第8話『ちょっと、門限があるから』
〜前回までのあらすじ〜
出オチキャラ、登場!
「彼が僕の兄です。一応デザイナーをやっていまして・・・」
「こら、貴博。お姉さんでしょ!なんちゃって~」
NIKKOの言葉に苦笑いで応じつつ、月島は今度は安田たちを兄に紹介する。
「ヨロシクね、お二人さん」
NIKKOは『二人』と言いつつ安田の方だけを見つめて言った。
「はぁ」
安田はその不気味な視線が気になって、それしか言葉が出ない。
一応、次の句も考えてはみたが、霊の事に詳しいわけでもないので、やはりそれ以上の言葉は出なかった。
安田の助けを求める視線に気付いてなのかは分からないが、木津が代わりに話し出す。
「それでNIKKOさん。今回の依頼に関しての詳細をお聞かせ願いますか?」
「あぁ、そうなの。実はね、これはウチの従業員のコの話なんだけど。たまに会社に残って仕事する事があるんだけどね、その時になんか1階から変な音がするらしいのよ。それでこの前、ついにそのコが1階に様子を見にいったの。そしたらね・・・なんとマネキンが動いてたらしいのよぉ!どんだけ~どんびき~!!」
『マネキン』の辺りからNIKKOの声が急に大きくなったために、安田は体がビクッとなった。
「なるほど。それはここで泊まる時は、いつも起こる事なんですか?」
特に動じる事もなく、木津は尋ねる。
「そのコの話ではそうみたい。他にここで泊まった事があるコも、変な音はいつも耳にするって」
右手のひらを同じ側の頬に当てながら、NIKKOは答える。
「わかりました。ではとりあえず、その方にお話を聞かせていただいて宜しいですか?」
「ええ、モチロンよ。もうすぐ戻ってくると思うわ」
そうして安田たちはしばしの間、目撃者である、その従業員を待つことになった。
安田たちは入り口から見て、左手の方に位置する来客用の間に通され、紅茶と茶菓子を勧められた。
菓子を頬張りながら、安田はNIKKOにあることを尋ねる。
「そういえば、1階に誰もいませんでしたけど、今日は休みなんですか?」
「もし、悪霊と戦う事になったら、お客さんがいたら大変でしょ」
NIKKOではなく横から木津が答える。
「でも、そういう事態にはならなそうですね」
少し間を空けて、さらに木津が続けた。
「じゃあ、明日からお店は営業してていいのね?」
NIKKOが木津の言葉に反応する。
「先ほど一通り1階を見させていただきましたが、悪霊の類は確認できませんでした。後はマネキンが動くのを見たという、従業員の方にお話を聞いてから、今後の対応を決めていきたいと思いますが、ここで今どうこうという事にはならないでしょう」
木津の言葉にNIKKOはホッと胸を撫で下ろす。
「ただ」
木津はそう言うと、安田の方を向いて「夜中に様子をみる必要があるかもね」と言った。
「へ?」 安田は間抜けな声を出す。
「主に夜にだけ棲みつくタイプもいるのよ」
「・・・」
安田はそれ聞いた途端に黙り込んだ。
「なに?怖くなった?」
木津が目を細めて言う。
「いや、夜はちょっと」
安田はその一言だけ呟くと再び黙り込む。
(初日に泊まりって、母さん心配するだろうな。あまりバイト自体良く思ってないかも知れないのに・・・。でも、泊り込みでお化け退治ってのは、ちょっと面白そうではあるんだよなぁ。これでパートナーが可愛かったら、考えても・・・あっ、眼鏡を掛けたらコイツちょっと可愛いんだった。聞いてみよう)
「木津さんが眼鏡掛けるんだったら、泊まっても良いんだけど」
「え?必要なら掛けるけど、今のところ必要ないかもしれないじゃない。と言うか、意味わかんないんだけど。何でそういう考えにたどり着くわけ?理解に苦し・・・」
「いや、良いです。ちょっと親に確認とってきます」
木津の言葉を遮って、安田は携帯電話を手に、その場を離れる。
「無理しなくて良いのよぉ~」
NIKKOの言葉に軽く会釈をしつつ、安田は部屋を出て自宅に電話を掛けた。
(プププ・・・プルルルル・・プルルルル・・)
「・・・出ないな」
ある程度、待ってみたものの、電話が繋がる気配はない。
(買い物にでも出かけてるのかな?)
もう一度掛けてみるか考えていると、階下から声がした。
「こんにちは」
安田が下を見ると、スーツに身を包んだ若い男が立っていた。歳は二十歳後半くらいだろうか?黒髪でふち無しの眼鏡をかけており、真面目そうな雰囲気である。
「あっ、どうもお邪魔してます」
安田の言葉にその男は少し笑ってから「いえいえ、マネキンの件で来ていただいた方ですよね?わざわざご足労感謝します」と丁寧な言葉を並べた。
(お邪魔してますって、おかしかったかな?)
男の態度に安田はそう思ったが、男の笑い自体に嫌な印象は受けなかった。
「申し遅れました。私、加藤と申します。本日はどうぞよろしくお願いします」
「あっ、安田です。防霊課です」
安田もそう名乗ったが、『防霊課』という言葉に、加藤はピンと来ていない様子であった。
「あっ、とりあえず皆、2階で待ってます」
そう安田が言うと、加藤は「わかりました」と言ってそのまま2階に上がっていく。
安田は電話を掛けるために1階に降りようと、加藤とすれ違った。
(!?)
瞬間、安田の心臓が脈打つ。
すれ違いざまに安田は、加藤の背中に白い靄の様なものがついているのが目に入ったのである。
(何・・・アレ?)