 リオリックまでもが驚いているみたい。


「友だちといる時は楽しいことばかりだったし……喧嘩もしたことないし……違う両親と喧嘩したことないから」

「穏やかなのね」


 母が振り返った。


「オレ、カリーを怒らせたい! 何が起きるかな」


 シオリックは目を爛々に輝かせる。

 何が起きる……?


「やめなさい。やめなさいよ、シオリック」


 母は釘をさした。

 変な話ばかりが出てくることに、首を傾げてしまう。


「さぁ、我が家に着いたぞ」


 父の言葉を聞き、私は窓を見た。

 住宅街ではない。雑木林が続いていれば、開けた場所に出る。

 とうもろこし畑の中に、ポツンとある三階建ての家。煉瓦の壁だということは、遠目でもわかった。

 歴史ある建物って感じだ。

 そこが私の家になるのだと思うと、ドキドキした。

 これから「ただいま」と言う場所。

 ここも違う、なんてワガママが過ぎらないといいけど。


「ちょっとここで待っていてくれ。あ、後ろを向いて」

「いいって言うまで入らないで」

「え? うん……」


 車から降りると、父に肩を掴まれて後ろを向かせられた。

 シオリックとリオリックがそばにいて、母はワクワクして堪らないといった様子で両手を握ってはそれを振る。

 何があるんだろうか。

 私を盛大に歓迎するパーティー?

 親戚が集まっていたりするのだろうか。気恥ずかしい。

 ただでさえ、五人も家族がいるのに、もっと紹介されるのは困る。

 私は覚えられない。苦手なのだ。

 また緊張を抱いた。

 胸を抑えて大人しく待っていたら。


「カリー」


 そう呼ばれて、肩に手を置かれる。


「もう入ってもいい?」


 無邪気な二人の兄の手だ。


「どうぞ!」

「ようこそ、我が家へ!」


 私の手を取ったリオリックとシオリックは、玄関まで手を引いてくれた。

 そして、白い塗装のドアが開く。

 そこに押し込まれるようにドアを潜り、家の中に入った。

 最初に目にしたのは、満面の笑みの母と父が、家の中心の螺旋階段前に立っているところ。

 パンッと弾ける破裂音に、ビクッとして音の出所を見た。クラッカーだ。でも、ただのクラッカーではないことは、二度見してから気付いた。

 三つのクラッカーが、左右の宙に浮いている。誰も持っていないのだ。

 兄二人は、後ろにいるはず。テオドリックは、階段の手摺に腕を置いてこっちを見ていた。

 私は何を目にしているのだろうと、凝視してしまう。

 クラッカーからは、紙吹雪が延々と出てきていた。どうしてそんなに紙吹雪を出せるのだろうか。仕組みがさっぱりわからない。

 母と父が手を振った動きをした。そっちに目を向けると、「おかえり、カリー」の文字が書かれた紙が浮かぶ。風船のようにふわふわと、これもまた宙に浮いている。

 それからパンパンッと、小さな小さな花火が華やかに咲いた。

 でも家の中で花火なんておかしい。ありえない。

 でも現実に目の前で起きた。

 宙を浮くクラッカーも歓迎の紙も小さな花火も、私が目にしている。


「おかえり、我が家へ。そして、本当の世界へ!」

「魔法の世界よ!」


 父と母が嬉々として言ったその言葉が、私の中で木霊した。

 本当の世界。ーーーー魔法の世界。

 この十年間、違う世界に生きていると感じていた。

 私のいるべき世界は、この魔法の世界なのだ。

 ひたすら浮かべていた驚きの表情を、私は笑みに変えた。

 私が求めていた世界がーーーーここだ。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ